機械材料の基礎:銅合金

機械材料非鉄金属

機械材料の基礎:銅合金

銅は、人類が有史以来最も古くから利用してきた金属の一つであり、現代の産業インフラにおいても鉄やアルミニウムに次いで重要な位置を占めています。純銅そのものが持つ極めて高い導電性と熱伝導性、そして優れた塑性加工性は他に類を見ないものですが純粋な銅は強度が低く、切削加工がしにくいという特性を持っています。

多様な産業的要請に応えるために開発されたのが銅合金です。銅を母材として、亜鉛、スズ、ニッケル、アルミニウムなどの異なる元素を溶かし込み、結晶構造に変化を与えることで、強度、耐食性、ばね特性、快削性といった特物理特性を向上させています。

純銅の特性

タフピッチ銅

最も一般的な純銅がタフピッチ銅(C1100)です。電気精製された銅を溶解して鋳造する際、意図的に0.02%〜0.05%程度の酸素を残しています。この酸素は銅と結合して酸化第一銅(Cu2O)となり、結晶粒界に微小な粒子として分散します。この状態のタフピッチ銅は高い導電率を示しますが、弱点を持っています。

タフピッチ銅を600℃以上の高温で水素を含むガスに曝すと、金属内部に侵入した水素原子が酸化第一銅と化学反応を起こし、水蒸気を発生させます。この水蒸気の圧力が金属内部の結晶粒界を押し広げ、微小な亀裂を無数に発生させます。これを「水素脆化」と呼びます。このためタフピッチ銅は高温でのガス溶接やろう付けには適しません。

脱酸銅と無酸素銅

この水素脆化を防ぐために開発されたのが脱酸銅と無酸素銅です。 リン脱酸銅(C1220)は、溶湯にリンを添加して酸素を強制的に除去したものです。水素脆化は起きなくなりますが、残留した微量のリンが電子の移動を妨げるため、導電率はタフピッチ銅の80%程度まで低下してしまいます。ガス管や熱交換器の伝熱管などに多用されます。

一方、無酸素銅(C1020)は、真空または還元性雰囲気中で溶解・鋳造を行うことで、リンなどの脱酸剤を使わずに酸素濃度を0.001%以下にまで減らしたものです。水素脆化を起こさず、かつタフピッチ銅以上の高い導電性と熱伝導性を維持します。音響ケーブルや真空機器、極低温装置などの域で使用される純銅です。

合金化

純銅に他の元素を添加して合金化すると、機械的な強度や耐摩耗性は向上します。これは大きさの異なる異種原子が銅の結晶格子に入り込むことで結晶格子に歪みが生じ、金属が変形しようとする際の原子面の滑りに対する障害物として働くためです。

しかし、この合金化には代償が伴います。導電性と熱伝導性の低下です。 純銅が高い導電性を持つのは、原子に束縛されない自由電子が結晶格子の間を障害物なくスムーズに移動できるためです。合金化によって結晶格子に異種原子が入り込んだり、格子が歪んだりすると、移動する電子がそこで衝突・散乱してしまい、電気抵抗が増加します。熱の伝達も主に自由電子の移動によって行われるため、熱伝導率も同様に低下します。

黄銅(真鍮)

銅合金の中で最も広く使用されているのが、銅(Cu)と亜鉛(Zn)の合金である黄銅(真鍮)です。

亜鉛比率と相変態

黄銅の物理的性質は、亜鉛の含有量によって変化します。 亜鉛が約30%含まれる七三黄銅(C2600)などは、結晶構造が単一のα相となります。この状態は非常に展延性が高く、プレス加工や絞り加工、曲げ加工に極めて適しています。自動車のラジエーター部品や複雑な形状の薬莢などに用いられます。 一方、亜鉛が約40%含まれる六四黄銅(C2801)になると、α相に加えてβ相という硬い結晶構造が現れます。これにより強度が上昇しますが、冷間での加工性は低下し、熱間での鍛造や板金加工に適した特性となります。

被削性の向上

黄銅のもう一つの大きな特徴は、微量の鉛を添加することで良好な切削加工性を得られることです。これを快削黄銅(C3604など)と呼びます。鉛は銅に溶け込まずに微細な粒子として分散し、刃物が当たった際に切り屑を細かく分断する潤滑剤のような働きをします。これにより時計の歯車や精密なネジなど、極小部品の大量生産が可能になります。しかし近年は環境規制により鉛の使用が厳しく制限されており、ビスマスなどを代替として添加した鉛フリー快削黄銅の開発が進んでいます。

脱亜鉛腐食

一方、黄銅には弱点があります。水や海水などの電解質溶液に触れるとイオン化傾向の高い亜鉛だけが選択的に溶け出してしまい、銅がスポンジ状の脆い塊として残る「脱亜鉛腐食」が発生します。これを防ぐために少量のスズやヒ素を添加するなどの対策が施されます。 また亜鉛は蒸気圧が高いため、高真空環境下で高温に晒されると亜鉛が気化して真空チャンバーを汚染してしまうため、真空機器の内部部品としては使用できないという制約があります。

