
機械要素の基礎:ボルト
ボルトとは
ボルト(Bolt)は、機械や構造物を組み立てる際に、部品同士を固定するために用いられる最も基本的な締結部品の一つです。一般的には、頭部と、おねじが切られた軸部から構成され、通常はナットと組み合わせて使用されます。部品に開けられた穴(通し穴)にボルトを通し、反対側からナットを締め付けることで、部品間に強力な締付力を発生させ、固定します。ナットを使わずに、部品側に設けられためねじに直接ねじ込んで締結する使われ方もあります。ねじとの厳密な区別は必ずしも明確ではありませんが、一般にナットと組み合わせて使うもの、あるいは比較的大径で強度が必要な箇所に使うものをボルトと呼ぶことが多いです。
ボルトの機能と原理
ボルトによる締結の基本的な原理は、ボルトを締め付けることによって、ボルトの軸部に引張力を発生させ、その反力として締結される部品同士を互いに強く押し付け合う圧縮力を生み出すことにあります。この締付力が、部品間に働く外力に打ち勝つことで、接合部の強度や剛性を確保し、緩みや漏れを防ぎます。したがって、ボルト締結の信頼性を確保するためには、適切な締付力を与えることが非常に重要になります。
ボルトの構成要素と特徴
ボルトの主要な構成要素とその機能は以下の通りです。
- 頭部(Head): スパナ、レンチ、ドライバーなどの工具をかけて回転させ、締め付けトルクを伝達するための部分です。最も一般的な形状は六角形(六角ボルト)ですが、他にも四角形、工具との勘合部が六角形の穴になっている円筒形(六角穴付きボルト、キャップボルト)、頭部が低く丸い形状、皿状(皿ボルト)、座金が一体化したフランジ付き、吊り下げ用の輪が付いた形状(アイボルト)など、用途や要求される機能に応じて様々な形状が存在します。
- 軸部(Shank): 頭部からねじ部の先端までの円筒状の部分です。軸部全体におねじが切られている「全ねじ」タイプと、頭部の付け根付近におねじが切られていない円筒部を持つ「半ねじ」タイプがあります。半ねじボルトの場合、ねじが切られていない円筒部は、ボルトにせん断力(軸と直角方向の力)がかかる場合に、ねじ部よりも高い強度を発揮します。
- ねじ部(Thread): 軸部の表面に形成されたらせん状のねじ山です。ナットのめねじや、部品に直接加工されためねじと噛み合い、回転運動を軸方向の直線運動と力に変換する役割を持ちます。ねじの寸法や形状は、ねじの呼び径(一般に外径を示す)、ピッチ(隣り合うねじ山の間の距離)、ねじ山の角度や形状、精度などによって細かく規定されています。
ボルトの材質
ボルトの材質は、使用される環境や要求される強度、耐食性、耐熱性、重量、コストなどに応じて、様々なものが選択されます。
- 鋼(Steel): 最も広く一般的に使用される材料です。比較的安価な炭素鋼から、強度を高めるために合金元素を添加し熱処理(焼入れ・焼戻し)を施した合金鋼まであります。鋼製ボルトには、強度を示す「強度区分」がJISやISOなどの規格で定められています。錆(さび)を防ぐために、表面に亜鉛めっき、ニッケルめっき、クロムめっき、溶融亜鉛めっき、化成処理といった表面処理が施されることが一般的です。
- ステンレス鋼(Stainless Steel): 耐食性が求められる屋外や水回り、食品機械、化学プラントなどで使用されます。SUS304や、より耐食性の高いSUS316などが代表的なオーステナイト系ステンレス鋼です。強度が必要な場合には、熱処理で硬化するマルテンサイト系ステンレス鋼なども用いられます。
- 非鉄金属: 特定の特性が要求される場合に使用されます。
- 黄銅(真鍮 Brass):加工性、耐食性、装飾性。
- 青銅(ブロンズ Bronze):耐食性、耐摩耗性。
- アルミニウム合金:軽量性、耐食性。
- チタン合金:軽量、高強度、優れた耐食性、生体適合性を持つが、非常に高価。航空宇宙、医療、高性能スポーツ用品など。
- 樹脂(Plastic): 軽量性、電気絶縁性、耐薬品性が求められる場合や、金属では問題となる電食防止などに使用されます。ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどがありますが、金属製に比べて強度は大幅に劣ります。
