ホブ加工は、円筒状の歯車素材から歯形を削り出す歯切り加工の一種であり、現代の機械産業において最も広く普及している歯車製造プロセスです。自動車のトランスミッション、産業用ロボットの関節、風力発電機の増速機など、動力を伝達するあらゆる機械装置において、ホブ加工によって製造された歯車が稼働しています。
この加工法が圧倒的なシェアを持つ理由は、その生産性の高さと柔軟性にあります。一つの工具で歯数の異なる歯車を加工できるという創成加工の原理に基づいており、平歯車だけでなく、はすば歯車やウォームホイールなど、多様な種類の歯車を連続的に生み出すことが可能です。
創成加工の原理
歯車の歯形を加工する方法は、大きく成形法と創成法に二分されます。フライス盤などで、歯の形をしたカッターを用いて溝を一つずつ彫っていくのが成形法です。これに対し、ホブ加工が属する創成法は、歯車とかみ合う相手側の歯形を模した工具を用い、両者を同期回転させることで、その包絡線として歯形を浮かび上がらせる手法です。
ラックカッターとの類似性
インボリュート歯車の噛み合い理論において、歯数が無限大に増えた歯車は、歯形が直線となるラックになります。このラック型の工具を、回転する円盤状のワーク(被削材)に押し当て、ワークの回転に合わせてラックを接線方向に移動させると、ワーク上には正確なインボリュート曲線が削り出されます。これが創成加工の基本概念です。
ウォームによる連続創成
しかし、ラックカッターを用いた加工では、ラックの長さに限りがあるため、ある程度進んだら元の位置に戻るという往復運動が必要となり、加工効率が上がりません。そこで考案されたのがホブです。 ホブは、ラックの歯形をねじ状に巻き付けたウォーム(ねじ歯車)のような形状をしています。このねじ状の刃物が回転することで、見かけ上、ラックが無限に移動し続ける状態を作り出すことができます。 つまり、ホブ加工とは、ホブというウォームと、ワークである歯車が、互いに噛み合いながら回転するねじ歯車対の運動を再現しつつ、ホブの切れ刃によって不要な部分を除去していくプロセスと言えます。この連続性こそが、ホブ加工の驚異的な生産性の源泉です。
工具「ホブ」の構造と設計
ホブの外観は、溝の切られた芋虫のような形状をしています。その設計には、切れ味と精度、そして工具寿命を両立させるための高度なノウハウが凝縮されています。
切れ刃の形成
基本となるのはウォーム形状ですが、そのままでは切削能力がありません。そこで、軸方向にガッシュと呼ばれる溝を刻み込みます。この溝によって現れる断面がすくい面となり、外周面が逃げ面となって、初めて金属を削るための切れ刃が形成されます。 ガッシュは通常、ねじれ角に対して直角になるように刻まれますが、直溝ホブやねじれ溝ホブなど、用途に応じて様々な種類があります。
諸元と精度
ホブには、モジュールや圧力角といった歯車諸元が設定されています。重要なのは、一つのホブで、同じモジュールと圧力角を持つ歯車であれば、歯数が10枚でも100枚でも加工できるという点です。これは成形法にはない大きな利点です。 ホブの精度は、JISなどの規格で厳格に等級分けされており、歯形誤差やピッチ誤差、振れなどがミクロン単位で管理されています。高精度な歯車を作るためには、高精度なホブが必要不可欠です。
材質とコーティング
かつては高速度工具鋼、ハイス鋼が主流でしたが、近年の高速加工の要求に伴い、超硬合金製のホブが増加しています。超硬ホブは、耐摩耗性と耐熱性に優れ、ハイスの数倍の切削速度での加工を可能にします。 さらに、工具寿命を延ばすために、窒化チタンや窒化チタンアルミなどの硬質薄膜コーティングが施されます。最新のコーティング技術は、摂氏800度を超える高温下でも酸化せず、また潤滑性を持って切り屑の溶着を防ぐ機能を持っています。
機械の運動と同期制御
ホブ盤と呼ばれる専用の工作機械において、ホブとワークは厳密な同期関係を保って回転する必要があります。
回転比の同期
ホブの条数(ねじの筋の数)をZ1、加工する歯車の歯数をZ2とすると、ホブが1回転する間に、ワークはZ1割るZ2回転する必要があります。例えば、1条のホブで40枚の歯車を削る場合、ホブが40回転する間にワークは正確に1回転しなければなりません。 かつての機械式ホブ盤では、多数の交換歯車(チェンジギヤ)を組み合わせてこの回転比を作り出していましたが、現代のNCホブ盤では、各軸を独立したサーボモーターで駆動し、コンピュータ制御によって電気的に同期させています。これにより、段取り時間の短縮と、ミクロン単位の補正制御が可能になりました。
送り運動とねじれ角
歯幅方向に歯形を形成するためには、ホブをワークの軸方向に送る必要があります。これをアキシャル送りと言います。 平歯車を加工する場合は単純な送りで良いのですが、はすば歯車を加工する場合は、ねじれ角に合わせてワークに追加の回転を与える必要があります。これを差動運動と呼びます。NCホブ盤では、この複雑な合成運動も数値演算によって容易に実現できます。
