
機械加工の基礎:フライス加工
フライス加工は、フライスと呼ばれる複数の切れ刃を持つ回転工具を用いて、固定された工作物を削り出す機械加工法です。工作物が回転する旋盤加工とは対照的に、フライス加工では工具が回転するのが最大の特徴です。
この工具と工作物の相対的な動きを精密に制御することで、平面や溝、段差はもちろん、金型のような複雑な三次元曲面に至るまで、多種多様な形状を創り出すことができます。その万能性から、現代の機械加工において中核をなす、極めて重要な基盤技術です。
加工の原理:断続切削
フライス加工の物理現象を理解する上で最も重要なキーワードは断続切削です。
旋盤加工では、工具の刃先は一度工作物に食い込むと、加工が終了するまで連続的に切りくずを排出し続けます。これに対し、フライス加工では、工具に取り付けられた複数の切れ刃が、工具の回転に伴って、工作物に食い込んでは離れるという動作を繰り返します。
つまり、一つ一つの切れ刃に着目すると、その切削は断続的に行われているのです。この断続切削という特性は、フライス加工のあらゆる側面に影響を与えます。
- 切りくずの形状: 各切れ刃は、工作物に食い込んでから離れるまでの短い間に、コンマ状の独立した切りくずを生成します。
- 熱的・機械的衝撃: 切れ刃は、切削中の高温状態と、空転中の冷却状態を交互に繰り返すため、周期的な熱衝撃に晒されます。また、工作物に食い込む瞬間には機械的な衝撃を受けます。このため、フライス工具には高い靭性と耐熱衝撃性が求められます。
フライス加工の基本形態
フライス加工は、工具の回転軸と加工面の関係によって、大きく二つの形態に分類されます。
平面削り (横フライス加工)
工具の回転軸が、加工される平面に対して平行になる加工方法です。主に円筒状の工具の外周にある切れ刃を使って切削します。この加工には、工具の回転方向と工作物の送り方向の関係によって、二つの方式が存在します。
- アップカット (上向き削り): 工具の回転方向と、工作物の送り方向が逆向きになる方式です。切れ刃は工作物を下からすくい上げるように削ります。切りくずは薄いところから厚いところへと生成されます。
- ダウンカット (下向き削り): 工具の回転方向と、工作物の送り方向が同じ向きになる方式です。切れ刃は工作物を上から押さえつけるように削ります。切りくずは厚いところから薄いところへと生成され、一般的にアップカットよりも加工面が綺麗に仕上がり、工具の寿命も長くなる傾向があります。現代の高性能な機械では、このダウンカットが主流です。
正面削り (立てフライス加工)
工具の回転軸が、加工される平面に対して垂直になる加工方法です。主に、工具の端面と外周に切れ刃を持つ正面フライスという工具が用いられます。一度に広い面積を効率よく加工できるため、機械のベース面やエンジンブロックの上面など、大きな平面を創成する際に広く利用されます。
エンドミル加工
工具の端面と外周の両方に切れ刃を持つ、エンドミルという棒状の工具を用いて行う加工の総称です。工具の動きをコンピュータ数値制御することで、平面や側面、溝、穴、そして自由な曲面まで、あらゆる形状を創り出すことができます。今日のフライス加工の主役であり、その応用範囲は無限に広がっています。
フライス盤と工具
フライス盤
フライス加工を行うための工作機械をフライス盤と呼びます。古くからある手動の汎用フライス盤から、現代ではコンピュータ制御されたマシニングセンタが主流となっています。マシニングセンタは、多種多様な工具を自動で交換する機能 (ATC) を持ち、プログラム指令のみで複雑な形状の部品を無人で加工することが可能です。
フライス工具
フライス工具の材質には、主に高速度鋼や、より硬い超硬合金が用いられ、表面に耐摩耗性や耐熱性を向上させるためのコーティングが施されるのが一般的です。その形状は、平面加工用の正面フライス、万能なエンドミル、溝加工専用の溝フライスなど、目的応じて多岐にわたります。
高品質な加工のための工学的要点
フライス加工の品質と効率は、切削条件の適切な設定に大きく依存します。
- 切削速度: 工具の周速のことで、加工面の綺麗さや工具寿命に影響します。
- 送り速度: 工作物を送る速さのことで、加工能率を左右します。
- 切り込み深さ: 工具が一度に削り取る深さのことです。
これらの条件は、工作物や工具の材質、機械の剛性などを総合的に考慮して決定されます。
また、フライス加工特有の課題としてびびり振動があります。これは、加工中に工具や工作物が異常に振動する現象で、加工面にうろこ状の模様を残し、工具の寿命を著しく縮める原因となります。びびり振動を抑制するためには、工作物をしっかりと固定し、剛性の高い工具を選定し、切削条件を最適化することが重要です。
まとめ
フライス加工は、回転工具による断続切削を基本原理とする、極めて多機能で精密な除去加工技術です。手動の汎用機から始まったその技術は、今やコンピュータ制御されたマシニングセンタへと進化し、ものづくりのあり方を根底から変えました。
単純な平面から、航空機の翼を削り出すような複雑な三次元形状まで、ありとあらゆる形を金属の塊から自在に創り出すフライス加工は、自動車、航空宇宙、医療、エレクトロニクスといった、すべての製造業の根幹を支える核心的な技術であり、まさに金属を精密に彫刻する芸術と言えるでしょう。
コメント