
機械材料の基礎:PLA(ポリ乳酸)
PLAすなわちポリ乳酸は、トウモロコシやサトウキビなどの植物に含まれるデンプンや糖を原料とするバイオマスプラスチックの代表格です。化学的には脂肪族ポリエステルに分類される熱可塑性樹脂であり、石油由来のプラスチックに代わる持続可能な材料として、包装資材から医療用インプラント、そして3Dプリンティング材料に至るまで、その適用範囲を急速に拡大しています。
従来のプラスチックが数百年もの間環境中に残留するのに対し、PLAは一定の条件下で水と二酸化炭素にまで完全に分解される生分解性を持っています。しかし、PLAの真価は単なる環境性能にとどまりません。透明性、剛性、そして特異な熱的性質など、材料としての基礎特性においても極めて興味深い特徴を有しています。
化学構造と合成プロセス
PLAの基本構成単位である乳酸は、不斉炭素原子を持つため、L体とD体という二つの光学異性体が存在します。この光学異性体の比率、すなわち光学純度は、最終的なポリマーの結晶性や融点などの熱的性質を決定づける最も重要な因子です。
ラクチド開環重合法
乳酸から高分子量のPLAを得るためには、単純な脱水縮合では不十分です。縮合反応では副生成物として水が発生し、化学平衡の関係から重合度が上がりにくいためです。 そのため、工業的な製造プロセスでは、まず乳酸をオリゴマー化し、これを解重合して環状二量体であるラクチドを生成します。このラクチドを取り出し、精製した後、オクチル酸スズなどの触媒を用いて開環重合させる方法が一般的です。この二段階のプロセスを経ることで、分子量を数十万レベルまで高めた高分子量PLAの合成が可能となります。
立体規則性の制御
通常、植物由来の乳酸はL体ですが、重合プロセスにおいてD体が混入したり、意図的にD体を共重合させたりすることがあります。 L体だけで構成されたポリ-L-乳酸すなわちPLLAは、結晶性が高く、融点は摂氏170度から180度程度となります。ここにD体が混入すると、分子鎖の規則性が乱され、結晶化度が低下し、融点も下がります。D体の含有量が概ね10パーセントを超えると、ポリマーは完全に非晶質となります。 一般的な包装容器や3Dプリンター用フィラメントでは、透明性や成形性を調整するために、適度な量のD体を含有させたグレードが使用されています。
物理的特性と機械的性質
PLAは、汎用プラスチックと比較しても極めて高い剛性と引張強度を有しています。
強度と脆性
標準的なPLAの引張強度は約60メガパスカルから70メガパスカル、引張弾性率は約3ギガパスカルから4ギガパスカルに達し、これはポリスチレンやPET樹脂に匹敵あるいは凌駕する値です。非常に硬い材料であると言えます。 その一方で、伸びが小さく、耐衝撃性が低いという欠点を持っています。シャルピー衝撃試験などの値は低く、変形させると白化しやすく、過度な負荷で脆性破壊を起こしやすい傾向があります。この脆さを克服するために、耐衝撃改質剤の添加や、柔軟性のある他の生分解性樹脂とのポリマーアロイ化、あるいは可塑剤の添加といった材料設計が行われます。
光学的特性
非晶質状態あるいは結晶化度が低い状態のPLAは、極めて高い透明性を持ちます。光線透過率は90パーセントを超え、ヘイズすなわち曇り度も低いため、PET樹脂の代替として食品容器やブリスターパックなどに適しています。結晶化させると白濁しますが、延伸加工によって結晶を配向させることで、透明性を保ったまま強度と耐熱性を向上させることが可能です。
熱的特性と結晶化挙動
PLAの応用展開において最大の技術的ハードルとなってきたのが、その熱的特性です。
ガラス転移点 Tg の壁
PLAのガラス転移点は摂氏60度付近にあります。これは、汎用プラスチックであるポリプロピレンや耐熱性ABS樹脂などと比較して低い値です。 非晶質のPLA製品は、このガラス転移点を超えると急激に軟化し、剛性を失います。そのため、真夏の車内や熱い飲み物を入れる容器としては、そのままでは使用できません。耐熱性を向上させるためには、材料を結晶化させる必要があります。結晶部はガラス転移点を超えても融点までは溶融しないため、構造的な強度を維持できるからです。
結晶化速度の制御
しかし、PLAは本来、結晶化速度が遅い材料です。射出成形などの高速成形プロセスにおいて、金型内で十分に結晶化させるためには、長い冷却時間を要し、生産性が低下するという課題がありました。 これを解決するために、タルクなどの無機フィラーや有機系の結晶核剤を添加し、結晶核の生成を促進させる技術が開発されました。これにより、成形サイクルを短縮しつつ、高い結晶化度を実現し、摂氏100度以上の耐熱性を持つ製品の製造が可能となっています。
ステレオコンプレックス型PLA
