サーメットは、その名称が示す通り、セラミックス(Ceramics)とメタル(Metal)の二つの単語を組み合わせて作られた複合材料です。その工学的な本質は、セラミックスが持つ、極めて高い硬度、耐摩耗性、耐熱性といった長所と、金属が持つ、破壊に対する抵抗力、すなわち高い靭性という長所を、一つの材料の中に両立させることにあります。
最も古く、代表的なサーメットとしては、タングステンカーバイド(WC)をコバルト(Co)で結合させた超硬合金が存在します。超硬合金も広義にはサーメットの一種です。しかし、現代の切削工具の分野において、単に「サーメット」と呼ぶ場合、それは超硬合金とは区別され、主にチタンをベースとした、炭化チタンや窒化チタンを主成分とする、より新しい世代の材料を指すことが一般的です。
高性能の原理:複合材料としての微細構造
サーメットの高性能は、その微細な内部構造によって実現されています。これは、硬いセラミックスの粒子である硬質相と、それらの粒子同士を強固に結びつける、金属の結合相(バインダ相)から構成されています。これは、鉄筋コンクリートが、硬いがもろい砂利(セラミックス)を、粘り強いセメント(金属)で固めて、全体の強度と靭性を得ている原理と酷似しています。
- 硬質相: 材料の「骨格」となる部分です。主に炭化チタンが用いられます。この粒子が、材料にダイヤモンドに次ぐレベルの高い硬度と耐摩耗性をもたらします。さらに、耐熱性を向上させるために炭化タンタル(TaC)や、硬度を高めるために窒化チタンなどが、複合的に添加されます。
- 結合相: 材料の「靭性」を担う部分です。主にニッケルやモリブデン、コバルト(Co)といった金属が用いられます。この金属相が、セラミックス粒子の間を埋め尽くし、あたかもコンクリートにおけるセメントのように、粒子同士を強固に結びつけます。
この金属結合相の役割は、単に粒子を接着するだけではありません。材料に外部から強い力がかかり、亀裂が入ろうとする際、比較的柔らかく、延性に富んだ金属相が、その破壊エネルギーを吸収するように塑性変形します。これにより、硬いセラミックス粒子が連鎖的に破壊されるのを防ぎ、セラミックス単体では到底実現できない、高い靭性を材料全体に付与するのです。
製造プロセス:粉末冶金法
サーメットは、金属のように溶かして鋳造するのではなく、粉末冶金法によって製造されます。
- 原料: まず、炭化チタンなどの硬質相となるセラミックスの微粉末と、ニッケルなどの結合相となる金属の微粉末を、精密な比率で混合します。
- 成形: 混合された原料粉末を、金型に入れて高圧でプレスし、製品の形状に近い形(圧粉体)に押し固めます。
- 焼結: 圧粉体を、高温の真空炉または雰囲気炉の中で、結合相である金属の融点に近い温度(摂氏1300度から1500度程度)まで加熱します。すると、金属粉末が溶融し(液相焼結)、毛細管現象によってセラミックス粒子の隙間へと浸透します。同時に、粒子同士が結合・再配列し、緻密で強固な焼結体へと変化します。
工学的な特徴と応用
サーメットは、超硬合金と比較して、以下のような際立った工学的な特徴を持っています。
1. 優れた高温硬度と化学的安定性
サーメットは、高温になっても硬度の低下が少なく、優れた耐熱性を持ちます。また、構成成分である炭化チタンや窒化チタンは、化学的に非常に安定しています。
2. 鉄との親和性の低さ(最大の長所)
サーメットが切削工具として高い評価を得ている最大の理由は、その鉄との親和性の低さにあります。 超硬合金(WC-Co)は、切削加工のように高温になる環境下では、その主成分であるタングステンカーバイドが、切削対象である鉄(Fe)と反応し、工具表面に拡散していきます。これにより、工具がすり鉢状にえぐれるクレータ摩耗が激しく進行します。
一方、チタンを主成分とするサーメットは、鉄との反応性が極めて低いため、高温の切削条件下でも、鉄との間で凝着や拡散を起こしにくいのです。この特性により、以下のような利点が生まれます。
- 美麗な仕上げ面: 切削中に、削りくずが刃先に溶着してできる「構成刃先」が発生しにくいため、加工面が非常に滑らかで、光沢のある美しい仕上がりとなります。
- 高速切削: 高温でも軟化しにくく、鉄と反応しにくいため、超硬合金よりも高い切削速度での加工が可能となり、生産性が向上します。
3. 靭性の低さ(短所)
サーメットは、金属の靭性を付与されているとはいえ、その主成分はセラミックスです。そのため、超硬合金(WC-Co)と比較すると、一般的に靭性が低く、もろいという性質があります。
主な用途:鋼の仕上げ加工
上記の特性から、サーメットの主な用途は、その高性能を最大限に発揮できる切削工具、特に鋼材の仕上げ加工です。 超硬合金に比べて靭性では劣るため、岩を砕くような重切削や、加工中に衝撃が断続的にかかる加工には向きません。
しかし、その高い高温硬度と耐摩耗性、そして鉄との親和性の低さを活かし、高速で、かつ、寸法精度や表面の美しさが厳しく要求される、自動車部品や機械部品の最終仕上げ工程で、その真価を発揮します。また、その耐摩耗性を活かし、製缶金型や、粉末成形用の金型など、耐摩耗性が求められる一部の金型部品にも使用されます。
まとめ
サーメットは、セラミックスの「硬さ」と、金属の「靭性」を、目的に応じて高度に融合させた、優れた複合材料です。特に、チタン系サーメットは、従来の超硬合金が苦手としていた「鉄との反応性」という課題を克服し、鋼材の高速・高品位な仕上げ加工という、明確な領域を確立しました。
それは、セラミックスと金属という、異なる種族の材料を、粉末冶金という技術によって原子レベルで結びつけた、まさに現代の材料工学の結晶であり、高性能なものづくりを支える、不可欠な材料の一つなのです。


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