機械加工の基礎:放電加工

加工学

機械加工の基礎:放電加工

放電加工は、電気エネルギーを利用して金属などの導電性材料を精密に加工する技術です。刃物のような工具で材料を削り取るのではなく、電気の火花、すなわち放電現象によって発生する高温で材料を溶かし、吹き飛ばすことで除去します。この原理により、材料の硬さに一切関係なく加工できるという、他の加工法にはない極めて大きな特長を持っています。

その本質は、制御された微小な雷を連続的に発生させ、硬い金属をも侵食していくような加工法です。


加工の原理:ミクロの熱エネルギーによる侵食

放電加工は、電極と呼ばれる工具と、加工される工作物の間で、絶縁性のある加工液中で繰り返し火花放電を発生させることで進行します。その一連のサイクルは、物理現象の連続です。

  1. 電圧印加と絶縁破壊: まず、電極と工作物を数十マイクロメートルという非常に狭い隙間を保って対向させ、その間に電圧をかけます。隙間は加工液で満たされており、通常は電気を通さない絶縁状態にあります。しかし、電圧が上昇していくと、電極と工作物の間で最も距離が近い一点に電界が集中し、ついに加工液の絶縁性が破壊されます。
  2. 放電の発生: 絶縁破壊が起こると、その瞬間に電流が流れ、火花放電が発生します。この放電によって形成されるプラズマ柱の中心温度は、摂氏数千度から一万度以上という極めて高温の状態になります。
  3. 材料の溶融と蒸発: この局所的な超高温によって、工作物と電極の表面のごく一部が瞬時に溶融し、一部は蒸発します。これが材料除去の直接的な作用です。
  4. 休止と加工屑の排出: 一回の放電が終わると、パルス状の電圧が停止します。するとプラズマ柱は消滅し、周囲の冷たい加工液が放電の起こった箇所に流れ込みます。この流れによって、溶融した金属は急冷されて微小な球状の粒子になると同時に、加工された箇所から洗い流されて排出されます。この排出された金属粒子が加工屑です。
  5. 繰り返されるサイクル: この「電圧印加 → 放電 → 溶融 → 排出」という一連のサイクルが、毎秒数千回から数十万回という速さで繰り返されます。一つ一つの放電痕は微小なクレーターですが、この無数のクレーターが集積することで、工作物は電極の形状を写し取るように、あるいはプログラムされた軌跡に沿って精密に加工されていくのです。

放電加工の種類

放電加工は、その加工方法によって主に二つの形式に大別されます。

形彫り放電加工

形彫り放電加工は、加工したい最終的な形状の反転形状を持つ、立体的な電極を用いて加工する方法です。銅やグラファイトで作られた電極を工作物に近づけていき、放電を繰り返すことで、電極の形状がそのまま工作物に転写された「彫り込み」や「空洞」を作り出します。

金型製作において、プラスチック製品を成形するための複雑なキャビティや、金属を鍛造するための金型の製作に不可欠な技術です。電極の形状次第で、切削加工では不可能な三次元の複雑な凹形状を一体で作り出すことができます。

ワイヤ放電加工

ワイヤ放電加工は、非常に細いワイヤを電極として使用する方法です。直径0.1ミリから0.3ミリ程度の真鍮などの金属ワイヤを常に新しいものが供給されるように走行させながら、工作物を貫通する形で加工を進めます。ワイヤはコンピュータ数値制御によってプログラムされた精密な軌跡を描き、 마치糸のこで切り抜くかのように、工作物を任意の輪郭形状に切断します。

この方法では、非常に高い精度で複雑な二次元形状を切り出すことができ、プレス加工に用いる「抜き金型」の製作や、航空宇宙産業、医療分野で用いられる超精密部品の加工に広く利用されています。


放電加工を構成する要素と特徴

主要な構成要素

  • 電源装置: 加工の心臓部であり、放電エネルギーを決定するパルス状の電圧・電流を制御します。パルスの幅や休止時間、電流のピーク値といった条件を調整することで、加工速度、表面の粗さ、電極の消耗量をコントロールします。
  • 電極: 工具の役割を果たします。形彫りでは銅やグラファイトが、ワイヤ加工では真鍮やタングステンのワイヤが用いられます。加工中には電極自身も消耗するため、その消耗量を見越した設計が重要です。
  • 加工液: 前述の通り、絶縁、冷却、そして加工屑の排出という三つの重要な役割を担います。加工の安定性と精度は、この加工液の適切な供給と循環に大きく依存します。
  • サーボ制御機構: 加工中に常に最適な放電ギャップを維持するための極めて重要な機構です。電極と工作物の距離をリアルタイムで検知し、μm単位で電極の位置を制御します。

長所と短所

長所

  • 硬さへの非依存性: 焼入れ鋼や超硬合金など、どんなに硬い導電性材料でも、その硬さに関係なく加工できます。
  • 複雑形状の実現: 切削では不可能な、シャープな内角や、深く狭い溝といった複雑な形状の加工が可能です。
  • 非接触・無応力加工: 電極と工作物は接触しないため、加工中に機械的な力が発生しません。これにより、薄く、脆い工作物でも、変形や破損の心配なく加工できます。

短所

  • 導電性の要求: 電気を通さない絶縁体は加工できません。
  • 加工速度の限界: 材料を除去する速度は、一般的に切削加工に比べて遅いです。
  • 電極の消耗: 工具である電極も加工と同時に消耗していきます。
  • 熱影響層の発生: 放電の熱により、加工表面にはごく薄い再凝固層が形成されます。この層は元の材料と性質が異なるため、用途によっては除去が必要な場合があります。

まとめ

放電加工は、電気のエネルギーを利用して、硬さという物理的な制約から解放されたものづくりを可能にする、ユニークで強力な技術です。それは、従来の機械加工を置き換えるものではなく、それらの技術では到達不可能な領域を担う補完的な存在です。金型製作をはじめ、航空宇宙、医療、エレクトロニクスといった最先端の産業分野において、より複雑で高精度な部品の製造を支える、現代の精密加工に不可欠な基盤技術なのです。

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