この機械の工学的な最大の特徴は、対象物を中心に置き、周囲360度のあらゆる方向から複数の工具(スライド)を接近させ、順次あるいは同時に加工を加えるという、多軸協調制御による成形プロセスにあります。一方向からの加圧を基本とするプレス加工とは異なり、複雑な曲げ形状や巻き形状を、専用の金型(ダイセット)を組むことなく、標準的な工具の組み合わせと運動制御によって実現できる点が、フォーミングマシンの技術的な優位性です。
機械構造と材料供給プロセス
フォーミングマシンの全体システムは、材料の供給から製品の排出まで、一貫した流れの中で構成されています。そのプロセスは、アンコイラ、レベラ・ストレートナ、フィード機構、そして成形ユニットという四つの主要なサブシステムによって成立しています。
1. 材料供給と矯正:ストレートナの工学
加工の出発点は、コイル状に巻かれた材料の供給です。アンコイラから引き出された線材や帯材は、巻き癖と呼ばれる曲がりを持っています。この癖が残ったままでは、後の成形工程で寸法ばらつきや形状不良を引き起こすため、完全に直線状に矯正する必要があります。この役割を担うのがストレートナです。
ストレートナは、千鳥状に配置された複数のローラー群で構成されています。材料はこれらのローラーの間を通過する際、繰り返し逆方向への曲げモーメントを受けます。工学的には、この過程で材料内部の応力分布を均一化し、弾性限度を超える曲げ変形を交互に与えることで、残留応力を除去し、真直性を確保します。線材の場合、縦方向と横方向の二つの平面に対してローラー群を配置し、三次元的な曲がりを矯正します。この矯正精度が、最終製品の品質を決定づける最初の、そして極めて重要な因子となります。
2. フィード機構:精密な長さ制御
矯正された材料は、フィード機構によって成形エリアへと間欠的に送られます。ここでは、グリップフィード方式やローラーフィード方式が採用されます。グリップフィード方式は、材料を把持するチャックが往復運動を行うことで材料を搬送します。一方、ローラーフィード方式は、サーボモーターで駆動されるローラーの回転によって材料を送り出します。
現代のフォーミングマシンでは、NC制御(数値制御)によるローラーフィードが主流であり、マイクロメートル単位での送り長さの制御が可能です。この送り精度の高さが、製品の展開長寸法の正確さを保証します。
成形メカニズム:スライドとカム、そしてサーボ
フォーミングマシンの心臓部は、実際に材料を変形させる成形ステージです。ここでは、センタツールと呼ばれる固定された芯金の周囲に、複数のスライドユニットが放射状、あるいは直線状に配置されています。
スライド運動と加工の自由度
各スライドの先端には、パンチや曲げ型といった工具が取り付けられています。これらのスライドが、設定されたタイミングとストロークで材料に向かって前進し、センタツールに材料を押し付けることで、曲げや切断を行います。
一般的なプレス加工が、上下方向(Z軸)のみの運動で成形を行うのに対し、フォーミングマシンは、水平面内のあらゆる角度(X軸、Y軸、およびその合成ベクトル)から工具を作用させることができます。これにより、プレス加工では金型内部に複雑なカム機構を組み込まなければ実現できないような、アンダーカット形状(内側に曲げ込む形状)や、円筒状に巻き込む形状を、極めて単純な工具構成で実現します。
駆動方式の進化:メカニカルからNCへ
フォーミングマシンの駆動方式は、歴史的にメカニカル方式からNC方式へと進化を遂げてきました。この進化は、生産性と柔軟性という二つの工学的課題への回答です。
- メカニカル式(カム駆動) 一つの主軸モーターの回転を、ギアやチェーンを介して複数のカムシャフトに伝達し、カムの回転運動をスライドの直線運動に変換する方式です。 この方式の工学的特徴は、各スライドの動作タイミングが、カムの形状と位相によって物理的に完全に同期している点にあります。そのため、一度調整が完了すれば、極めて高速かつ安定した量産加工が可能です。しかし、製品形状を変更するためには、カムの交換や微妙な位相調整といった、熟練を要する長時間の段取り作業が必要となります。
