機械加工の基礎:連続鋳造

加工機械

連続鋳造は、金属の精錬工程で溶融された高温の液体金属、すなわち溶湯を、底のない鋳型に連続的に注入し、凝固させながら引き抜くことで、スラブ、ブルーム、ビレットといった半製品を大量かつ高効率に製造するプロセスです。英語ではコンティニュアスキャスティングと呼ばれ、産業界ではしばしばCCという略称で呼ばれます。

かつて主流であった造塊法が、溶湯を鋳型に注ぎ込んで冷え固まるのを待ち、個々のインゴットを製造するバッチ式のプロセスであったのに対し、連続鋳造は文字通り連続的に凝固と成形を行う点に工学的な革新性があります。この技術の導入により、金属製品の歩留まりは劇的に向上し、熱エネルギーのロスは最小化され、均質な品質を持つ素材の大量供給が可能となりました。現代の製鉄所における粗鋼生産の95パーセント以上がこの連続鋳造によって行われており、まさに現代産業の基盤を支える最も重要な製造技術の一つと言えます。


連続鋳造設備の全体構成とプロセスフロー

連続鋳造機は、高さ数10メートルにも及ぶ巨大な設備であり、その機能は溶湯の保持、注入、初期凝固、二次冷却、そして切断という一連の工程に分かれます。

溶湯の供給とタンディッシュ

精錬炉から運ばれてきた取鍋内の溶湯は、まずタンディッシュと呼ばれる中間容器に注入されます。タンディッシュは単なる漏斗ではありません。その工学的な役割は多岐にわたります。 第一に、取鍋を交換する間も鋳型への溶湯供給を絶やさないためのバッファ機能です。これにより、何時間にもわたる連続操業が可能となります。 第二に、溶湯流動の制御と介在物の浮上分離です。タンディッシュ内部には堰やダムが設けられ、溶湯の滞留時間を確保しつつ流れを整流化します。これにより、溶湯中に含まれるアルミナなどの非金属介在物を比重差によって浮上させ、スラグとして除去する清浄化機能が果たされます。 第三に、鋳型へ注入する溶湯の温度を均一化し、複数の鋳型へ溶湯を分配する役割です。

鋳型と初期凝固

タンディッシュから浸漬ノズルを通じて、溶湯は水冷された銅製の鋳型、すなわちモールドへと注入されます。ここで溶湯は鋳型壁面と接触し、急速に熱を奪われて凝固シェルと呼ばれる薄い固体の皮を形成します。 この鋳型内での現象が、連続鋳造の成否を握る最もクリティカルな部分です。凝固シェルはまだ薄く脆弱であり、内部には未凝固の溶湯が満たされています。もしシェルが破れれば、溶湯が流出するブレークアウトという重大事故に直結します。これを防ぐために、鋳型にはオシレーションと呼ばれる振動運動が与えられ、同時にモールドパウダーと呼ばれる潤滑剤が投入されます。

二次冷却帯と完全凝固

鋳型を出た鋳片は、サポートロールと呼ばれる多数のローラーによって支持されながら下降し、スプレーノズルから噴射される水やミストによって直接冷却されます。これを二次冷却帯と呼びます。 ここでは、内部の溶湯が持つ凝固潜熱と顕熱を除去し、シェルの厚みを徐々に成長させていきます。最終的に中心部まで完全に凝固した点、すなわちクレーターエンドに達するまで、冷却は厳密に制御されます。

引抜きと切断

完全に凝固した鋳片は、ピンチロールによって引き抜かれ、矯正機によって湾曲状態から水平状態へと真っ直ぐに伸ばされます。その後、ガス切断機やシェアーによって所定の長さに切断され、圧延工程へと送られます。


鋳型内現象とオシレーション機構

鋳型は連続鋳造機の心臓部であり、ここでは熱伝達、潤滑、振動工学が複雑に絡み合っています。

モールドパウダーの多機能性

鋳型内の溶湯表面には、モールドパウダーと呼ばれる粉末状の合成スラグが添加されます。このパウダーは溶湯の熱で溶融し、鋳型と凝固シェルの隙間に流入して、以下の重要な工学的機能を果たします。

