機械要素の基礎:軸継手

機械要素

軸継手、あるいはカップリングと呼ばれる機械要素は、原動機であるモーターやエンジンと、従動機であるポンプ、ファン、減速機などの回転軸を連結し、動力と運動を伝達するための部品です。

機械システムにおいて、動力を発生させる場所と、実際に仕事をする場所は物理的に離れていることがほとんどです。そのため、それぞれの軸をつなぐ必要があります。しかし、単に棒を溶接して一本にするわけにはいきません。組立やメンテナンスの都合上、分割可能である必要があり、さらに運転中に生じる振動や軸芯のずれを吸収する機能が求められるからです。


動力伝達とミスアライメント

軸継手の最も基本的な役割はトルクの伝達ですが、現実の機械設計においてそれ以上に重要なのが、ミスアライメント、すなわち軸芯のずれへの対応です。

3つの軸ずれ

二つの軸を完璧な一直線上に配置することは、現実には不可能です。加工誤差、組立誤差、そして運転中の熱膨張や地盤沈下により、必ずずれが生じます。 このずれは以下の三つに分類されます。 第一に偏心です。二つの軸が平行でありながら、中心位置がずれている状態です。 第二に偏角です。二つの軸が角度を持って交差している状態です。 第三にエンドプレイ、あるいは軸方向変位です。熱膨張などにより、軸同士が近づいたり離れたりする動きです。

もし、これらのずれを許容しない剛体で無理やり連結して回転させると、軸や軸受には巨大な反力が作用します。これをこじりと呼びます。こじりは、振動、発熱、軸受の早期破損、さらには軸の疲労破壊を引き起こします。 優れた軸継手とは、確実にトルクを伝えながら、これらのミスアライメントを柔軟に吸収し、機械系に無理な力をかけない機能を持ったものを指します。


剛性軸継手とたわみ軸継手

軸継手は、その柔軟性の有無によって大きく二つに大別されます。

剛性軸継手 リジッドカップリング

軸継手自体に柔軟性を持たせず、二つの軸を強固に一体化させるタイプです。 代表的なものがフランジ形軸継手です。両方の軸端にフランジを固定し、それらをボルトで締め付けます。 このタイプは構造が単純で安価であり、高いトルクを伝達できます。また、ねじり剛性が無限大と見なせるため、回転の伝達遅れが一切ありません。 しかし、ミスアライメントを吸収する能力はゼロです。そのため、使用するには極めて高精度な芯出し(アライメント調整)が不可欠です。主に、長い軸を継ぎ足す場合や、軸受によって厳密に位置決めされた軸同士を連結する場合に使用されます。

たわみ軸継手 フレキシブルカップリング

構成部品の一部に弾性体や可動機構を組み込み、ミスアライメントを許容できるようにしたタイプです。現代の産業機械の大部分では、このたわみ軸継手が採用されています。 さらにこれは、金属のバネ性を利用するもの、樹脂やゴムの弾性を利用するもの、そして歯車や摺動機構を利用するものに細分化されます。


金属ばね式軸継手の技術

金属材料の弾性変形を利用した軸継手は、高い剛性と耐久性、そして環境耐性を兼ね備えています。

ディスクカップリング

薄いステンレス製の板バネ(ディスク)を積層し、ボルトで固定した構造です。 ねじり方向には非常に硬く、回転をダイレクトに伝えますが、曲げ方向には板バネがたわむことで柔軟性を示し、偏角や偏心を吸収します。 バックラッシ、すなわちガタが全くないノンバックラッシ構造であるため、サーボモーターによる精密位置決め用途で標準的に使用されます。偏心を吸収するためには、ディスクパックを二箇所に配置したダブルエレメント型が必要となります。

ベローズカップリング

蛇腹状の金属管(ベローズ)を用いた軸継手です。 ベローズが全方向に自由に曲がるため、偏心、偏角、エンドプレイのすべてに対して優れた追従性を持ちます。また、ねじり剛性が極めて高いのが特徴です。 構造的に完全な等速回転性を持ち、回転ムラが発生しません。そのため、エンコーダなどの計測器や、高精度な工作機械の送り軸に適しています。

スリットカップリング

円筒状の材料に、螺旋状のスリット(切り込み)を入れた一体構造の軸継手です。 スリット部分がバネとして機能します。部品点数が一つであるため安価で取り扱いが容易ですが、許容トルクや剛性は他の金属カップリングに比べて低めです。軽負荷のステッピングモーターなどに使用されます。


エラストマー式軸継手の技術

ゴムや樹脂(エラストマー)を緩衝材として挟み込むタイプは、振動減衰性に優れています。

ジョーカップリング

二つのハブの爪(ジョー)の間に、スパイダーと呼ばれる星形の樹脂製緩衝材を挟み込んだ構造です。 樹脂が圧縮されることでトルクを伝達します。樹脂の弾性により、振動や衝撃を吸収するダンピング効果が高く、ポンプやファンなどの一般産業機械で広く普及しています。 万が一樹脂が破損しても、金属の爪同士が噛み合って回転を伝え続けるフェイルセーフ性がありますが、その際は金属接触による騒音が発生します。