- NC式(サーボモーター駆動) 各スライドやフィード機構、回転ツールなどを、それぞれ独立したサーボモーターで駆動し、コンピュータによって同期制御する方式です。 この方式の本質は、カムという物理的な拘束からの解放です。スライドのストローク、速度、タイミング、待機時間などを、プログラム上で数値として自由に設定・変更できます。これにより、試作から量産への移行が迅速に行えるほか、メカニカル式では不可能な、加工中にスライドの速度を可変させるといった高度な制御が可能となります。例えば、材料に接触する瞬間だけ速度を落として衝撃を和らげたり、スプリングバック(弾性回復)を見越して停止位置を微調整したりといった動作が容易になります。
塑性加工の原理とスプリングバック対策
フォーミングマシンにおける加工は、材料力学における塑性変形の原理に基づいています。材料に降伏点を超える応力を加えることで、永続的な変形を与えます。しかし、ここで最大の技術的課題となるのがスプリングバックです。
スプリングバックの制御
金属材料を曲げた後、工具を離すと、材料は弾性変形の分だけ元の形状に戻ろうとします。これをスプリングバックと呼びます。特に、高張力鋼やばね用ステンレス鋼といった硬い材料ほど、この傾向は顕著になります。
フォーミングマシンでは、このスプリングバックを見越し、目標とする角度よりも深く曲げ込むオーバーベンドを行うことが基本となります。NC機においては、タッチセンサーや画像処理装置を用いて加工後の形状を機上で計測し、その結果をフィードバックして次の加工時のスライドストロークを自動補正する、知的化されたシステムも実用化されています。これにより、材料のロットごとの硬さのばらつきによる寸法変化を、リアルタイムで吸収することが可能となっています。
プレス加工(順送プレス)との比較における工学的優位性
金属板の加工において、フォーミングマシンとしばしば比較されるのが、順送金型を用いたプレス加工です。両者は競合する領域もありますが、工学的には明確な棲み分けが存在します。
1. 材料歩留まりの最大化
順送プレスでは、複数の工程を繋ぐために、製品とはならないキャリアと呼ばれる帯状の部分が必要となり、これがスクラップとして廃棄されます。一方、フォーミングマシンでは、線材や帯材そのものを製品として成形し、最後に切断するため、原理的にスクラップがほとんど発生しません。高価な材料を使用する場合、この材料歩留まりの差は、製造コストに決定的な影響を与えます。
2. 金型コストの低減
順送プレスでは、製品形状に合わせた専用の複雑な金型セットが必要であり、その設計・製作には多大なコストと時間を要します。対してフォーミングマシンは、標準的なパンチやダイの組み合わせと、それらの動作プログラムによって形状を創成するため、専用工具(ツーリング)にかかるコストが大幅に低く抑えられます。これは、多品種少量生産や、製品寿命の短い現代の市場環境において大きな利点となります。
3. 加工限界の拡張
順送プレスは、板厚方向の加工(絞りや打ち抜き)に強みを持つ一方、線材の複雑な曲げや、長いストロークを必要とする加工は苦手とします。フォーミングマシンは、長い線材を振り回しながら曲げるような動作や、複雑に絡み合った三次元形状の成形を得意とします。
応用分野と今後の展望
フォーミングマシンによって製造される部品は、自動車のシート内部のワイヤーフレーム、エンジンのバルブスプリング、電子機器のコネクタ端子、医療用の微細なクリップなど、多岐にわたります。特に近年では、電気自動車(EV)向けのバスバー(大電流用導体)の製造において、平角線を複雑に曲げ加工するニーズが急増しており、高剛性なフォーミングマシンの重要性が高まっています。
また、インダストリー4.0の流れを受け、シミュレーション技術との融合も進んでいます。CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)を用いて、PC上で工具の干渉チェックや成形プロセスの最適化を行い、そのデータを直接機械に転送して加工を開始するといった、バーチャルとリアルを繋ぐエンジニアリングワークフローが確立されつつあります。
まとめ
フォーミングマシンは、多方向からのスライド運動を協調させることで、金属線材や帯材から三次元的な機能部品を創り出す、極めて柔軟で高効率な生産設備です。
その工学的な本質は、固定された金型形状に材料を押し込むのではなく、工具の運動軌跡によって材料の形状を定義するという、キネマティックな成形思想にあります。メカニカル機構の精密な同期技術と、最新のサーボ制御技術が融合したこの機械は、材料ロスを最小限に抑えつつ、複雑化する工業製品のニーズに応え続ける、サステナブルなものづくりのためのキーテクノロジーと言えるでしょう。


コメント