PLAの耐熱性を飛躍的に高める技術として注目されているのが、ステレオコンプレックス化です。 ポリ-L-乳酸 PLLA とポリ-D-乳酸 PDLA を特定の条件下でブレンドすると、L体とD体の分子鎖が交互に並んだ特殊な結晶構造、ステレオコンプレックス結晶が形成されます。 この結晶の融点は、単独のPLLAよりも約50度高い摂氏230度付近に達します。この技術により、PLAはエンジニアリングプラスチックに迫る耐熱性を獲得し、電子機器の筐体や自動車部品への適用可能性を広げています。ただし、D-乳酸の製造コストが高いことや、成形プロセスでの制御が難しいことが普及の課題となっています。
分解メカニズムと環境適性
生分解性プラスチックであるPLAは、土に埋めればすぐに消えてなくなるわけではありません。その分解プロセスには明確な段階があります。
加水分解と酵素分解
分解の第一段階は、加水分解です。環境中の水分により、エステル結合が切断され、分子量が低下していきます。この反応は、温度や湿度が高いほど、また酸やアルカリ環境下で促進されます。 分子量が数千から一万程度まで低下し、オリゴマーやモノマーである乳酸になると、第二段階である微生物による分解が始まります。環境中のバクテリアや菌類がこれらを代謝し、最終的に水と二酸化炭素に分解します。 つまり、PLA製品は日常の使用環境下では安定しており、コンポスト施設のような高温多湿な環境に置かれて初めて急速に分解が進行するという、実用材料として極めて都合の良い特性を持っています。
ライフサイクルアセスメント
PLAはカーボンニュートラルな素材とみなされます。原料となる植物が成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収しているため、廃棄時に焼却あるいは分解されて二酸化炭素を排出しても、大気中の二酸化炭素総量は増加しないという考え方です。 また、燃焼熱がポリエチレンなどの石油系プラスチックの約半分から3分の2程度と低いため、焼却炉を傷めにくく、サーマルリサイクルにも適しているという側面もあります。
3DプリンティングにおけるPLA
近年、PLAの知名度を一気に押し上げたのが、熱溶解積層法 FDMあるいはFFF方式の3Dプリンターにおける標準材料としての採用です。
低熱収縮と造形安定性
3Dプリンター材料としてのPLAの最大の利点は、熱収縮率が非常に小さいことです。 ABS樹脂などは冷却時に大きく収縮するため、造形物がステージから剥がれたり、反ったりするトラブルが頻発します。対してPLAは、溶融状態から固体に戻る際の体積変化が少なく、反りが極めて少ないため、開放型の安価なプリンターでも高精度な造形が可能です。
匂いと安全性
溶融時に不快な刺激臭が発生しないことも大きな利点です。ABS樹脂やナイロンは特有のプラスチック臭を発生させますが、PLAは植物由来であるため、加熱時に甘い焦げたような匂いがする程度で、家庭や教育現場での使用に適しています。
造形物の特性
3DプリントされたPLA造形物は、非常に硬く、エッジの効いたシャープな形状が得られます。しかし、積層方向の結合力や耐衝撃性はABSに劣る場合があり、また前述の通り耐熱性が低いため、高温になる部品や摩擦熱が発生する摺動部品には不向きです。最近では、アニール処理すなわち焼きなましを行うことで造形後に結晶化させ、耐熱性を向上させる専用フィラメントも登場しています。
加工技術と産業応用
PLAは、既存のプラスチック加工設備の多くをそのまま流用して加工することが可能です。
射出成形
最も一般的な加工法ですが、前述の通り結晶化速度の制御と、徹底した予備乾燥が重要です。PLAは加水分解しやすいため、成形機に投入する前に水分率を極限まで下げておかないと、シリンダー内で加水分解を起こし、強度が激減してしまいます。
押出成形とフィルム加工
シートやフィルムへの加工も盛んです。一軸または二軸延伸を行うことで、分子配向による強度向上と透明性の確保が可能です。農業用マルチフィルムや、食品包装用ラップ、レジ袋などに利用されています。
繊維加工
繊維にして不織布や衣料品にすることも可能です。とうもろこし繊維などの名称で販売されており、肌触りが良く、弱酸性で抗菌性があるなどの特徴があります。また、燃焼時の発熱量が低く有毒ガスが出ないため、カーペットや内装材としても注目されています。
課題と技術的展望
PLAは理想的な材料に見えますが、普及拡大に向けてはいくつかの技術的課題が残されています。
耐久性と加水分解抑制
長期間使用する耐久財への適用において、加水分解による劣化は最大のネックとなります。 これを抑制するために、カルボジイミド化合物などの加水分解抑制剤を添加し、末端のカルボキシル基や水酸基を封鎖する技術が確立されています。これにより、高温多湿環境下でも数年から十数年の耐久性を持たせることが可能になり、電子機器や自動車内装材への採用への道が開かれました。
リサイクルシステムの構築
生分解性とはいえ、自然界に放置することは推奨されません。理想的な循環を実現するためには、コンポストによる堆肥化や、回収して化学的にモノマーに戻すケミカルリサイクルといった社会システムの整備が不可欠です。


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