圧接は、接合したい二つの金属部材に、強い機械的な圧力を加えて、塑性変形させながら密着させることで、原子レベルで結合させる接合技術の総称です。溶接棒のような溶加材を一切用いず、多くの場合、母材を溶融させることなく固体状態のまま接合するのが最大の特徴です。
一般的な溶融溶接が、金属を一度溶かして混ぜ合わせ、それが冷えて固まることで接合する「鋳造」に近いプロセスであるのに対し、圧接は、二つの部材を一体化させて「鍛造」するようなプロセスと言えます。この固相接合という原理により、圧接は、溶融溶接では得られない、多くの優れた特性を発揮します。
接合の原理:固体状態での原子間結合
圧接による接合は、極めて清浄な金属表面同士を、原子間の引力が働くほどの距離まで接近させることで、金属結合を再形成させる現象に基づいています。しかし、現実の金属表面には、接合を妨げるいくつかの障壁が存在します。
- 酸化皮膜: 大気中の酸素と反応して、表面に形成される硬くてもろい酸化物の層。
- 吸着層: 表面に付着した、水分や油分、ガスなどの分子の層。
- 表面の凹凸: ミクロの視点で見ると、どんなに滑らかな表面も、微細な山と谷で構成されています。
圧接は、これらの障壁を、強力な圧力と塑性変形によって物理的に排除し、清浄な新生面同士を接触させるプロセスです。
接合メカニズム
- 加圧と塑性変形: まず、接合したい二つの部材に、強力な圧力を加えます。すると、応力は表面の微細な凹凸の山の頂に集中し、その部分が塑性変形を始めます。
- 酸化皮膜の破壊と新生面の露出: 塑性変形が進行すると、展延性のない、もろい酸化皮膜は、それに追従できずに破壊され、砕け散ります。そして、その亀裂から、酸化されていない、清浄で活性な新生面が、内部から押し出されるように露出します。
- 密着と原子間結合: さらに加圧を続けると、この露出した新生面同士が、極めて高い圧力下で強く密着します。原子間の距離が、互いの引力が作用する範囲まで近づくと、両者の間で電子が共有され、強固な金属結合が形成されます。
このプロセスが、接合界面の全面にわたって起こることで、二つの部材は、あたかも元から一つの部品であったかのように、完全に一体化するのです。
熱の役割
多くの場合、圧接は加熱と共に行われます。この熱は、金属を溶かすためではなく、あくまで固相状態を維持したまま、以下の二つの目的で利用されます。
- 塑性変形の促進: 金属は、温度が上がるほど軟らかくなり、より小さな力で塑性変形させることができます。
- 原子拡散の促進: 加熱によって原子の熱振動が活発になり、接合界面を越えて、互いの原子が相手の結晶格子内へと侵入していく拡散が促進されます。この拡散が、接合部の強度をさらに高め、一体化を完全なものにします。
圧接の主な種類
圧接には、圧力や熱をどのように与えるかによって、様々な種類があります。
摩擦圧接
摩擦圧接は、二つの部材の一方を高速で回転させ、もう一方に押し付けることで、その接触面に発生する摩擦熱を利用する圧接法です。
- 接触面は、摩擦によって急速に加熱され、塑性変形しやすい高温状態になります。
- 十分に加熱されたところで、回転を急停止させ、同時により大きな圧力(アプセット圧)をかけて、両者を一気に圧着させます。
- 接触面の酸化物や汚染物は、高温で軟化した金属と共に、バリとして外部に排出されるため、極めて清浄な面同士が接合されます。
この方法は、接合時間が数秒と非常に短く、再現性も高いため、自動車のエンジンバルブやプロペラシャフトといった、円形断面を持つ部品の量産に広く用いられています。アルミニウムと鋼といった、融点の異なる異種金属の接合にも適しています。
爆発圧接
爆発圧接は、火薬の爆発によって発生する、超高圧・超高速の衝撃エネルギーを利用する、極めてダイナミックな圧接法です。 一方の金属板(フライヤプレート)の上に火薬を設置し、他方の金属板(母材プレート)と、わずかな隙間をあけて配置します。火薬を起爆させると、フライヤプレートは超音速で母材プレートに向かって加速・衝突します。
この斜めからの高速衝突の瞬間、衝突点では数万気圧という超高圧が発生し、両者の表面層は、酸化皮膜もろとも、ジェット状になって前方に吹き飛ばされます。その後ろから、完全に清浄化された新生面同士が、強大な圧力で瞬時に圧着され、接合が完了します。
広大な面積を一度に接合できるため、主に、鋼板にチタンやステンレス鋼を張り合わせるクラッド鋼板の製造に利用されます。
冷間圧接
外部から一切加熱せず、常温のまま、極めて大きな圧力による塑性変形のみで接合する方法です。熱による影響が全くないため、熱に弱い材料の接合に適しています。アルミニウムや銅といった、比較的軟らかい金属の電線の接続などに用いられます。
抵抗突合せ溶接
二つの部材の端面同士を突き合わせ、大電流を流すことで、その接触部に発生する抵抗熱を利用して加熱し、同時に圧力を加えて接合します。主に、線材や棒材、パイプの端面同士の接合に利用されます。
まとめ
圧接は、金属を溶融させることなく、固体状態のまま、強力な圧力と塑性変形を利用して、原子レベルでの直接結合を実現する、本質的な接合技術です。その原理は、接合を妨げる表面の不純物層を、物理的に破壊・排出し、清浄な金属面同士を原子間距離まで接近させることにあります。
摩擦熱や爆発エネルギーといった、ユニークなエネルギー源を利用する多様なプロセスが存在し、それぞれが特有の利点を持ちます。特に、溶融溶接では困難な異種金属の接合や、接合部の品質が母材と同等以上になるという点は、圧接ならではの大きな魅力です。
機械部品の信頼性から、巨大な化学プラントの素材まで、圧接は、金属と金属を最も直接的、かつ強固に結びつける、強力なエンジニアリングソリューションを提供し続けているのです。
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