
機械要素の基礎:パッキン
パッキンとは
パッキンは、機械や装置において、部品間の隙間からの液体や気体などの流体の漏れを防いだり、外部からの塵や異物の侵入を防止したりするために用いられるシール部品、すなわち密封装置の総称です。特に、軸が回転したり、ロッドが往復運動したりするような、互いに動きのある部品間の隙間を密封する運動部シールとして広く利用されています。静止した部品間のシールに主に使われるガスケットとは区別されることが多いですが、用途や形状によっては両者の境界が曖昧な場合もあります。パッキンは、その機能により、機器の効率維持、安全性確保、環境保全に貢献する重要な機械要素です。
パッキンの主な種類と特徴
パッキンには、その構造、材質、密封原理、使用箇所に応じて多種多様な種類が存在します。代表的なものとして、グランドパッキンと成形パッキンが挙げられます。
- グランドパッキン: これは最も古くから用いられている代表的なパッキンの一つで、主にポンプの回転軸やバルブの弁棒といった、軸が貫通する部分のシールに使用されます。綿、麻、アラミド繊維、炭素繊維、膨張黒鉛といった柔軟な材料を編み込んだり、リング状に成形したりしたものを、スタフィングボックスと呼ばれる軸周りの空間に複数個詰め込みます。そして、グランド押さえと呼ばれる部品で軸方向に圧縮することにより、パッキンを径方向に膨張させて軸表面とスタフィングボックス内壁に押し付け、その接触圧力によってシール効果を得ます。潤滑剤や黒鉛、フッ素樹脂などが含浸されているものが多く、自己潤滑性や耐熱性、耐薬品性が付与されています。取り付け後に締め付け具合を調整できる、ある程度の軸の振れや傷に対応できる、比較的安価であるなどの利点がありますが、適切なシール効果を得るためにはある程度の締め付け力が必要で、これが軸との摩擦抵抗となり、また軸摩耗の原因ともなり得ます。潤滑や冷却のために微量の漏れを許容する場合もあります。定期的な増し締めや交換が必要です。
- 成形パッキン: ゴム状の弾性を持つエラストマー材料や、比較的硬質のプラスチック材料などを、特定の断面形状、例えばU字形、V字形、L字形などに予め成形したリング状のパッキンです。リップパッキンとも呼ばれ、多くの場合、流体の圧力自身を利用してシール面であるリップ部を相手部品に押し付ける自封作用を持ちます。これにより、低圧から高圧まで優れたシール性能を発揮し、摩擦抵抗も比較的小さく抑えられます。主に油圧シリンダや空圧シリンダのピストンシール、ロッドシールとして広く使用されています。グランドパッキンのような締め付け調整は不要ですが、取り付け時のリップ部の損傷に注意が必要であり、相手面の仕上げ精度も重要となります。Vパッキンは複数枚重ねて使用されることが多いです。
これら以外にも、回転軸用のシールとしては、オイルシールやより高度な密封性能を持つメカニカルシールなどが広く使われており、これらも広義にはパッキン類に含まれることがあります。
パッキンの材料
パッキンに使用される材料は、密封する流体の種類、温度、圧力、摺動速度、相手材の材質などを考慮して、極めて多岐にわたります。グランドパッキンでは、前述のように、綿や麻などの植物繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの合成繊維や無機繊維、柔軟で耐熱性耐薬品性に優れる膨張黒鉛、シール性や潤滑性を付与するためのフッ素樹脂などが用いられます。成形パッキンでは、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどの各種合成ゴムや、四フッ化エチレン樹脂のようなフッ素樹脂、ポリアセタール、超高分子量ポリエチレンなどのエンジニアリングプラスチックが主に使用されます。それぞれの材料が持つ耐熱性、耐寒性、耐油性、耐薬品性、機械的強度、耐摩耗性などの特性を考慮して、最適なものが選定されます。
パッキンの選定と利点課題
適切なパッキンを選定するためには、まず運動の種類、すなわち回転運動、往復運動、あるいは静止部なのかを確認し、次に密封対象の流体の種類、圧力、温度、運動速度、軸やロッドの表面状態や振れ、要求される密封レベルすなわち漏れ許容量、メンテナンスの容易さ、コストなどを総合的に検討する必要があります。
パッキン、特にグランドパッキンの利点としては、種類が豊富で汎用性が高いこと、ある程度の調整代があること、取り付け状態である程度の軸の振れや摩耗に対応できること、比較的安価であることなどが挙げられます。成形パッキンは、低摩擦で優れたシール性を発揮し、調整が不要な点が利点です。
一方、グランドパッキンの課題としては、軸や弁棒を摩耗させる可能性があること、定期的な締め付け調整や交換が必要であること、完全な密封が難しく微少な漏れを伴う場合があること、摩擦抵抗が比較的大きいことなどが挙げられます。成形パッキンは、取り付け時の損傷に弱く、相手面の精度が要求されること、グランドパッキンほどの調整代がないことなどが課題となり得ます。高圧時のはみ出しを防止するためには、バックアップリングと呼ばれる補助部品が用いられることがあります。
第五章 まとめ
パッキンは、機械や装置における流体の漏れを防ぎ、安定した動作を支えるために不可欠なシール部品です。特に軸やロッドなどの運動部分の密封に広く用いられ、グランドパッキンや成形パッキンをはじめとする多様な種類と材質が存在します。それぞれのパッキンは固有の特性と利点、課題を持っており、使用される環境や要求される性能に応じて最適なものを選定し、正しく設計された箇所へ適切に取り付けることが、機器全体の信頼性と安全性を確保する上で極めて重要です。漏れはエネルギー損失や環境汚染、安全上の問題に直結するため、パッキン技術は産業の基盤を支える重要な技術分野であり続けています。
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