  1. 潤滑作用: 凝固シェルが鋳型壁面に焼き付くのを防ぎ、スムーズな引抜きを可能にします。
  2. 熱伝達制御: 鋳型とシェルの間の熱流束を調整し、急冷による表面割れや、冷却不足によるブレークアウトを防ぎます。
  3. 断熱と保温: 溶湯表面を覆うことで放熱を防ぎ、メニスカスすなわち湯面近傍の凝固を防ぎます。
  4. 介在物の吸収: 溶湯から浮上してきた不純物を溶解し、取り込みます。

オシレーションとネガティブストリップ

鋳型は静止しているのではなく、上下に振動、すなわちオシレーションを行っています。これは、凝固シェルが鋳型壁に固着するのを防ぎ、パウダーの流入を促進するためです。 この振動において最も重要なパラメータが、ネガティブストリップ時間です。 鋳型が下降する速度が、鋳片を引き抜く速度よりも速くなる時間帯を設けることで、鋳型が凝固シェルを強制的に押し下げる、あるいはシェルを鋳型から剥離させる効果を生み出します。 ネガティブストリップ率 = (鋳型最大下降速度 - 引抜速度) / 引抜速度 この値を適切に設定することで、表面欠陥の一つであるオシレーションマークの深さを制御し、かつブレークアウトを防止します。正弦波振動だけでなく、非正弦波振動を用いることで、ネガティブストリップ時間を短縮し、表面品質を向上させる技術も普及しています。


凝固冶金学と内部品質の制御

二次冷却帯における凝固プロセスは、製品の内部品質、特に偏析や内部割れを決定づけます。

凝固組織の形成:柱状晶と等軸晶

鋳型壁面からの抜熱により、結晶は表面から内部に向かって成長します。初期段階では、熱流方向に沿って細長く伸びた柱状晶が発達します。 柱状晶が成長し続けると、鋳片の中心部で互いに衝突し、そこに不純物が濃縮されることになります。これを防ぐためには、凝固の途中で柱状晶の成長を止め、方向性のない等軸晶を生成させることが望まれます。 このために、電磁攪拌装置 EMS を用いて未凝固の溶湯を流動させ、柱状晶の先端を破断して等軸晶の核とする技術が広く用いられています。これにより、均質で緻密な凝固組織を得ることができます。

中心偏析のメカニズムと対策

溶鋼に含まれる炭素、リン、硫黄、マンガンなどの元素は、固体鉄への溶解度が液体鉄への溶解度よりも小さいという性質があります。そのため、凝固界面、すなわち固相と液相の境界において、これらの元素は液相側へと排出されます。これを分配と呼びます。 凝固が進行するにつれて、残った液相中の不純物濃度は上昇し続けます。そして、最終凝固部である鋳片の中心部には、これらの元素が高濃度に濃縮された領域が形成されます。これが中心偏析です。 中心偏析は、最終製品の強度むらや割れの原因となる重大な欠陥です。これを抑制するために、軽圧下技術が開発されました。これは、凝固末期のクレーターエンド付近で、鋳片をロールによって物理的に圧下し、濃縮された溶湯を流動させて分散させる、あるいは圧着させて偏析帯の幅を狭くする技術です。タイミングと圧下量の精密な制御が要求されます。


設備設計における力学的課題

連続鋳造機は、高温の鋳片を支え、変形させる巨大な機械装置であり、そこには熱応力と機械的応力の制御という課題があります。

バルジングとロールピッチ

鋳型を出た直後の鋳片は、内部が液体のままであり、凝固シェルは薄い状態です。このシェルには、内部の溶湯の静圧、すなわち溶鋼静圧がかかります。 もしサポートロールの間隔、すなわちロールピッチが広すぎると、シェルはこの圧力に負けて外側へ膨らんでしまいます。これをバルジングと呼びます。 バルジングが起きると、内部の溶湯が流動し、偏析を悪化させるだけでなく、シェルに過大な引張応力を発生させ、内部割れを引き起こします。これを防ぐため、二次冷却帯の上部では、小径のロールを狭いピッチで配置する分割ロール方式などが採用され、シェルの変形を極限まで抑え込んでいます。