タイヤ形軸継手

タイヤのような形状のゴム弾性体を用いた軸継手です。 ゴム部分が大きくねじれることができるため、衝撃吸収性が極めて高く、また大きなミスアライメントも許容します。破砕機やコンプレッサーなど、変動荷重が大きい機械に適しています。


機械式可動継手の技術

弾性変形ではなく、部品同士の滑りや転がりを利用してずれを吸収するタイプです。

オルダムカップリング

入力側と出力側のハブの間に、凸部を持ったスライダーを挟み込んだ構造です。 ハブとスライダーが互いに直交する方向に滑ることで、大きな偏心を吸収します。この機構の幾何学的な特徴として、偏心していても等速回転が維持されます。 摺動部にはグリース塗布が必要なタイプと、自己潤滑性樹脂を用いるタイプがあります。構造上、偏角の許容量は小さいですが、平行な軸ずれには無類の強さを発揮します。


締結方法と軸への固定

軸継手がいかに高性能でも、軸に確実に固定されていなければ空転(スリップ)してしまいます。軸への締結技術もまた、重要な工学的要素です。

キー締結

軸とハブにキー溝を加工し、キーと呼ばれる金属片を介してトルクを伝達する古典的な方法です。 確実な伝達が可能ですが、キー溝加工によるコスト増や、キー溝部分への応力集中による軸の強度低下が課題となります。また、キーと溝の間にわずかな隙間があるため、サーボモーターのような正逆転を繰り返す用途では、ガタつきによる制御精度の悪化や摩耗(フレッティング)が発生します。

摩擦締結(メカロック・シュパンリング)

テーパー状のリングをボルトで締め込み、クサビ効果によって軸を締め付けて固定する方法です。 キー溝加工が不要であり、軸の任意の位置や角度で固定できる利便性があります。また、軸とハブが完全に一体化するためガタがなく、高剛性な締結が可能です。近年の精密機械においては、この摩擦締結が主流となりつつあります。

クランプ締結

ハブ自体にスリットを入れ、ボルトで締め付けることで内径を縮めて軸を把握する方法です。 軸を傷つけず、取り付け取り外しが容易ですが、伝達できるトルクは摩擦締結に比べて低くなります。小径の軸継手で多く採用されます。


選定における力学パラメータ

最適な軸継手を選定するためには、単にカタログの定格トルクを見るだけでは不十分です。系の動特性を考慮する必要があります。

常用トルクと最大トルク

カタログに記載されている常用トルクは、連続運転可能な限界値です。しかし、モーターの始動時や急停止時には、定格の数倍のピークトルクが発生します。軸継手は、この瞬時最大トルクに耐えうるサイズを選定しなければなりません。 一般的には、負荷の性質(衝撃の有無など)に応じた安全率、サービスファクターを乗じて必要トルクを計算します。

ねじり剛性と共振

軸継手は一種のねじりバネです。そのため、モーターのローター慣性と負荷慣性を、軸継手というバネでつないだ振動系が形成されます。 この系には固有振動数が存在します。もし、制御系のゲイン設定や運転周波数がこの固有振動数と一致すると、激しい共振現象、ハンチングが発生し、制御不能に陥ります。 高応答なサーボ系では、高いねじり剛性を持つディスクカップリングなどが選ばれますが、あえて剛性の低いゴムカップリングを選んで固有振動数を下げ、共振点を回避するという設計手法もあります。

反力による影響

ミスアライメントがある状態で軸継手を回転させると、軸継手は元の形状に戻ろうとして軸に反力を及ぼします。 この反力は、モーターや相手機械の軸受にとってのスラスト荷重やラジアル荷重となります。特にエンコーダなどの精密機器は軸受が繊細であるため、反力の小さい軸継手を選ばないと、軸受寿命を著しく縮めることになります。


メンテナンスとトラブルシューティング

軸継手は消耗品としての側面も持っています。

エラストマーの寿命

ゴムや樹脂を用いた軸継手は、経年劣化により硬化したり、亀裂が入ったりします。特に高温環境や油分が付着する環境では劣化が加速します。定期的な点検と交換が必要です。

金属疲労とフレッティング

金属製軸継手であっても、許容値を超えるミスアライメントで運転を続ければ、ディスクやベローズが金属疲労を起こして破断します。 また、ボルトの緩みや微小なガタがあると、接触面が微細に擦れ合って摩耗するフレッティングが発生し、疲労強度を低下させます。

アライメント調整の重要性

トラブルの最大の原因はアライメント不良です。 「フレキシブルカップリングだから多少ずれても大丈夫」という考えは危険です。許容値内であっても、ずれがあれば振動や反力は発生し、エネルギー損失となります。ダイヤルゲージやレーザーアライメントツールを用いて、可能な限り正確に芯出しを行うことが、機械寿命を延ばすための基本です。

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