機械要素の基礎:キー

機械要素

キーとは、モーターやエンジンといった原動機から発生した回転エネルギーを、ギア、プーリー、スプロケット、カップリングといった回転体に伝える際、軸とこれらの回転体を強固に結合し、空転を防ぐために用いられる重要な機械要素です。日本語では沈みキーやマシンキーとも呼ばれます。

その選定や設計、加工精度を誤れば、巨大なプラント設備を停止させ、あるいは高速回転する機械を破壊する原因ともなり得ます。


動力伝達のメカニズムと基本原理

キーの主たる役割は、軸とボスの間の相対回転を拘束し、トルクを伝達することにあります。ボスとは、ギアやプーリーなどの回転体の中心にある、軸が通る穴の開いた肉厚部分を指します。

幾何学的拘束と力の伝達

軸とボスの両方にキー溝と呼ばれる長手方向の溝を加工し、その空間に金属製の直方体あるいは特殊形状のキーを埋め込みます。これにより、軸が回転しようとすると、キーの側面がボスのキー溝側面に当たり、回転力が伝達されます。 キーはせん断力と圧縮応力という二つの力学的負荷を受け止めます。軸が回転トルクを発生させると、キーは軸とボスの境界面において切断されようとする力、すなわちせん断力を受けます。同時に、キーの側面は軸およびボスの溝壁面から強く押し潰される力、すなわち圧縮力を受けます。 この二つの力に耐えうる材質と寸法を選定することが、キー設計の基本となります。

摩擦締結との違い

軸とボスを固定する方法としては、焼きばめやテーパ締結のような摩擦力を利用する方法もあります。しかし、摩擦締結は限界を超えると滑りが発生し、一度滑ると再起不能な損傷を招くリスクがあります。対してキー結合は、形状による幾何学的な拘束であるため、確実なトルク伝達が保証されます。また、過負荷時にキーが破壊される設計にすることで機器への重大なダメージを回避することもできます。分解や組み立てが比較的容易であるというメンテナンス上の利点も、キーが広く普及している大きな理由です。


キーの種類とその工学的特性

キーには用途や要求される強度、精度のレベルに応じて多種多様な形状が存在します。日本産業規格JISにおいても詳細に規定されています。

1. 平行キー

現在、一般産業機械において最も標準的に使用されているのが平行キーです。 形状は断面が長方形または正方形の棒状で、上面と下面が平行になっています。軸とボスの両方に溝を加工し、キーをはめ込みます。 このキーの最大の特徴は、動力の伝達をキーの側面のみで行う点にあります。キーの上面とボスの溝底の間にはわずかな隙間を設けるように設計されます。これにより、軸とボスの同心度、すなわち芯出し精度を損なうことなく結合できます。高速回転する軸や、高い位置決め精度が求められるサーボモーターの軸などには、例外なくこの平行キーが採用されます。 端部の形状によって、角形、片丸形、両丸形に分類されます。両丸形はエンドミルで加工した溝にそのまま挿入できるため、加工コストの面で有利です。

2. 勾配キー

キーの上面に100分の1の勾配、すなわちテーパが付けられたキーです。 これを勾配の付いたボス側の溝に打ち込むことで、くさび効果が発生します。このくさび作用により、軸とボスを半径方向に強く圧着させ、摩擦力で固定します。 勾配キーの利点は、トルクの伝達だけでなく、軸方向への抜け止め効果も同時に発揮する点です。しかし、くさび効果によってボスが偏心して固定されるため、軸芯がずれて回転振れの原因となります。したがって、高速回転には不向きであり、主に低速で大きなトルクがかかる大型機械や、軸方向の固定を簡易に行いたい場合に使用されます。 頭部に抜き取り用の突起を付けた頭付き勾配キーも存在します。