ボルトの主な種類
用途や機能に応じて、特徴的な形状や機能を持つ様々な種類のボルトがあります。
- 六角ボルト: 最も標準的で汎用性が高いボルト。
- 六角穴付きボルト(キャップボルト): 頭部が円筒形で六角形の穴があり、六角レンチで締め付けます。省スペースでの締結や、高い締付力が必要な箇所、頭部を部品に埋め込む(ザグリ加工)設計に適しています。
- 角根丸頭ボルト(馬車ボルト): 頭部が滑らかな丸形で、その根元に四角形の回り止め部分(角根)が付いています。主に木材や柔らかい材料に用いられ、角根を食い込ませることで、ナットを締める際にボルト本体が一緒に回転する(共回り)のを防ぎます。
- フランジボルト: 六角頭部の下に、座金(ワッシャー)と一体になったつば(フランジ)が付いたボルトです。締付力を広い面積に分散させ、被締結材表面の陥没を防ぎます。座金を別途用意する手間が省け、緩み止め効果を持つタイプもあります。
- アイボルト: 頭部が輪(目、アイ)の形状をしています。重量物を吊り上げるための吊り具として、あるいはロープやチェーンなどを連結するために使用されます。
- Uボルト: アルファベットのU字形に曲げられた棒の両端におねじが切られたボルトです。主に配管や丸棒などを構造物に取り付けるために使用されます。
- スタッドボルト(植込みボルト): 頭部がなく、棒の両端または全体におねじが切られたボルトです。一方のねじ部をエンジンブロックなどの機器本体のめねじにねじ込んで固定(植込み)し、もう一方のねじ部にナットを締めて他の部品を取り付けます。部品の分解・組立を頻繁に行う箇所などに適しています。
- アンカーボルト: 機械設備や鉄骨柱などをコンクリート基礎に固定するために用いられる、特殊な形状のボルトです。
関連部品
ボルトによる締結では、多くの場合ナットや座金(ワッシャー)が併用されます。
- ナット(Nut): ボルトのおねじと噛み合うめねじを持つ部品です。六角ナットが最も一般的ですが、緩み止め機能を持つナイロンインサート付きナットやUナット、フランジ付きナット、手で締め付けられる蝶ナット、外観を良くする袋ナットなど、多種多様なナットがあります。
- 座金(ワッシャー Washer): ボルトの頭部やナットの下に入れて使用される、通常は薄い円盤状またはリング状の部品です。締付力を分散させて部材表面の陥没や傷を防ぐ平座金(平ワッシャー)や、ばねの反発力で緩みを防止するばね座金(スプリングワッシャー)、歯の食い込みで緩みを防止する歯付き座金などがあります。
ボルトの締め付け
ボルト締結がその機能を十分に発揮するためには、設計で意図された適切な締付力(軸力)を与えることが極めて重要です。締め付けが不足すると、振動などによる緩みや、接合部のずれ、漏れなどを引き起こす可能性があります。逆に締め付けが過剰になると、ボルト自身が伸び切ってしまったり、破断したり、被締結材を破損させたりする恐れがあります。締付管理の方法としては、トルクレンチなどを用いて締め付けトルクを管理する「トルク法」が最も一般的ですが、より高い精度で軸力を管理する必要がある場合には、「角度締め法」や「伸び測定法」などが用いられることもあります。
規格
ボルトの形状、寸法、材質、強度、ねじの精度、試験方法などは、JIS(日本産業規格)、ISO(国際標準化機構)、DIN(ドイツ規格協会)、ANSI/ASME(米国規格)といった国内外の規格によって細かく規定されています。これにより、異なるメーカーのボルトやナットでもある程度の互換性が保たれ、品質の基準が明確になっています。
まとめ
ボルトは、そのシンプルさにも関わらず、部品同士を確実かつ強固に結合するための極めて重要な役割を担う締結部品です。材質、形状、サイズの多様性により、私たちの身の回りにあるあらゆる製品、例えば自動車、航空機、建築物、橋梁、産業機械、電子機器、家具などに至るまで、文字通り数えきれないほど多くの場所で使用されています。適切に設計され、選定され、そして正しく締め付けられたボルトは、製品や構造物全体の安全性と信頼性を根底から支える、まさに「縁の下の力持ち」と言える存在です。
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