機械加工の基礎:射出成型

コラム加工学

射出成形は、熱可塑性樹脂を加熱して溶融させ、それを精密な金型の内部に高圧で射出し、冷却・固化させることで、目的の形状の製品を成形する加工法です。インジェクションモールディングとも呼ばれます。

この技術の工学的な本質は、自動車の部品、電子機器の筐体、医療器具、日用品のキャップに至るまで、極めて複雑な三次元形状の製品を、高い寸法精度で、かつ、一回のサイクルが数秒から数十秒という驚異的な速度で大量生産できる点にあります。現代のものづくりにおいて、プラスチック製品の製造を支える最も中心的で、不可欠な基幹技術です。


射出成形機:二つの主要ユニット

射出成形は、「射出成形機」と呼ばれる専用の機械によって行われます。この機械は、大きく二つの主要なユニットから構成されています。

1. 射出ユニット(注射器の役割)

射出ユニットは、固体のプラスチックペレットを溶かし、計量し、金型へと射出する役割を担います。その心臓部がスクリューです。

  • ホッパー: 原料となる米粒状のプラスチックペレットを投入する供給口です。
  • バレル: 内部にスクリューを内蔵した加熱シリンダーです。
  • スクリュー: 射出成形における最も巧妙な機構です。スクリューは、単に材料を前に送るだけでなく、以下の三つの重要な機能を同時に果たします。
    1. 輸送: ホッパーから供給されたペレットを、回転しながら前方へ輸送します。
    2. 溶融(可塑化): バレル外部のヒーターによる伝熱と、スクリューの回転によって材料が練り込まれる際に発生するせん断発熱により、ペレットを均一な溶融状態にします。
    3. 計量: 溶融した樹脂をスクリューの先端に溜めていきます。樹脂が溜まる圧力でスクリューは後退し、一回の射出に必要な量を正確に計量します。
  • ノズル: 射出ユニットの先端であり、金型への入り口と接続されます。

2. 型締ユニット(万力の役割)

型締ユニットは、金型を開閉し、射出時に金型が内部の圧力で開いてしまわないよう、強大な力で締め付ける役割を担います。

  • 型締力: 射出成形では、溶融樹脂が数十メガパスカルから、時には100メガパスカルを超える高い圧力で金型に充填されます。この圧力は、金型を押し開こうとする莫大な力となります。この力に打ち勝ち、金型を閉じたまま保持する力が型締力であり、成形機の能力を示す最も重要な指標です。
  • 型締方式:
    • トグル式: リンク機構(トグル)を利用し、小さな力で大きな型締力を発生させることができます。高速な開閉動作が可能です。
    • 直圧式: 油圧シリンダーで直接、金型を締め付けます。型締力の制御が精密に行え、大型の機械に多く用いられます。

成形サイクル:高速生産のプロセス

射出成形は、以下の4つの工程を高速で繰り返す、連続的なサイクル運動です。

1. 型締め工程

型締ユニットが作動し、金型(固定側と可動側)を閉じ、設定された型締力で強固にロックします。

2. 射出・保圧工程

  • 射出: スクリューが、回転を止めて、油圧または電動サーボモーターの力で、あたかも注射器のプランジャーのように前進します。これにより、スクリュー先端に計量されていた溶融樹脂が、ノズルから金型内部の空洞(キャビティ)へと、高速で射出・充填されます。
  • 保圧: キャビティが樹脂で満たされた後も、金型内の樹脂が冷えて固まるまでの間、一定の圧力をかけ続けます。これを保圧と呼びます。これは、プラスチックが冷却・固化する際に起こる体積収縮を補い、追加の樹脂を押し込むための、極めて重要な工程です。この保圧が不十分だと、製品の表面がへこむ「ヒケ」という不良が発生します。

3. 冷却・可塑化工程

金型内部に充填された樹脂は、金型に設けられた冷却水管によって急速に冷やされ、固体になります。この冷却時間は、成形サイクルの中で最も長い時間を占めることが多く、生産性を左右する鍵となります。

そして、この冷却時間を利用して、射出ユニットのスクリューは次の成形のために回転を再開します。回転しながら後退し、次のショットに必要な量の樹脂を溶融・計量します。この工程の並行動作が、射出成形の高い生産性を支えています。

4. 型開き・突き出し工程

樹脂が完全に固化したら、型締ユニットが金型を開きます。同時に、金型に内蔵されたエジェクタピンが、固化した製品をキャビティから物理的に突き出し、取り出します。これで1サイクルが完了し、直ちに次のサイクルの型締め工程へと移行します。


金型:品質を決定づける「核」

金型は、射出成形の品質とコストを決定づける、技術の結晶です。その内部は、単なる空洞ではなく、多くの機能部品が組み込まれた精密な機械装置です。

  • キャビティとコア: 製品の外観形状を転写する雌型と、内面形状を転写する雄型です。その表面は鏡のように磨き上げられ、ミクロン単位の精度で加工されています。
  • スプルー・ランナー・ゲート: ノズルから射出された樹脂を、キャビティまで導く「湯道」です。ゲートは、キャビティへの最後の入り口であり、その位置や大きさの設計が、製品の品質(ウェルドラインなど)を大きく左右します。
  • エジェクタ機構: 製品を突き出すピンの機構です。
  • エアベント: 射出の際、キャビティ内部に元々存在した空気を、外部へ逃がすための、目に見えないほど微細な隙間です。これが無いと、空気が断熱圧縮されて高温になり、樹脂が焦げる「ガス焼け」や、充填不良である「ショートショット」が発生します。
  • 冷却水管: 金型内部を効率よく均一に冷却し、サイクルタイムの短縮と、そり変形の防止を図ります。

工学的な課題と不良対策

射出成形は、時間、温度、圧力、速度という多くのパラメータが複雑に絡み合うプロセスであり、様々な工学的課題が存在します。

  • ヒケ(Sink Marks): 製品の肉厚が厚い部分で、冷却収縮に樹脂の補充が追いつかず、表面がへこむ不良です。保圧を適切にかけるか、製品の肉厚を均一に設計することで対策します。
  • バリ(Flash): 金型の合わせ面から、樹脂がはみ出してできる薄いヒレ状の不良です。型締力の不足や、金型の隙間が原因です。
  • ウェルドライン(Weld Lines): 金型内で、穴や障害物を迂回した溶融樹脂の流れが、再び合流する地点に発生する、線状の模様です。この部分は、樹脂が完全に一体化しておらず、外観上の問題となるだけでなく、機械的強度が著しく低下する弱点となります。ゲートの位置を変更するなど、金型設計段階での高度な流動解析が求められます。
  • そり・変形(Warpage): 金型から取り出された後、製品が冷却する過程での収縮の不均一によって、製品が反ったり、ねじれたりする不良です。金型の冷却設計や、成形条件の最適化が重要です。

まとめ

射出成形は、プラスチックという20世紀の偉大な発明を、最も効率的に、最も自由に、そして最も安価に、社会の隅々まで行き渡らせることを可能にした、革命的な製造技術です。

その本質は、樹脂の溶融、射出、保圧、冷却という、一連の物理現象を、金型という精密な鋳型の中で、秒単位で制御する、高度なプロセス工学にあります。金型という高額な初期投資と引き換えに、一度動き出せば、複雑な部品を驚異的な低コストで生み出し続けるその能力は、自動車、エレクトロニクス、医療、日用品といった、現代社会を構成するほぼ全ての産業の根幹を、力強く支え続けているのです。

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