グランドパッキンは、ポンプやバルブといった流体機器の回転軸や往復動軸の周囲に設置され、内部の流体が外部へ漏れ出すのを防ぐためのシール部品です。スタッフィングボックスと呼ばれる円筒状の空間に、紐状のパッキンをリング状に切って詰め込み、グランド押さえと呼ばれる部品で軸方向に圧縮することで、その反発力によって軸表面に密着させてシール機能を発揮します。
古くは麻や綿などの天然繊維に油脂を含浸させたものが主流でしたが、現代では炭素繊維、アラミド繊維、フッ素樹脂繊維、膨張黒鉛といった先端材料を編み込んだ複合材料へと進化しています。メカニカルシールと比較して構造が単純であり、突発的な破損が少なく、調整によって漏れをコントロールできるという特性から、原子力発電所の主要弁から化学プラントのプロセス用ポンプ、船舶のスクリュー軸に至るまで、極めて広範な産業分野で利用され続けています。
シール原理と接触面圧の力学
グランドパッキンのシールメカニズムは、外部から与えられた締め付け力を、流体を遮断するための接触面圧へと変換するプロセスに基づいています。
軸方向力から径方向力への変換
スタッフィングボックス内に充填されたパッキンは、グランドボルトを締め込むことによって、軸方向すなわちパッキンの長さ方向に圧縮されます。パッキンは弾性体であるため、軸方向に圧縮されると体積一定の法則あるいはポアソン比の効果により、横方向すなわち径方向へ膨らもうとします。 しかし、外側はスタッフィングボックスの壁面に、内側は回転軸に拘束されているため膨らむことができません。行き場を失ったこの膨張力が、軸表面およびボックス内壁への強い接触面圧となります。この面圧が、内部から漏れ出そうとする流体の圧力よりも高ければ、流体は封止されます。これがグランドパッキンの基本的なシール原理です。
圧力分布と最小面圧
パッキン層内の接触面圧は均一ではありません。グランド押さえに近い側ほど面圧が高く、奥に行くほど摩擦によって締め付け力が減衰するため面圧は低くなります。 一般的に、流体をシールするために必要な最小面圧は、流体圧力と等しいか、あるいはそれよりわずかに高い値である必要があります。したがって、最も流体圧力が高いボックスの最奥部で十分な面圧を確保しようとすると、入り口付近では過剰な面圧となり、軸の摩耗や発熱の原因となります。この圧力分布の不均一性はグランドパッキンの宿命的な課題であり、これを緩和するためにパッキン材料には応力緩和が少なく、かつ滑りの良い特性が求められます。
ポンプ用とバルブ用の機能的差異
グランドパッキンは用途によって、ポンプ用とバルブ用で求められる機能と運転方法が根本的に異なります。
ポンプ用パッキンと漏れ管理
ポンプの主軸は高速で回転します。この環境下でパッキンを完全に締め切って漏れをゼロにすると、摩擦熱によってパッキンが焼き付き、軸が異常摩耗してしまいます。 そのため、ポンプ用パッキンでは、意図的に微量の流体を漏らすことが技術的な鉄則となります。漏れ出る流体は、摩擦面を潤滑する潤滑油の役割と、発生した摩擦熱を外部へ運び去る冷却材の役割を同時に担います。 つまり、ポンプ用パッキンの管理とは、漏れを止めることではなく、適切な漏れ量を維持することにあります。この「健全な漏れ」を実現するために、パッキン材料には熱伝導性が高く、かつ摩擦係数の低いものが選定され、内部には潤滑油やPTFEディスパージョンなどの潤滑剤が含浸されています。
バルブ用パッキンと気密性
一方、バルブの弁棒は、頻繁には動かず、動いたとしても低速の往復運動や回転運動です。しかし、ポンプに比べて扱う圧力や温度が高く、かつ一度閉止したら長期間漏らしてはならないという高い気密性が求められます。 ここでは、摩擦熱の除去よりも、高圧下での耐はみ出し性や、ガス透過を防ぐ緻密性が優先されます。そのため、バルブ用パッキンには、金属線で補強された膨張黒鉛など、構造が緻密で強固な材料が使用され、高トルクで強固に締め付けられます。近年では、微量な有害ガスの漏洩も許さないVOC規制に対応するため、高度な低漏洩技術が投入されています。