矯正応力と多点矯正

多くの連続鋳造機は、設備高さを低く抑えるために、鋳型から湾曲したパスラインを通って引き抜かれる湾曲型を採用しています。そのため、凝固が完了する前後に、湾曲した鋳片を水平に真っ直ぐ戻す矯正工程が必要となります。 この矯正時、鋳片の上面側には引張応力が、下面側には圧縮応力が作用します。固液共存状態にある金属は、変形能力が極めて低く、わずかな歪みで割れが発生します。 このリスクを回避するために、一点で急激に矯正するのではなく、複数のポイントで段階的に曲率半径を変化させながら矯正する多点矯正あるいは連続矯正プロファイルが設計されています。これにより、表面および固液界面に作用する歪み速度を分散させ、割れの発生限界以下に抑えています。


連続鋳造技術の進化と多様化

連続鋳造技術は、鉄鋼の大量生産を支えるだけでなく、高機能材の製造や省エネルギー化に向けて進化を続けています。

薄スラブ鋳造

通常のスラブ連続鋳造では、厚さ200ミリメートルから300ミリメートルのスラブが製造され、その後、熱間圧延工程で加熱・圧延されて薄板になります。 これに対し、薄スラブ鋳造では、最初から厚さ50ミリメートル程度の薄いスラブを鋳造します。これにより、熱間圧延の粗圧延工程を省略または簡略化でき、巨大な圧延設備と加熱エネルギーを大幅に削減することが可能となります。特殊な形状の鋳型や、高度な溶湯注入技術が必要となりますが、ミニミルと呼ばれる小規模製鉄所を中心に普及しています。

ニアネットシェイプ鋳造

さらに究極の形として、H形鋼の形に近い断面を持つビームブランク鋳造や、最終製品に近い形状を直接鋳造するニアネットシェイプ技術も実用化されています。双ドラム式薄板鋳造などは、溶湯から直接数ミリメートルのシートを作る技術であり、難加工材の製造などに適用されています。

電磁気力の応用

前述の電磁攪拌に加え、電磁ブレーキ EABR という技術も重要です。これは、鋳型内に静磁場を印加することで、ローレンツ力によって溶湯の吐出流にブレーキをかけ、流速を制御する技術です。 高速鋳造時には、ノズルからの吐出流が激しくなり、モールドパウダーを巻き込んだり、凝固シェルを洗って薄くしたりする問題が発生します。電磁ブレーキは、非接触で溶湯の流れを減速・整流化し、高速鋳造と高品質を両立させるためのキーテクノロジーとなっています。


品質管理と欠陥の防止

連続鋳造における品質管理は、表面欠陥と内部欠陥の二つに大別されます。

表面欠陥

表面割れや、パウダー巻き込みによるノロ噛みなどが代表的です。 縦割れは、初期凝固の不均一や冷却の強すぎによって発生します。横割れは、オシレーション痕の谷部に応力が集中したり、矯正時の歪みによって発生したりします。 これらの防止には、モールドパウダーの物性(粘度、融点)の最適化、オシレーション条件の調整、そして二次冷却の均一化が不可欠です。

内部欠陥

中心偏析や中心空孔、内部割れがこれに当たります。 これらは、ロールアライメントの狂いによる機械的な歪みや、冷却不足によるバルジング、凝固末期の溶湯補給不足などが原因です。設備の厳密な保守管理と、軽圧下技術などの適用によって制御されます。


結論

連続鋳造は、熱力学による相変態の制御、流体力学による溶湯制御、機械工学による応力制御、そして電気工学によるプロセス制御が高度に融合した、現代工学の粋を集めたシステムです。

溶けた金属を、途切れることなく高品質な固体へと変換し続けるこの技術は、資源の有効活用と省エネルギーを極限まで追求する現代社会の要請に応えるものです。 AIを用いた操業パラメータの最適化や、さらなる高速化、高合金鋼への適用拡大など、連続鋳造技術は今なお進化の途上にあり、鉄鋼材料の可能性を広げ続けるエンジニアリングの最前線であり続けています。

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