切削メカニズムと加工法
ホブ加工における切削は、断続切削の連続です。ホブの多数の刃が次々とワークに食い込み、コンマ数ミリずつ金属を削ぎ落としていきます。
アキシアル送りの方向
切削の方向には二つの種類があります。 一つは、ホブの送り方向と、切削力が働く方向が逆になるコンベンショナル加工、あるいはアッパーカットです。切り屑厚さがゼロから始まり徐々に厚くなるため、刃の擦れ摩耗が起きやすいですが、機械の剛性が低い場合でも安定しやすい特徴があります。 もう一つは、ホブの送り方向と切削力が同じ向きになるクライム加工、あるいはダウンカットです。切り屑がいきなり厚いところから始まるため、食い込みが良いですが、機械にバックラッシ(隙間)があると引き込み現象が起きて危険です。 現代の高剛性なホブ盤では、工具寿命と加工面粗さの観点から、クライム加工が一般的に採用されています。
シフト加工
ホブ加工を続けると、ホブの特定の刃だけが集中的に摩耗します。これを防ぐために、加工ごとに、あるいは一定数加工した後に、ホブを軸方向にわずかにずらして、新しい刃を使うようにする技術があります。これをシフト加工あるいはホブシフトと呼びます。 これにより、ホブの全長にわたって均一に摩耗させることができ、工具寿命を最大限に延ばすことができます。
加工精度とカプス高さ
ホブ加工された歯面を拡大して観察すると、微細な波状の凹凸が見られます。これは多角形誤差とは別に、ホブの送りに起因する幾何学的な痕跡です。
カプスの形成
ホブは回転しながら軸方向に送られるため、その切削痕は微視的には円弧の連続となります。この円弧と円弧の谷間の盛り上がり部分をカプス、あるいはスキャロップと呼びます。 カプスの高さは、ホブの径と送り速度によって幾何学的に決定されます。送り速度を上げれば生産性は向上しますが、カプスが高くなり、歯面の表面粗さは悪化します。逆に、送りを細かくすれば面は滑らかになりますが、加工時間が長くなります。 このトレードオフを解消するために、多条ホブ(2条や3条のねじを持つホブ)を使用して、回転比を変えずに加工能率を上げるといった手法が採られます。
歯形誤差とピッチ誤差
ホブの取り付け精度や、機械の同期誤差は、そのまま歯車の精度に転写されます。 ホブが偏心して回転していると、歯形が周期的に歪む「歯形誤差」が発生します。また、ワークの回転軸にブレがあると、隣り合う歯の間隔がばらつく「ピッチ誤差」や、全周での累積誤差が発生します。 高精度な歯車を得るためには、ホブ自体の精度だけでなく、アーバー(取付軸)の剛性や、ワークのクランプ(固定)状態の管理が極めて重要です。
最新技術とドライカット
環境負荷低減とコストダウンの要求から、切削油を使用しないドライホブ加工が急速に普及しています。
ドライ加工の熱問題
従来のウェット加工では、切削油が潤滑と冷却、そして切り屑の排出を担っていました。これを無くすドライ加工では、発生する膨大な切削熱をどう処理するかが最大の課題となります。 解決策の鍵は、超高速加工にあります。熱伝導の理屈により、熱がワークや工具に伝わる前に、高速で切り屑と共に熱を持ち去ってしまうという考え方です。 これを実現するために、耐熱性の高い超硬母材と最新のコーティング技術、そして切り屑が堆積しないように垂直に配置された機械構造などが開発されました。ドライ加工は、廃油処理が不要で作業環境もクリーンになるため、自動車産業を中心に標準的な工法となりつつあります。
スカイビング加工への展開
ホブ加工の弱点の一つに、内歯車(インターナルギヤ)が加工できないという幾何学的な制約があります。ホブがワークの内側に入り込むと干渉してしまうためです。 これに対し、近年注目されているのがギヤスカイビング加工です。これはホブ加工とギヤシェーパ加工の中間のような原理で、円盤状のカッターとワークを同期回転させながら、軸を交差させて滑りを与えることで切削します。 スカイビングは、ホブ加工と同様の連続創成運動でありながら、内歯車の高速加工が可能です。さらに、焼き入れ後の硬い歯車を削るハードスカイビングも実用化されており、ホブ加工の概念を拡張した次世代の工法として導入が進んでいます。
産業における重要性と未来
ホブ加工は、19世紀末にその基本原理が確立されて以来、工作機械の進化と共に洗練され続けてきました。
歯車仕上げの前工程として
高い静粛性が求められるEV用減速機などでは、ホブ加工の後に、歯面研削やホーニングといった仕上げ加工が行われることが一般的です。しかし、仕上げ代を最小限に抑え、かつ均一にするためには、前工程であるホブ加工の精度が極めて重要になります。ホブ加工の質が、最終製品の性能とコストを決定づけると言っても過言ではありません。


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