編組構造と材料の進化
現代のグランドパッキンは、単一の素材ではなく、繊維と潤滑剤、そして微粒子充填材の複合体です。その性能を決定づけるのは、素材の組み合わせと、それを一本の紐にまとめ上げる編組技術です。
編み方の技術
パッキンの断面形状は一般的に正方形ですが、その編み方には種類があります。 最も一般的なのは、八編みや袋編みと呼ばれる構造ですが、これらは切断した際に断面がほつれやすいという欠点がありました。 これに対し、現在主流となっているのが格子編みあるいはインターロック編みと呼ばれる手法です。繊維を芯まで複雑に絡ませながら編み上げることで、断面を切断してもほつれにくく、また装着後の変形も少ないという特徴があります。さらに、軸との接触面積を増やし、シール性を向上させる効果もあります。
先端材料の適用
炭素繊維・黒鉛繊維: 耐熱性と耐薬品性に優れ、熱伝導率も高いため、高速回転するポンプや高温バルブに適しています。 アラミド繊維: 鋼鉄の数倍の引張強度を持つ有機繊維です。耐摩耗性が極めて高く、スラリーすなわち固形物を含んだ流体に対して圧倒的な耐久性を示します。ただし、繊維自体が硬く軸を摩耗させやすいため、軸表面の硬化処理が必要です。 PTFE繊維: 耐薬品性が最強であり、酸・アルカリ・溶剤などあらゆる流体に使用できます。また摩擦係数が極めて低いですが、熱伝導率が悪く、熱膨張しやすいため、高速回転には不向きです。 膨張黒鉛: 鱗片状の黒鉛を酸処理して膨張させ、シート状や紐状にしたものです。柔軟性、耐熱性、耐薬品性に優れ、放射線環境下でも劣化しないため、原子力プラントなどで多用されています。
トライボロジーとPV値
回転機器においてパッキンを選定する際、最も重要な指標となるのがPV値です。これは流体圧力Pと軸周速Vの積で表される数値で、パッキンが耐えうる摩擦発熱の限界を示唆します。
摩擦発熱のメカニズム
パッキンと軸の接触面で発生する摩擦熱量は、摩擦係数、接触面圧、および滑り速度に比例します。接触面圧は流体圧力をシールするために必要な値であるため、結果として圧力Pと速度Vが高いほど発熱量は増大します。 発生した熱が放熱能力を超えると、パッキン内部の潤滑剤が枯渇あるいは炭化し、パッキン自体が硬化・収縮します。これによりシール力が低下して漏れが増えるか、あるいは焼き付いて軸を損傷させます。 各パッキンメーカーは、材料ごとに限界PV値を設定しており、設計者はこの範囲内で使用する必要があります。例えば、熱伝導率の良い炭素繊維パッキンは高いPV値まで許容されますが、断熱性の高いPTFEパッキンは低いPV値でしか使用できません。
スリーブの役割
パッキンによる軸の摩耗は避けられない現象です。高価な主軸そのものが摩耗すると交換コストが莫大になるため、パッキンが接触する部分にスリーブと呼ばれる円筒状の保護カバーを取り付けることが一般的です。摩耗した場合はこのスリーブのみを交換することで、メンテナンスコストと時間を大幅に削減できます。スリーブ表面には、セラミックス溶射やステライト盛りなどの硬化処理を施し、パッキンによる攻撃に耐える仕様とします。
施工技術と初期馴染み
グランドパッキンの性能は、その取り付け作業の良し悪しに大きく依存します。正しい手順で装着されなかったパッキンは、短期間で漏れや発熱トラブルを引き起こします。
リング成形と切断
パッキンは通常、リールに巻かれた状態で供給されます。これを軸径に合わせて切断し、リング状にします。 切断する際は、切り口を斜め45度にする方法と、垂直90度にする方法がありますが、シール性を高めるためには切り口同士が重なり合う斜めカットが有利です。ただし、取り扱いの容易さから垂直カットが採用されることもあります。 重要なのは、正確な長さに切ることです。短すぎれば隙間から漏れが発生し、長すぎれば装着時に波打ってしまい均一な面圧が得られません。
