レーザー溶接は、指向性と集光性に優れたレーザー光を熱源として利用し、金属などの材料を溶融させて接合する、高エネルギービーム溶接の一種です。その最大の特徴は、極めて高いエネルギー密度を、微小な一点に集中させることができる点にあります。この原理により、レーザー溶接は、従来のアーク溶接などでは達成が困難であった、高速、高精度、そして低ひずみという、多くの優れた特性を同時に実現します。
自動車のボディ生産から、スマートフォンの内部にある微細な電子部品の接合まで、現代の最先端のものづくりにおいて、その応用範囲は急速に拡大しています。
溶接の原理:二つの溶融モード
レーザー溶接のプロセスは、材料に照射されるレーザー光のエネルギー密度によって、全く性質の異なる二つの溶融モードに大別されます。
1. 熱伝導型溶接
比較的低いエネルギー密度でレーザー光を照射した場合、その熱は材料の表面でのみ吸収され、そこから熱伝導によって、内部へと伝わっていきます。これにより、材料の表面に、お椀を伏せたような、幅が広く、深さが浅い溶融池が形成されます。溶融池が冷えて固まることで、接合が完了します。
この熱伝導型溶接は、TIG溶接のように、入熱を精密にコントロールでき、滑らかで美しい溶接ビードが得られるため、薄板の突合せ溶接や、外観品質が要求される箇所の溶接に用いられます。
2. キーホール型溶接
エネルギー密度をさらに高めていくと、溶接のメカニズムは劇的に変化します。照射された点では、材料はもはや単に溶けるだけでなく、瞬時に蒸発を始めます。この蒸気の圧力(蒸気圧)が、溶融した金属を押し開け、材料の深さ方向に、あたかも鍵穴(キーホール)のような、細く深い空洞を形成します。
レーザー光は、このキーホールの内部に吸収されながら、さらに深部へと侵入していきます。キーホールの周囲の壁は、レーザーのエネルギーによって溶融した状態になっており、溶接が進行するにつれて、溶融金属はキーホールの後方へと回り込み、そこで冷却・凝固して、溶接部を形成します。
このキーホール型溶接は、レーザー光のエネルギーを、材料の深部まで直接届けることができるため、極めてアスペクト比の高い、すなわち幅が狭く、深さが深い溶け込み形状を実現します。これにより、厚い板でも、一度の照射(ワンパス)で、裏側まで完全に溶け込んだ、強固な接合部を、驚異的な速さで得ることが可能になります。現代の産業用レーザー溶接の多くは、このキーホール型溶接の原理を利用しています。
主な特徴と長所
このキーホール型溶接に代表されるレーザー溶接は、多くの優れた工学的利点を持ちます。
- 深い溶け込みと高速加工: キーホール効果により、厚板の高速溶接が可能です。アーク溶接では、複数回に分けて溶接しなければならなかった厚い部材も、レーザー溶接では一度で完了できるため、生産性は飛躍的に向上します。
- 低入熱と低ひずみ: レーザー溶接の最大の利点の一つです。エネルギーが極めて狭い領域に集中し、かつ、溶接速度が非常に速いため、母材全体に伝わる熱量(総入熱量)が、アーク溶接に比べて格段に少なくて済みます。これにより、熱による部品の変形や歪みを、最小限に抑えることができます。この特性は、精密な寸法精度が要求される部品の溶接において、絶大な効果を発揮します。
- 狭い溶接ビードと熱影響部: 溶け込む範囲が狭いため、溶接ビードの幅が非常に細く、また、溶接熱によって組織が変化する熱影響部(HAZ)の幅も極めて狭くなります。これにより、母材の持つ強度や性質の劣化を最小限に抑えることができます。
- 高い自由度と自動化適性: 近年主流となっているファイバーレーザーなどは、レーザー光を柔軟な光ファイバーケーブルで伝送できます。これにより、レーザーの発振器を離れた場所に設置し、ロボットアームの先端に取り付けた小型の加工ヘッドを、三次元的に自在に動かすことが可能になります。この特性が、ロボットによる複雑な形状の部品の全自動溶接を可能にしています。
溶接に用いられるレーザー
- ファイバーレーザー: 高いエネルギー変換効率と、優れたビーム品質、そして光ファイバーによる伝送の容易さから、現在、金属の溶接において最も広く使用されているレーザーです。
- YAGレーザー、ディスクレーザー: ファイバーレーザーと同様に、光ファイバーで伝送可能な固体レーザーで、高品質な溶接に用いられます。
- 炭酸ガスレーザー: 古くから利用されているガスレーザーで、特に厚板の溶接において、今なお重要な役割を担っています。
応用分野と工学的な要点
レーザー溶接は、その優れた特性から、様々な産業分野で革新をもたらしています。
- 自動車産業: 異なる厚さや材質の鋼板を、プレス加工の前にレーザーで溶接し、一枚の板にするテーラードブランク技術は、車体の軽量化と高剛性化を両立させるキーテクノロジーです。また、車体や部品の組立にも、その高速性と低ひずみ性が活かされています。
- 電気・電子分野: リチウムイオン電池のケースや、各種センサー、モーターのコアといった、熱に弱い精密部品の気密溶接に不可欠です。
- 航空宇宙・重工業: 特殊な合金の溶接や、高い接合強度が求められる構造物の製造に利用されます。
レーザー溶接を成功させるためには、レーザーの出力や焦点位置といったパラメータの精密な制御に加え、溶融池を大気から保護するためのシールドガスの適切な使用や、レーザー光の幅が狭いために、接合する部材同士の隙間管理が、極めて重要となります。
まとめ
レーザー溶接は、レーザー光という高品位なエネルギーを、極限まで絞り込むことで得られる、超高エネルギー密度を力の源とする、最先端の接合技術です。特に、キーホールという物理現象を利用することで、従来の溶接の常識を超える、深溶込み、高速、そして低ひずみという、理想的な加工を実現します。
より軽く、より強く、より精密な製品が求められる現代において、レーザー溶接は、その要求に応えるための最も強力なツールの一つです。デジタルデータに基づき、ロボットによって自在に操られる光の剣は、ものづくりの未来を、その根幹から変え続けているのです。
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