機械加工の基礎:ダイカスト

加工学

ダイカストは、アルミニウムや亜鉛といった、融点の低い非鉄金属を溶かした溶湯を、金型と呼ばれる精密な鋼製の鋳型の中に、高圧かつ高速で射出して、鋳物を製造する鋳造法の一種です。ダイキャストとも呼ばれます。

その本質は、プラスチックの射出成形(インジェクションモールディング)の、金属版と考えると理解しやすいでしょう。この「高圧・高速で射出する」という原理により、ダイカストは、他の鋳造法では達成が困難な、極めて高い寸法精度、滑らかで美しい鋳肌、そして薄肉形状の成形を、驚異的な生産性で実現します。

自動車のエンジンブロックから、ノートパソコンの筐体まで、現代の工業製品に不可欠な、軽量で複雑な金属部品を大量生産するための、最も重要な製造技術の一つです。


ダイカストの原理

ダイカストのプロセスは、金型の「型締め」から始まり、「射出」「冷却」「型開き」「突出し」という一連のサイクルで構成されます。

高圧・高速射出と急速凝固

まず、精密に加工された金型を、ダイカストマシンと呼ばれる専用の装置で、強大な力で締め付けます。次に、溶解炉で溶かされた溶湯を、射出スリーブと呼ばれる筒の中に供給し、プランジャーで、数十メガパスカルという高い圧力をかけて、金型内部の空洞(キャビティ)へと、秒速数十メートルの高速で射出・充填します。

高速で充填された溶湯は、温度の低い金型に接触した瞬間から、急速に冷却・凝固を始めます。この急速な凝固が、鋳物の表面に緻密で微細な結晶組織を形成させ、滑らかで美しい鋳肌を生み出す理由です。

高い寸法精度と薄肉成形

高圧で溶湯を金型の隅々まで押し付けるため、金型の形状が極めて忠実に製品へと転写され、高い寸法精度が得られます。また、その高い充填能力により、他の鋳造法では溶湯が固まってしまい行き渡らないような、肉厚が1ミリメートル以下の、非常に薄い壁を持つ形状の成形も可能です。


ダイカストマシン:二つの方式

ダイカストマシンには、その射出機構の構造によって、主に二つの方式があり、使用する金属の種類によって使い分けられます。

  • ホットチャンバマシン: 射出機構の一部が、常に溶解炉の溶湯の中に浸かっている方式です。プランジャーが下降すると、溶湯がグースネックと呼ばれる通路を通って、直接金型へと射出されます。溶湯を移動させる工程がないため、非常に速いサイクルでの生産が可能ですが、射出機構が高温の溶湯に常に晒されるため、亜鉛合金やマグネシウム合金といった、融点が低く、鉄との反応性が低い材料にしか使用できません。
  • コールドチャンバマシン: 溶解炉と射出機構が分離しており、一回の射出ごとに、溶解炉から汲み出した溶湯を、射出スリーブに供給する方式です。射出機構が高温の溶湯に晒される時間が短いため、アルミニウム合金や銅合金といった、融点が比較的高く、鉄との反応性が高い材料の鋳造が可能です。現代のアルミニウムダイカストは、そのほとんどがこのコールドチャンバマシンによって生産されています。

工学的な特徴と課題

金型

ダイカストの品質と経済性は、金型に大きく依存します。金型は、高温高圧の過酷な環境に耐えるため、特殊な工具鋼で作られ、その内部には、製品を冷却するための冷却水管や、製品を突き出すための突出しピン、そして、充填時に内部のガスを排出するためのガスベントなど、多くの精密な機構が組み込まれています。

この金型は、非常に高価であり、その製作には多大なコストと時間を要します。これが、ダイカストが、金型費用を十分に償却できるだけの、大規模な大量生産にしか適さないと言われる最大の理由です。

鋳巣という課題

ダイカストの工学的な最大の課題が、鋳巣(いすご)と呼ばれる、製品内部に発生する微小な空洞です。これは、溶湯を高速で金型に充填する際に、キャビティ内部の空気や、潤滑剤が蒸発して発生したガスを、溶湯が巻き込んでしまうことによって生じます。

この内部の鋳巣は、製品の機械的強度を低下させる原因となります。また、鋳巣の内部には高圧のガスが閉じ込められているため、もしダイカスト製品に焼入れなどの熱処理を施すと、内部のガスが膨張して、製品表面に「ふくれ」を発生させてしまいます。このため、通常のダイカスト製品は、熱処理や溶接ができないという、工学的な制約を持っています。

この課題を克服するため、金型内部を真空状態にしてから射出を行う真空ダイカストや、酸素雰囲気中で充填して内部のガスを無害化する無孔性ダイカストといった、より高度な特殊技術も開発されています。


材料と応用分野

ダイカストに用いられる材料は、主に以下の非鉄金属合金です。

  • アルミニウム合金: 軽量で、強度、耐食性、そしてリサイクル性のバランスに優れ、最も広く利用されています。自動車のエンジンブロックやトランスミッションケースがその代表例です。
  • 亜鉛合金: 融点が低く、非常に湯流れが良いため、より薄肉で複雑な形状の製品が作れます。めっき性も良好で、ドアノブやミニカーといった、外観品質が要求される部品に多用されます。
  • マグネシウム合金: 実用金属の中で最も軽量であり、ノートパソコンやスマートフォンの筐体など、携帯電子機器の軽量化に貢献しています。

まとめ

ダイカストは、高圧・高速射出という原理に基づき、精密な金型の形状を、溶融金属へと極めて忠実に転写する、高能率な鋳造技術です。

その生産性は、まさに「溶けた金属を射出して、数秒から数十秒で製品にする」という言葉に集約されます。金型への高額な初期投資というハードルはありますが、一度生産が始まれば、高い寸法精度と美しい表面を持つ複雑な形状の部品を、比類のない低コストで大量に供給することが可能です。軽量化が至上命題である自動車産業やエレクトロニクス産業の発展は、このダイカスト技術の進化なくしては語れないのです。

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