青銅の耐摩耗性

青銅(ブロンズ)は、本来は銅とスズの合金を指す名称であり、人類が鉄よりも先に手にした合金です。現在ではスズを含まないアルミニウム青銅なども青銅の名を冠していますが、いずれも高い強度と優れた耐摩耗性を特徴とします。

スズ青銅

銅にスズを添加すると、合金の融点が下がり溶融状態での流動性が非常に良くなります。さらに凝固する際の体積収縮が少ないため、複雑な形状の鋳物を欠陥なく作るのに適しています。古代の銅像や大砲(砲金)、あるいは現代の大型バルブなどに多用される理由です。スズの含有量が増えるにつれて強度は増しますが、同時に脆くなるため、加工用の材料としてはスズ含有量を8%程度までに抑えるのが一般的です。

りん青銅

スズ青銅の溶湯から酸素を取り除くために微量のリンを添加し、さらに冷間圧延によって結晶構造を一方向に引き伸ばして硬化させたものが「りん青銅(C5191など)」です。 りん青銅は高い弾性限界と耐疲労強度を持ち、何万回曲げられても元の形に戻るという優れたばね特性を発揮します。また電気伝導性も比較的高いため、パソコンやスマートフォンの内部にある極小の電気コネクタや、リレーの接点ばねとして、現代の電子機器に不可欠な材料となっています。

優れた摩擦特性

青銅系合金のもう一つの特性は、摩擦・摩耗特性の優秀さです。 青銅の表面は相手の金属と擦れ合った際、焼き付きを起こしにくく、相手の金属を傷つけずに自身が適度に摩耗して馴染むという性質を持ちます。このため工作機械のすべり軸受や、ウォームギアの材質として、オイルの潤滑下で巨大な荷重と摩擦に耐え続ける過酷な領域で使用されています。

白銅と洋白

銅にニッケルを添加すると、銅の赤みがかった色が徐々に失われ、美しい銀白色の光沢を放つようになります。この特性と高い耐食性を兼ね備えたのが白銅と洋白です。

白銅(キュプロニッケル)

白銅は、銅に10%〜30%のニッケルを添加した合金です。代表的なものが、日本の50円硬貨や100円硬貨です。 ニッケルを添加することで、金属表面に緻密で安定した不働態皮膜が形成されます。この被膜は特に塩化物イオンに対する抵抗力が異常に高く、海水に長期間浸かってもほとんど腐食しません。この絶対的な耐海水性から、火力発電所や原子力発電所における海水を冷却水として利用する巨大な復水器の伝熱管や、船舶の海水配管システムにおいて高い信頼性を確立しています。

洋白(洋銀)

洋白(C7521など)は、銅と亜鉛の合金である黄銅に、さらに10%〜20%のニッケルを添加した三元合金です。 黄銅の優れた加工性と、ニッケルによる白銀色の光沢、そして高いばね特性を併せ持ちます。「洋銀」と呼ばれるように銀の代用品として古くから装飾品や高級食器のベース材料として用いられてきました。また深絞り加工に耐える柔軟性と電磁波を遮蔽する特性から、水晶発振器などの精密電子部品のシールドケースや管楽器の材料としても使用されています。

高銅合金と微細析出物

電子機器の小型化や電気自動車の大電流化に伴い、「純銅に近い高い導電率」と「合金に匹敵する強靭な強度」を同時に要求されるようになりました。合金化のトレードオフを突破するために開発されたのが、銅の純度を96%以上に保ちつつ、極微量の元素を添加する高銅合金です。

高銅合金の強度は、固溶強化ではなく「析出強化」により生み出されます。 高温で添加元素を銅の中に完全に溶け込ませた後、急冷して過飽和状態を作ります。その後、比較的低い温度で再加熱(時効処理)を行うと、銅の結晶格子の間に添加元素の化合物が極微細な析出物として無数に出現します。 この微細な析出物が金属が変形しようとする際の転位の移動をブロックし、合金の強度を高めます。同時に添加元素が析出物として銅のマトリックスから抜け出すため、銅本来の結晶格子が純粋な状態に近づき、低下していた導電性が回復するのです。

ベリリウム銅とチタン銅

析出強化型高銅合金の一つがベリリウム銅(C1720など)です。2%未満の微量のベリリウム(Be)を添加して時効硬化させることで、特殊鋼を凌駕する引張強度と、高い導電性そして火花を出さない防爆性を獲得します。しかしベリリウムの粉塵には強い毒性があるため加工時の環境管理が厳しく、コストも極めて高価です。

近年このベリリウム銅の代替として注目されているのがチタン銅です。チタン(Ti)を微量添加し高度な圧延と熱処理を組み合わせることで、ベリリウムに迫る高い強度とばね特性を実現し、スマートフォンのカメラモジュールやバッテリーコネクタなど、極小で大電流が流れる次世代デバイスを支えています。

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