機械制御の基礎:インバーター

機械制御

インバーターは、電気エネルギーの形態を自在に変換する電力変換装置です。広義には直流電力を交流電力に変換する回路あるいはその機能そのものを指しますが、産業界や家電製品の分野において一般的にインバーターと呼称される装置は、商用交流電源を受け取り、それを一旦直流に変換した上で、再び任意の周波数と電圧を持つ交流に変換して出力する装置、すなわち可変電圧可変周波数電源装置のことを指します。

この装置は、現代社会における省エネルギーと自動化を支える最も重要な基盤技術の一つです。エアコンや冷蔵庫といった家庭用電化製品から、エレベーター、電車、電気自動車、そして工場のラインを動かすコンベアやファン、ポンプに至るまで、モーターが回転している場所には必ずと言っていいほどインバーターが存在しています。


電力変換の基本原理

インバーターの機能を物理的に表現すると、それは高速かつ精密なスイッチの切り替え操作に他なりません。

直流から交流を作り出す仕組み

乾電池のような直流電源があると仮定します。このプラス極とマイナス極を、モーターなどの負荷に対してそのまま繋げば、電流は一方向に流れます。しかし、もし接続を瞬時に入れ替えることができれば、電流の向きは逆になります。この入れ替え操作を一定の周期で高速に繰り返すと、負荷側から見れば電流の向きが交互に入れ替わっていることになり、擬似的な交流が生成されます。これがインバーターの最も原始的な原理です。 実際の回路では、手動スイッチの代わりにトランジスタやIGBTといった半導体スイッチング素子が用いられます。4つのスイッチをH型に配置したフルブリッジ回路において、対角線上にあるスイッチをペアとして交互にオンオフさせることで、負荷に交流電圧を印加します。

周波数の可変制御

スイッチを切り替える速度を変えれば、出力される交流の周波数を自由に変えることができます。 1秒間に60回切り替えれば60ヘルツになり、120回切り替えれば120ヘルツになります。商用電源の周波数は50ヘルツまたは60ヘルツに固定されていますが、インバーターを用いれば、ゼロヘルツ近い低周波から、数千ヘルツ以上の高周波まで、任意の周波数を作り出すことが可能です。これにより、交流モーターの回転速度を自在に制御することができるのです。


汎用インバーターの回路構成

産業用モーターを駆動するための汎用インバーター装置は、大きく分けてコンバータ部、平滑回路部、そしてインバーター部の三つのセクションから構成されています。

コンバータ部 順変換器

商用電源から供給される交流電力を、一旦直流電力に変換する部分です。 ここではダイオードブリッジ回路が用いられます。ダイオードは電気を一方向にしか流さない性質を持つため、交流の波形を整流し、脈流と呼ばれる波打った直流を作ります。

平滑回路部 直流リンク

コンバータ部で作られた脈流は、電圧が変動しているため、そのままでは使い物になりません。そこで、大容量の電解コンデンサを用いて電気を蓄え、電圧の変動を吸収して平らな直流電圧にします。 この部分は直流リンクとも呼ばれ、エネルギーのバッファとしての役割を果たします。瞬時停電時のバックアップや、モーターからの回生エネルギーを一時的に受け止める役割も担っています。

インバーター部 逆変換器

平滑化されたきれいな直流を、再び交流に変換する部分です。ここが狭義のインバーターです。 6個のスイッチング素子(3相交流の場合)が、マイクロコンピュータからの指令に従ってナノ秒単位の精度でオンオフを繰り返し、目的とする周波数と電圧の交流を出力します


PWM制御と擬似正弦波

単純にスイッチをオンオフするだけでは、出力される波形は矩形波と呼ばれる角張った波形になります。しかし、モーターをスムーズに回すためには、滑らかな正弦波が必要です。これを実現するのがPWM制御、パルス幅変調制御です。

電圧の平均値を操る

PWM制御とは、スイッチをオンにしている時間の長さ、すなわちパルス幅を変化させることで、出力される電圧の平均値を制御する手法です。 正弦波の山の頂点付近のように高い電圧が必要なタイミングでは、パルス幅を広く(オン時間を長く)とります。逆に、電圧が低いタイミングでは、パルス幅を狭く(オン時間を短く)とります。 このようにして作られたパルスの列をモーターに印加すると、モーターのコイルが持つインダクタンス成分が電流の変化を平滑化するフィルタとして働き、結果としてきれいな正弦波状の電流が流れます。

キャリア周波数

このパルスを作るための基準となる切り替え周期をキャリア周波数と呼びます。 キャリア周波数が高いほど、より緻密な波形を作ることができ、モーターの電磁騒音を可聴域外へ追いやることができます。しかし、スイッチング回数が増えるため、インバーター自身の発熱やノイズが増加するというトレードオフがあります。最近のIGBT素子では、数キロヘルツから15キロヘルツ程度が一般的です。


