機械加工の基礎:ホブ加工

加工学

ホブ加工は、ホブと呼ばれる、ねじ状の切削工具を用いて、創成法という原理に基づき、歯車を削り出す加工法です。現代において、平歯車やはすば歯車といった、最も広く使われる円筒歯車を、高精度かつ高能率で大量生産するための、最も代表的な歯切り技術です。

歯車の歯形は、インボリュート曲線と呼ばれる、極めて精密な幾何学的曲線でなければ、滑らかな動力伝達は実現できません。ホブ加工は、工具で歯の形状を単純に「写し取る」のではなく、工具と工作物の巧妙な運動の組み合わせによって、この複雑なインボリュート歯形を、あたかも「創り出す」ようにして加工する点に、その最大の本質があります。


創成法による加工原理

ホブ加工の核心は、創成法という、歯車加工特有の原理を理解することにあります。

ホブという特殊な工具

ホブは、一見すると、ねじあるいはウォームのような形状をしています。しかし、そのねじ山には、軸方向に多数の溝が切られており、その溝によって、ねじ山が多数の切れ刃に分割されています。このホブの、軸と垂直な断面を観察すると、その刃の形状は、ラックと呼ばれる、直線状の歯車の形をしています。つまり、ホブとは、「ラック状の切れ刃を、つるまき線に沿って、円筒の周りに巻き付けた工具」と見なすことができます。

創成運動:ラックと歯車の噛み合いの再現

歯車工学において、インボリュート歯形を持つラックと歯車は、滑らかに噛み合いながら運動することができます。逆に言えば、もし、回転する歯車素材に、ラック形状の刃物を、噛み合わせながら直線運動させれば、その刃物の軌跡が、素材の上に正しいインボリュート歯形を削り出すことができます。これが創成法の基本概念です。

しかし、実際のラックは長さが有限であるため、連続的な加工はできません。そこで登場するのがホブです。ホブは、回転することで、あたかも「無限に長いラックが、連続的に移動してくる」のと同じ状況を、擬似的に作り出します。

ホブ加工では、以下の三つの運動が、ホブ盤と呼ばれる専用の工作機械によって、精密に同期して行われます。

  1. ホブの回転運動: ホブは、切削速度を得るために、高速で回転します。
  2. 工作物の回転運動: 歯車素材である工作物は、ホブの回転と、あたかもウォームギヤのように、正確な回転比を保ちながら、ゆっくりと回転します。
  3. ホブの送り運動: ホブは、工作物の軸と平行な方向に、ゆっくりと移動していきます。

この三つの運動が組み合わさることで、回転するホブの無数の切れ刃が、回転する工作物を、少しずつ、しかし連続的に削り取っていきます。工作物が一回転する間に、全ての歯の谷が少しずつ削られ、加工が進むにつれて、徐々に深い歯溝が形成されていきます。そして、ホブが工作物の端から端まで移動し終えたとき、全ての歯が、完全なインボリュート歯形として創成されているのです。


ホブ加工の長所と工学的な要点

高い生産性

ホブ加工は、工具と工作物が常に回転し続け、切れ刃が絶え間なく工作物を削り続ける連続切削です。切削を行わない「戻り工程」が存在しないため、加工能率が極めて高く、自動車部品などの大量生産に最適です。

高い汎用性

歯車の歯形は、その大きさを定義するモジュールと、歯の傾きを示す圧力角という、二つの基本的なパラメータで規格化されています。一度、特定のモジュールと圧力角のホブを用意すれば、そのホブ一つで、歯数が20枚の小さな歯車から、100枚の大きな歯車まで、あらゆる歯数の歯車を加工することが可能です。歯数ごとに専用の工具を必要とする成形法に比べて、工具管理の面で大きな利点があります。

高い加工精度

創成法という原理は、理論的に正確なインボリュート歯形を、滑らかに創り出すことができます。これにより、特別な熟練技術を必要とせずとも、安定して高精度な歯車を生産することが可能です。

はすば歯車の加工

歯すじが斜めに傾いた、はすば歯車を加工する際には、上記の三つの運動に加え、ホブの軸方向への送りに同期して、工作物の回転をわずかに増加、あるいは減少させる差動運動を加えます。これにより、ホブの切れ刃が、工作物上に螺旋状の軌跡を描き、はすば歯車の「ねじれ」が創成されます。

短所

その優れた生産性の一方で、ホブ加工にはいくつかの制約もあります。まず、工具の構造上、外側に歯がある外歯車しか加工できず、内歯車を加工することはできません。また、歯車の側面に壁(つば)があるような形状では、ホブが壁に干渉してしまうため、加工が困難です。


まとめ

ホブ加工は、ラックと歯車の噛み合い運動を、ホブというねじ状の工具の連続回転によって巧妙に再現し、精密なインボリュート歯形を、高能率で創り出す、歯車製造の中核をなす技術です。

その優れた生産性、汎用性、そして精度の高さから、自動車、産業機械、ロボットといった、現代のあらゆる機械を構成する、最も重要な動力伝達要素である歯車の品質とコストを、根底から支えています。ホブ加工は、単純な円盤状の素材から、動力伝達の秩序を生み出す、洗練された運動のエンジニアリングなのです。

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