機械材料の基礎:MCナイロン

コラム材料工学機械材料

MCナイロンは、三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ株式会社の商標登録名称であり、一般的にはモノマーキャストナイロン(Monocast Nylon)と呼ばれているエンジニアリングプラスチックの一種です。基本的な原材質としては6ナイロン(ポリアミド6)と同じですが、製造方法が大きく異なるため、一般的な6ナイロンに比べて機械的強度、耐摩耗性、耐熱性、化学的性質、自己潤滑性など、多くの点で優れた性能を発揮します。

MCナイロンの製造方法

MCナイロンの製造方法は、カプロラクタムというナイロンのモノマーを、大気圧下で金型に直接注入し、重合反応を起こさせる「キャスト法」と呼ばれる特殊な製法を用います。この製法により、射出成形や押出成形といった一般的なナイロンの成形方法では困難な、大型の製品や肉厚の製品、複雑な形状の製品を、内部のひずみを少なくして成形することが可能です。また、高分子量の結晶構造が形成されやすく、これが優れた機械的特性の源となっています。

MCナイロンの特徴

MCナイロンの最も顕著な特徴は、その高い機械的強度と耐摩耗性です。特に、高荷重下での耐摩耗性に優れており、金属部品の代替として、過酷な条件下で使用される機械部品の寿命向上に貢献します。また、耐衝撃性にも優れ、外部からの瞬間的な力に対しても高い抵抗力を示します。さらに、自己潤滑性を持つため、金属との摩擦を低減し、騒音の抑制やメンテナンスの軽減にもつながります。

耐熱性もMCナイロンの大きな特徴の一つです。一般的な6ナイロンよりも高い連続使用温度を持ち、高温環境下でも機械的強度を維持することができます。また、多くの油や有機溶剤に対して優れた耐薬品性を示しますが、酸には弱いという性質があります。電気絶縁性にも優れており、電気部品の絶縁材料としても利用されます。

一方で、ナイロン系の樹脂全般に共通する性質として、MCナイロンも吸水性があります。吸水すると寸法が変化したり、機械的強度が低下したりする可能性がありますが、一般的な6ナイロンと比較すると吸水率は低く、吸水速度も遅いとされています。しかし、高精度な寸法安定性が求められる用途や、水分の多い環境下での使用には注意が必要です。

MCナイロンのグレード

MCナイロンには、様々なグレードが存在し、用途に応じて使い分けることができます。基本的なグレードであるMC901は、機械的強度、耐摩耗性、耐熱性、化学的性質のバランスに優れており、幅広い用途に使用されます。MC801は、MC901に特殊グラファイトを配合することで耐候性を向上させたグレードで、屋外での使用に適しています。MC703HLは、さらに自己潤滑性・耐摩耗性に優れた摺動グレードであり、摩擦係数を低く抑えたい用途に用いられます。その他、導電性や帯電防止性、食品衛生法に適合したグレードなど、特殊な機能を付与したグレードも存在します。

MCナイロンの用途

MCナイロンの用途は非常に多岐にわたります。その優れた機械的特性と耐摩耗性を活かして、歯車、軸受、スプロケット、ローラー、ガイドレール、ブッシュ、ライナーなどの機械部品に広く利用されています。自動車部品、産業機械部品、建設機械部品、搬送機械部品など、様々な産業分野で金属部品の代替として採用されています。また、高い耐衝撃性を活かして、キャスターの車輪やパレットの部品などにも使用されます。さらに、電気絶縁性や耐薬品性を活かして、電気・電子部品や化学プラントの部品などにも応用されています。

このように、MCナイロンは、一般的な6ナイロンの性能を向上させた高性能なエンジニアリングプラスチックであり、その優れた特性から、様々な産業分野で重要な役割を果たしています。適切なグレードを選択し、使用環境や求められる性能に合わせて利用することで、製品の性能向上や長寿命化に貢献します。

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