機械要素の基礎:軸継手

コラム機械要素

軸継手とは

軸継手は、二つの回転する軸の端部同士を連結し、一方の軸から他方の軸へ動力すなわちトルクと回転を伝達するための機械要素です。また、原動機であるモーターやエンジンと、従動機であるポンプや減速機などの機械装置の軸とを接続するためにも用いられます。単に動力を伝えるだけでなく、取り付け時の軸心のずれを吸収したり、振動や衝撃を緩和したり、保守点検時の分解組立を容易にしたりするなど、機械システム全体のスムーズな運転と信頼性向上に寄与する多様な機能を持っています。

軸継手の主な機能

軸継手には、以下のような重要な機能があります。

  • 動力伝達: 主目的であり、駆動軸から従動軸へトルクと回転を確実に伝えます。
  • 心ずれの吸収: 機械の製作誤差や運転中の熱膨張、基礎の変形などによって生じる、二軸間のわずかな心ずれを許容します。心ずれには、両軸が平行で中心がずれている平行心ずれ、両軸がある角度で交差している角度心ずれ、軸方向に相対移動する軸方向心ずれがあります。
  • 振動衝撃の吸収緩和: ゴムなどの弾性材料を用いた軸継手は、運転中に発生する振動や衝撃を吸収し、機械装置全体の騒音低減や寿命延長に貢献します。
  • 保守性の向上: 軸継手を使用することで、モーターやポンプなどの個々の機器を、他の機器を移動させることなく取り外したり交換したりすることが容易になります。
  • その他、特定の種類の軸継手は、過負荷時に破損して機械全体を保護する安全装置としての機能や、ねじり振動特性を調整する機能を持つものもあります。

軸継手の主な種類

軸継手は、心ずれを許容する能力の有無によって、大きく固定軸継手と可撓軸継手に分類されます。

  • 固定軸継手: 二つの軸が完全に一直線上に精度良く心出しされている場合に用いられ、心ずれをほとんど許容しません。軸同士を剛体として強固に連結します。
    • スリーブ軸継手は、中空の円筒スリーブを両軸にキーなどで固定する最も簡単な形式です。
    • クランプ軸継手は、縦に分割されたスリーブをボルトで締め付けて軸を固定するもので、取り付け取り外しが比較的容易です。
    • フランジ形軸継手は、各軸端に取り付けたフランジ同士をボルトで結合するもので、大きなトルクの伝達に適しています。
  • 可撓軸継手: ある程度の心ずれを許容できる軸継手で、フレキシブルカップリングとも呼ばれます。その構造やたわみを生み出す要素によって、さらに多くの種類に分けられます。
    • 機械的たわみを利用するもの:
      • ジョーカップリングは、互いに対向する爪を持つ二つのハブの間に、ゴムやウレタンなどの弾性体スパイダーを挟み込んだ構造で、衝撃緩和と心ずれ吸収を行います。
      • 歯車形軸継手は、外歯歯車状のハブと内歯歯車状のスリーブが噛み合う構造で、大きなトルクを伝達でき、比較的大きな心ずれを許容します。潤滑が必要です。
      • グリッドカップリングは、蛇行する鋼製ばねグリッドを両ハブの溝にはめ込んで連結し、ねじり衝撃を吸収します。潤滑が必要です。
      • チェーンカップリングは、二つのスプロケットを短いローラチェーンで連結する簡単な構造で、ある程度の心ずれを許容します。潤滑が必要です。
    • 弾性材料の変形を利用するもの:
      • ゴムスリーブ形軸継手やブッシュカップリングは、ゴム製のスリーブやブッシュの弾性変形を利用して心ずれを吸収し、振動を減衰させます。
      • タイヤ形軸継手は、ゴムと補強コードで作られたタイヤ状の弾性体を介して動力を伝達し、非常に優れた心ずれ許容性と振動吸収性を示します。
    • 金属薄板の弾性変形を利用するもの:
      • ディスクカップリングは、薄い金属製の円盤ディスクを複数枚重ねてボルトで連結し、ディスクのたわみによって心ずれを吸収します。バックラッシがなく、ねじり剛性が高いため、サーボモーターなどの精密な位置決め用途に適しています。潤滑は不要です。
      • ダイアフラムカップリングも同様に金属薄板ダイアフラムのたわみを利用し、高速回転や高温環境にも対応可能です。潤滑不要です。

これら以外にも、流体を介して動力を伝達する流体継手や、磁力でトルクを伝達する磁気継手といった、非接触型の特殊な継手も存在します。

軸継手の選定

適切な軸継手を選定するためには、伝達する動力トルクの大きさ、運転回転速度、予想される心ずれの種類と量、振動や衝撃の吸収の必要性、システムのねじり剛性の要求、使用環境温度や雰囲気、設置スペースの制約、潤滑の要否や保守の容易さ、そしてコストなどを総合的に考慮する必要があります。特に、許容される心ずれ量や伝達トルク、回転速度は軸継手の種類やサイズによって大きく異なるため、メーカーのカタログなどを参照し、使用条件に適合するものを選ぶことが重要です。

まとめ

軸継手は、二つの回転軸を連結して動力を伝達するという基本的な機能に加え、心ずれの吸収、振動や衝撃の緩和、保守性の向上など、機械システム全体の円滑な運転と信頼性維持に貢献する多様な役割を担う重要な機械要素です。固定軸継手から多種多様な可撓軸継手まで、その種類は極めて豊富であり、それぞれの特性を理解し、用途や使用条件に応じて最適なものを選定することが、機械装置の性能を最大限に引き出し、長寿命化を図る上で不可欠です。目立たない部品であることも多いですが、軸継手は機械の安定稼働を支える縁の下の力持ちと言えるでしょう。

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