機械加工の基礎:射出成型

コラム加工学

射出成形とは

射出成形は、プラスチック製品を製造するための最も代表的な加工方法の一つです。加熱して溶かしたプラスチック材料を、精密に作られた金型かながたという型の中に高圧で注入し、それを冷やし固めることで、目的の形状の製品を作り出します。

この方法は、複雑な形状の製品でも高い精度で、かつ短時間に大量生産できるため、自動車部品から家電製品、日用品、雑貨に至るまで、私たちの身の回りのあらゆるプラスチック製品の製造に用いられています。熱可塑性樹脂と呼ばれる、熱を加えると柔らかくなり冷やすと固まる性質を持つプラスチックが主に使われますが、熱硬化性樹脂やエラストマーといった他の種類の材料も成形可能です。

射出成形の工程

射出成形による製品作りは、主に以下の4つの工程を連続して繰り返すことで行われます。

  1. 型締め:製品の形状が彫り込まれた金型を、射出成形機の型締ユニットと呼ばれる部分で強力に閉じ、固定します。金型がきちんと閉じていないと、後工程で注入される溶融樹脂が高圧のため漏れ出してしまいます。
  2. 射出 : 次に、射出成形機の射出ユニットで、ホッパーから供給されたペレット状のプラスチック原料を加熱シリンダー内でヒーターによって加熱し、スクリュで混錬しながら溶かします。十分に溶けた樹脂、これを溶融樹脂と呼びますが、これをスクリュで前方に押し出し、ノズルを通して閉じた金型の内部空間へ高速かつ高圧で注入します。
  3. 冷却: 金型内部に充填された溶融樹脂は、金型に設けられた冷却回路を通る水などによって冷やされます。樹脂が固まるまで、一定時間圧力を保ちながら金型内で保持します。この冷却時間が製品の品質や生産サイクルタイムに大きく影響します。
  4. 突き出し: 樹脂が十分に冷えて固まったら、型締ユニットが金型を開きます。そして、金型に内蔵されたエジェクタピン突き出しピンなどの機構が作動し、固まった製品、すなわち成形品を金型から押し出して取り出します。これで一連のサイクルが完了し、再び型締め工程から次のサイクルが始まります。

射出成形機と金型

これらの工程は、射出成形機しゃしゅつせいけいきという専用の機械によって自動的に行われます。射出成形機は、プラスチックを溶かして金型へ注入する射出ユニットと、金型を開閉し高圧に耐えて閉じた状態を保つ型締ユニットから構成されています。

金型は、射出成形において製品の形状や寸法精度、品質を決定づける非常に重要な要素です。通常は、耐久性の高い特殊な鋼鉄などの金属材料から作られ、製品形状を転写するための精密な加工が施されています。金型は、製品の外側を形作るキャビティ側と、内側を形作るコア側と呼ばれる二つの主要な部分から構成されることが多く、内部には冷却のための通路や、成形品を突き出すための機構が組み込まれています。

射出成形の利点

射出成形には多くの利点があります。

  • 高い生産性: 一度金型を製作すれば、短いサイクルタイムで連続的に製品を生産できるため、大量生産に非常に適しています。
  • 複雑形状の実現: 精密な金型を用いることで、複雑な形状や細かいディテールを持つ製品でも一体で成形できます。
  • 寸法精度と品質安定性: 同じ金型から作られる製品は寸法精度が高く、品質が安定しています。
  • 材料選択の自由度: 様々な種類のプラスチック樹脂を使用できるため、製品に求められる特性に応じて最適な材料を選ぶことができます。
  • コスト効率: 大量生産の場合、製品一つあたりのコストを低く抑えることができます。自動化が進んでいるため、人件費も比較的低く抑えられます。

射出成形の課題

一方で、射出成形にはいくつかの課題や注意点も存在します。

  • 初期投資: 金型の設計と製作には高度な技術が必要であり、高額な費用と比較的長い期間がかかります。そのため、少量生産には向きません。
  • 設計上の制約: 金型からスムーズに製品を取り出せるように、製品には抜き勾配と呼ばれる傾斜をつける必要があります。また、製品の肉厚が不均一だと、ヒケくぼみやソリ変形などの成形不良の原因となるため、設計段階での配慮が求められます。
  • 成形不良: 適切な成形条件設定や金型設計・メンテナンスが行われないと、バリ樹脂のはみ出しやショートショット充填不足などの成形不良が発生する可能性があります。

主な用途

射出成形は、その優れた特性から極めて広範な分野で利用されています。

  • 自動車分野: バンパー、インストルメントパネル、ドアトリム、ランプハウジングなど
  • 家電・電子機器分野: テレビやエアコンの筐体、パソコンのキーボード、スマートフォンのケース、コネクタ部品など
  • 容器・包装分野: ペットボトルのキャップ、食品容器、化粧品容器など
  • 医療分野: 注射器のシリンジやプランジャ、分析機器の部品など
  • 日用品・雑貨分野: 文房具、おもちゃブロックなど、収納ケース、椅子など

まとめ

射出成形は、プラスチック製品を効率よく大量に生産するための基幹となる技術です。高い生産性、複雑な形状の実現能力、安定した品質といった利点を持つ一方で、金型に関する初期投資や設計上の配慮が必要となります。私たちの生活を支える多種多様なプラスチック製品の多くが、この射出成形技術によって生み出されており、今後も材料や技術の進化とともに、ものづくりにおいて重要な役割を担い続けるでしょう。

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