機械材料の基礎:超硬合金

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機械材料の基礎:超硬合金

超硬合金とは

超硬合金は、主に炭化タングステン(WC)などの硬質な金属炭化物粉末を、コバルト(Co)やニッケル(Ni)などの鉄系金属(バインダー、結合材と呼ばれる)で焼き固めた焼結合金の一種です。その名の通り、極めて高い硬度を持つことが最大の特徴であり、金属材料の中でも特に優れた耐摩耗性、耐熱性を有しています。このため、主に切削工具や金型、耐摩耗部品など、過酷な条件下で使用される材料として、現代の製造業に不可欠な存在となっています。

主な構成要素と役割

  1. 硬質相(Hard Phase):
    • 炭化タングステン(WC): 超硬合金の主成分であり、骨格となる粒子です。ダイヤモンドに次ぐ非常に高い硬度(ビッカース硬さで約2000HV以上)を持ち、耐摩耗性の源泉となります。粒子径(粗粒、中粒、微粒、超微粒など)を調整することで、合金全体の特性(硬度と靭性のバランス)を制御します。
    • その他の炭化物・窒化物: 用途に応じて、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)などが添加されることがあります。これらは、特に高温下での硬度維持(耐熱性向上)や、被削材との反応を抑制する目的(耐溶着性、耐クレーター摩耗性向上)で加えられます。
  2. 結合相(Binder Phase):
    • コバルト(Co): 最も一般的に使用される結合材です。硬質相のWC粒子同士を結びつけ、合金に適度な靭性(粘り強さ、割れにくさ)を与えます。WC粒子をCoが包み込むような形で組織が形成されます。Coの含有量が多いほど靭性は向上しますが、硬度と耐摩耗性は低下する傾向があります。
    • ニッケル(Ni): 耐食性や耐酸化性を向上させたい場合などに、Coの代替または一部代替として用いられることがあります。

製造プロセス

超硬合金は「粉末冶金法(ふんまつやきんほう)」と呼ばれる特殊なプロセスで製造されます。

  1. 原料粉末混合: WC粉末とCo(またはNi)粉末、必要に応じて他の添加物粉末を所定の比率で精密に秤量し、ボールミルなどを用いて均一に混合します。
  2. プレス成形: 混合された粉末を金型に入れ、高圧でプレスして所望の形状に近い圧粉体(あっぷんたい)を作ります。この段階ではまだ脆い状態です。
  3. 焼結(しょうけつ): 圧粉体を高温(通常1300~1500℃程度、結合材の融点よりやや低い温度)の炉に入れ、真空または不活性ガス雰囲気中で加熱します。この過程で、結合材が硬質相粒子間を埋めながら溶融(液相焼結)またはそれに近い状態となり、粒子同士が強固に結合します。冷却後、緻密で硬い合金が得られます。焼結により体積は収縮します(通常15~25%程度)。
  4. 後加工(研削など): 焼結後の超硬合金は非常に硬いため、必要に応じてダイヤモンド砥石などを用いた研削加工や放電加工(EDM)によって精密な寸法や形状に仕上げられます。

主な特性

  • 高硬度・高耐摩耗性: 最大の特徴であり、他の金属材料(高速度鋼など)を圧倒します。これにより、工具の長寿命化や高効率な加工が可能になります。
  • 高温硬度: 高温になっても硬度があまり低下しません。これは、高速切削などで工具刃先が高温になる場合に極めて有利な特性です。
  • 高ヤング率: 剛性が高く、変形しにくい性質を持ちます。
  • 靭性: 一般的な鋼材と比較すると低い(脆い)ですが、結合材の量や硬質相の粒子径を調整することで、ある程度の靭性を確保できます。硬度と靭性は基本的にトレードオフの関係にあります(硬度を高めると靭性が低下し、靭性を高めると硬度が低下する)。
  • 高密度: 主成分のタングステンが重いため、密度が高い(鉄の約2倍程度)。

主な用途

その優れた特性から、多岐にわたる分野で利用されています。

  1. 切削工具: ドリル、エンドミル、フライス、旋盤用チップ(スローアウェイチップ)、リーマなど。鋼材、鋳鉄、非鉄金属、難削材など、あらゆる材料の加工に使用されます。工具分野での使用量が最も多いです。
  2. 金型・治工具: プレス加工用の抜き型・絞り型、粉末成形型、線引きダイス、圧延ロール、ゲージ、芯金など。高い耐摩耗性が要求される部品に用いられます。
  3. 耐摩耗部品: ノズル、シールリング、軸受、粉砕機部品、ガイドローラーなど、摩耗が激しい機械要素部品。
  4. 鉱山・建設用工具: トンネルボーリングマシン(TBM)のカッタービット、道路舗装カッター、削岩用ビットなど、岩盤やコンクリートの掘削・破砕用。
  5. その他: 高圧発生装置のアンビル、超精密加工用部品、一部の装飾品(傷がつきにくい)など。

まとめ

超硬合金は、炭化タングステンなどの硬質粒子をコバルトなどの金属で焼き固めた複合材料であり、その卓越した硬度、耐摩耗性、耐熱性により、切削工具をはじめとする多くの産業分野で不可欠な材料となっています。粉末冶金法によって製造され、成分の配合比率や粒子径を調整することで、特定の用途に最適化された様々な特性を持つ合金を作り出すことが可能です。硬度と靭性のバランスを取りながら、今後も技術開発が進み、さらに高性能な超硬合金が登場することが期待されます。

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