V/f制御とベクトル制御

インバーターがモーターを制御するアルゴリズムには、用途に応じていくつかの種類があります。

V/f一定制御

最も基本的で安価な制御方式です。 交流モーター(誘導電動機)は、周波数を変えると回転速度が変わりますが、同時に電圧も調整しなければなりません。周波数だけを下げて電圧を下げないと、過励磁という状態になり、モーターが焼損するからです。 そこで、電圧Vと周波数fの比率を一定に保ちながら制御します。これをV/f制御と呼びます。ファンやポンプなど、負荷が一定あるいは回転数に応じて変化する用途に適しています。

ベクトル制御

V/f制御の弱点は、低速域でのトルク不足と、急激な負荷変動に対する応答性の悪さです。これを克服するために開発されたのがベクトル制御です。 この方式では、モーターに流れる電流を、磁束を作るための励磁電流成分と、回転力を生むためのトルク電流成分の二つに数学的に分解して計算します。 それぞれの電流成分を独立して制御することで、直流モーターのように、低速から高速まで常に最適なトルクを発生させることができます。エレベーターやクレーン、電気自動車の駆動など、高い応答性とトルク精度が求められる用途では必須の技術です。


パワー半導体の進化

インバーターの性能、特に小型化と高効率化は、スイッチング素子であるパワー半導体の進化に依存しています。

サイリスタからIGBTへ

初期のインバーターではサイリスタやパワートランジスタが使われていましたが、スイッチング速度や制御性に限界がありました。 1990年代以降、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタであるIGBTが主流となりました。IGBTは、MOSFETの高速なスイッチング特性と、バイポーラトランジスタの高耐圧・大電流特性を併せ持つ理想的なデバイスであり、現代のインバーターの心臓部として君臨しています。

次世代のワイドバンドギャップ半導体

現在、シリコンに代わる新素材として、炭化ケイ素SiCや窒化ガリウムGaNを用いたパワー半導体の実用化が進んでいます。 これらはシリコンよりもバンドギャップが広いため、より高い電圧に耐えられ、かつオン抵抗が極めて低いという特徴があります。これにより、スイッチング損失を劇的に低減でき、インバーターの大幅な小型化と省エネ化が可能になります。鉄道車両や電気自動車においては、SiCインバーターの採用が急速に進んでいます。


モーター駆動と省エネルギー効果

インバーターの最大のメリットは省エネルギーです。特にファンやポンプなどの流体機械において、その効果は絶大です。

二乗低減トルク負荷の特性

ファンやポンプの軸動力は、回転速度の3乗に比例するという物理法則があります。 従来、風量や流量を調整するには、モーターを全速力で回したまま、ダンパーやバルブを絞って抵抗を増やしていました。これはブレーキを踏みながらアクセル全開で走るようなもので、莫大なエネルギーロスが発生します。 インバーターを用いてモーターの回転数そのものを下げれば、必要な動力は回転数の3乗で減少します。例えば回転数を80パーセントに落とせば、消費電力は約51パーセントにまで激減します。この圧倒的な省エネ効果こそが、インバーターが世界中で普及した最大の理由です。

ソフトスタート機能

商用電源でモーターを直接始動すると、定格電流の6倍から8倍もの突入電流が流れます。これは電源設備に負担をかけ、機械系にも大きな衝撃を与えます。 インバーターを使えば、低い周波数と低い電圧から徐々に加速するソフトスタートが可能です。これにより、始動電流を定格電流以下に抑え、機械の寿命を延ばすことができます。


高調波とノイズ対策

便利なインバーターですが、高速スイッチングを行うがゆえに、電気的なノイズ発生源となる側面もあります。

高調波電流の流出

コンバータ部の整流回路は非線形負荷であるため、電源側に歪んだ電流、すなわち高調波電流を流出させます。これが電源系統に流れ込むと、進相コンデンサを焼損させたり、他の電子機器を誤動作させたりする原因となります。 対策として、交流リアクトルや直流リアクトルを挿入して電流波形を平滑化したり、アクティブフィルタを用いて高調波を打ち消したりする方法がとられます。

EMIと漏れ電流

インバーター部での高速な電圧変化は、高周波ノイズ(EMI)を放射します。また、モーターとアース間の浮遊容量を通じて漏れ電流が流れ、漏電ブレーカーを誤作動させることがあります。 さらに、モーターの軸受に微小な電流が流れて火花放電が起き、軸受が腐食する電食という現象も問題となります。これらを防ぐために、ノイズフィルタの設置や、シールド線の使用、アースの強化といったEMC対策が不可欠です。


回生エネルギーの処理

エレベーターが下降するときや、電気自動車が減速するとき、モーターは発電機として働きます。このとき発生するエネルギーを回生電力と呼びます。

制動抵抗器と回生コンバータ

発電された電力はインバーターに戻ってきますが、通常のダイオード整流回路では電源側に電気を戻すことができません。そのため、直流リンクの電圧が上昇し、過電圧保護が働いて停止してしまいます。 これを防ぐために、制動抵抗器を接続して電気エネルギーを熱として捨ててしまう方法があります。 しかし、省エネの観点からは、電源回生コンバータを用いて、交流電源の波形に合わせて電気を電源側に戻す方法が理想的です。PWMコンバータとも呼ばれるこの装置を使えば、力率をほぼ1に保ちながら、エネルギーを無駄なく再利用できます。

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