装着と締め付け
リング状にしたパッキンをスタッフィングボックスに挿入する際は、切り口の位置が重ならないように、各層ごとに90度あるいは120度ずつずらして配置します。これを層間変位と呼び、漏れ経路を迷路状にすることでシール性を高めます。 全てのリングを挿入した後、グランドボルトを締め込みますが、ここでいきなり強く締め付けるのは厳禁です。最初は手締め程度にし、ポンプを起動してから、漏れ具合を見ながら徐々に増し締めを行っていく初期馴染み運転、ランニングインが不可欠です。
応力緩和への対応
パッキンは装着直後から応力緩和、すなわち反発力の低下が始まります。特に運転初期は、馴染みによる体積減少や潤滑剤の流出により、面圧が急速に低下します。 したがって、定期的な増し締めメンテナンスが必要です。これを怠ると、面圧不足による漏れの増大を招くだけでなく、パッキンとボックスの間に隙間が生じ、パッキン全体が共回りする現象が発生して機能を喪失する恐れがあります。
特殊な機能付加とランタンリング
流体の性質によっては、単にパッキンを詰め込むだけでは対応できない場合があります。その際に用いられるのがランタンリングと注水システムです。
封水と潤滑
スラリーを含む液や、有毒な液、あるいは負圧になるポンプの場合、パッキンの途中にH型断面を持つ金属製のリング、ランタンリングを挿入します。 そして、スタッフィングボックスの外側から、ランタンリングの位置に向けて清浄な水(封水)を注入します。 注入された水は、パッキンの隙間を通って機内へわずかに流れ込みます。これにより、内部のスラリーがパッキン部に侵入するのを防ぎ、同時にパッキンと軸の潤滑・冷却を行います。このシステムは、浚渫船のポンプや排煙脱硫装置など、過酷な環境で広く採用されています。
メカニカルシールとの比較と住み分け
現代の流体機器において、グランドパッキンと双璧をなすのがメカニカルシールです。両者はそれぞれ明確な長所と短所を持ち、適材適所で使い分けられています。
メカニカルシールの優位性
メカニカルシールは、精密に研磨された摺動面でシールを行うため、漏れ量をほぼゼロに近く、メンテナンスフリー期間が長いという特徴があります。高価で複雑ですが、省エネや環境対策が重視される化学プラントなどでは主流です。
グランドパッキンの復権
一方、グランドパッキンは、構造が単純で堅牢です。 軸の振動や振れが大きくても追従でき、砂などが混入しても即座に破損することはなく、突然の大漏洩を起こすリスクが極めて低いです。また、パッキン自体が安価であり、交換作業も現場で容易に行えます。 この「タフさ」と「扱いやすさ」により、水道設備、下水処理、船舶、製紙工場など、止めることが許されないインフラ設備や、メンテナンス要員が確保しやすい現場では、現在でもグランドパッキンが第一選択肢として選ばれ続けています。
未来への技術展望
グランドパッキンは枯れた技術と思われがちですが、環境規制の強化や省メンテナンス化の要求に応えるため、進化を続けています。
低トルク・高シール性
従来のパッキンは、漏れを止めるために強く締め付ける必要があり、それが軸トルクの増大を招いていました。 最新のパッキンでは、特殊な潤滑剤の配合や、断面形状の工夫により、低い締め付け力でも高いシール性を発揮する低トルク型が開発されています。これにより、ポンプの消費電力を削減し、省エネに貢献しています。
ライブローディングシステム
バルブ用パッキンにおいて、皿バネを組み込んだボルトを使用し、パッキンのヘタリに合わせて自動的に締め付け力を維持するシステム、ライブローディングの導入が進んでいます。これにより、メンテナンス周期を大幅に延長し、長期的な信頼性を確保することが可能になっています。


コメント