3. 半月キー

ウッドラフキーとも呼ばれ、半円板状の形状をしています。 軸側にフライスで半月状の深い溝を掘り、そこにキーを嵌め込みます。キーの円弧部分が溝の中で回転できるため、ボス側の溝の傾きに自動的に馴染む自動調心作用を持っています。 主にテーパ軸への締結に適しており、自動車のエンジン部品や工作機械で古くから使用されています。ただし、軸に深い溝を掘る必要があるため、軸の強度が著しく低下するという欠点があり、高トルク伝達には向きません。

4. すべりキー

フェザーキーとも呼ばれ、平行キーの一種ですが、使用法が異なります。 軸上でボスをスライドさせながら回転を伝えたい場合、例えば変速機のギアチェンジ機構やクラッチなどに用いられます。キーを軸側にボルトなどで固定し、ボス側の溝との間には摺動可能な隙間を設定します。


強度設計と選定の理論

キーの寸法選定は、経験則だけでなく、材料力学に基づく計算によって裏付けられなければなりません。

材料の選定

キーの材料には、一般的にS45CやS50Cといった機械構造用炭素鋼が用いられます。強度が特に必要な場合は、クロムモリブデン鋼などの合金鋼が使われることもあります。 重要な設計思想として、キーはあえて軸やボスよりもわずかに弱い材料を選ぶことがあります。これは、過大なトルクがかかった際に、高価な軸やギアが破損する前に、安価で交換可能なキーが先に剪断破壊することで機械全体を守る、安全装置、すなわちヒューズとしての役割を持たせるためです。

剪断応力の計算

キーがトルクによって切断されないための計算です。 作用するトルクを軸の半径で除算することで、キーの側面に作用する接線力Fを求めます。このFを、キーの剪断断面積、すなわち幅bと長さlの積で割った値が、キー材料の許容剪断応力以下である必要があります。 許容応力は、材料の降伏点や引張強さを安全率で割って設定します。

圧縮応力(面圧)の計算

キーの側面が潰れないための計算です。 接線力Fを、接触面積、すなわちキーの高さhの半分と長さlの積で割った値が、キーおよびボス、軸の許容圧縮応力以下である必要があります。 一般的に、キーよりもボスに使用される鋳鉄やアルミニウム合金の方が強度が低いため、キー自体の剪断強度よりも、ボス側の面圧強度が設計のボトルネックになることが多くあります。そのため、キーの長さを長くしたり、高さを高くしたりするよりも、軸径を太くしてキーサイズ自体を大きくする方が効果的な場合があります。


公差とはめあいの工学

キー結合の性能、特に耐久性と静粛性を決定づけるのは、寸法そのものよりも、公差とはめあいの管理です。

JIS規格による公差等級

平行キーのはめあいには、用途に応じて数種類のクラスが設定されています。 キー溝の幅に対する公差として、主に以下の三つが使い分けられます。 一つ目は滑合です。キーと溝の間にわずかな隙間があり、手で容易に脱着できるレベルです。分解組立を頻繁に行う箇所に適用されますが、バックラッシュがあるため、正逆転を繰り返すと衝撃が発生しやすくなります。 二つ目は並級です。適度な隙間または締め代があり、プラスチックハンマーなどで軽く叩いて入れるレベルです。最も一般的な設定です。 三つ目は締込みです。キー溝の幅がキーの幅よりもわずかに狭く、万力やプレスで圧入するレベルです。衝撃荷重や重荷重がかかる箇所、あるいは微動摩耗、すなわちフレッティングを防ぎたい場合に適用されます。

フレッティング摩耗の脅威

はめあいが緩い状態で変動荷重を受けると、キーと溝の間で微小な往復滑りが発生します。これにより接触面が酸化摩耗を起こし、赤錆のような粉末が発生するフレッティング摩耗が生じます。 これが進行すると、ガタが急速に拡大し、最終的にはキー溝が変形してトルク伝達不能に陥るか、そこを起点とした疲労亀裂により軸が折損します。これを防ぐには、適切な締まりばめを選定するか、あるいはキー溝加工の精度を上げることが不可欠です。


加工技術と応力集中

キー溝の加工は、軸の疲労強度に直接的な影響を与えるため、慎重な工程設計が必要です。

軸側の加工

主にエンドミルを用いたフライス加工が行われます。 工学的に重要なのは、キー溝の底の隅にアール、すなわち丸みを付けることです。直角のエッジが残っていると、そこに凄まじい応力集中が発生します。軸にねじりモーメントがかかった際、この角部から亀裂が発生し、軸の折損事故に繋がるケースは後を絶ちません。JIS規格でも溝底の隅の半径が規定されており、これを遵守することが軸の寿命を延ばす鍵となります。

ボス側の加工

ボス穴の加工には、ブローチ盤やスロッター、あるいはワイヤー放電加工機が用いられます。 ブローチ加工は、鋸刃状の工具を引き抜くことで高精度かつ高速に溝を掘る方法で、量産部品に適しています。スロッター加工は、刃物を上下動させて削る方法で、少量生産や大型部品に適しています。 ここでも同様に、溝の角部にアールを設けるか、あるいは面取りを行うことで、キーとの干渉を防ぎ、応力集中を緩和する配慮が必要です。


キーの限界と次世代の締結技術

キーはシンプルで優れた要素ですが、現代の高性能機械においてはその限界も露呈しています。

キー結合の弱点

最大の弱点は、軸の断面欠損による強度低下と、応力集中です。キー溝を掘ることで軸の有効断面積が減るだけでなく、形状係数による応力集中が加わるため、軸のねじり強度は中実軸に比べて大幅に低下します。 また、バックラッシュを完全にゼロにすることは難しく、超精密な位置決め制御や、極めて高い動的バランスが求められる高速回転体では、キーの存在自体が振動源となることがあります。

スプラインとセレーション

より大きなトルクを伝達するために、キーの機能を軸と一体化させたのがスプラインです。 軸の外周に複数の突起を等間隔に設け、ボス側の溝と噛み合わせます。複数の歯でトルクを分担するため、キー一本に比べて圧倒的に大きなトルクを伝達でき、かつ自動調心性にも優れています。自動車のドライブシャフトなどには必ず用いられます。 さらに歯を細かくしたものをセレーションと呼び、位置決めの微調整が可能な締結として利用されます。

摩擦締結要素 パワーロック

キー溝を一切加工せず、強力な摩擦力のみで締結するメカロックやシュパンリングといった摩擦締結具が普及しています。 これはテーパリングの原理を利用して、軸とボスの間に強力な面圧を発生させ、完全に一体化させるものです。 キー溝加工が不要なため軸の強度が落ちず、バックラッシュもゼロ、位相合わせも自由自在という、キーの欠点を全て克服した特性を持ちます。コストは高いものの、産業用ロボットや精密機械においては、キー結合から摩擦締結への移行が急速に進んでいます。

ポリゴンシャフト

断面そのものを三角形や四角形のおむすび型にしたポリゴンシャフトも、欧州を中心に採用されています。 応力集中源となる角が存在せず、滑らかな曲線で構成されているため、高い疲労強度とトルク伝達能力を持ちます。研削加工の難易度が高いのが難点ですが、究極の形状締結として注目されています。


結論

キーは、産業革命以降の機械工学を支えてきた、最も基本的で信頼性の高い締結要素です。 その選定には、単にカタログから寸法を選ぶだけでなく、伝達トルクの大きさ、変動の有無、組立性、そして軸の疲労強度といった多岐にわたる工学的要素を考慮する必要があります。 先端分野では摩擦締結などの新技術への置き換えが進んでいますが、そのコストパフォーマンスの高さと確実性から、一般的な産業機械においては今後も主役の座を譲ることはないでしょう。 たった一つの小さなキーが脱落あるいは破損するだけで、巨大なシステム全体が機能を停止するという事実は、機械工学における「微細な要素への配慮」の重要性を象徴しています。設計者は、この小さな部品に込められた先人たちの知恵と理論を正しく理解し、適切に運用する責任を負っているのです。

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