機械要素の基礎:無給油ブッシュ

機械要素

無給油ブッシュは、その名の通り、油やグリースといった外部からの潤滑を一切必要とせずに、滑らかな摺動運動を可能にする、自己潤滑性を備えたすべり軸受の一種です。オイルレスベアリングとも呼ばれ、機械の保守作業を大幅に削減し、設計を簡素化すると同時に、油による汚染を嫌う環境での使用を可能にする、極めて重要な機械要素です。

その核心技術は、摩擦と摩耗の問題を、外部から潤滑剤を「補給」するのではなく、軸受の材料自身に潤滑機能を「内蔵」させることで解決する点にあります。この解説では、無給油ブッシュがどのようにして自己潤滑性を実現しているのか、その多様な工学的原理と種類、そして応用について解説します。


自己潤滑の原理:材料に秘められた潤滑メカニズム

無給油ブッシュが潤滑油なしで機能できる理由は、主に三つの異なる自己潤滑メカニズムに基づいています。

1. 固体潤滑剤の分散と移着膜の形成

この方式では、黒鉛(グラファイト)や二硫化モリブデンといった、それ自体が潤滑性を持つ固体潤滑剤の微粒子を、金属や樹脂といったより強度の高い母材(マトリックス)の中に均一に分散させています。

黒鉛や二硫化モリブデンは、原子が層状に積み重なった結晶構造をしています。層内の原子同士の結合は強いですが、層と層の間の結合は非常に弱く、トランプのカードのように容易に滑ることができます。軸がブッシュの内部で摺動すると、摩擦によって母材からこれらの固体潤滑剤の粒子が供給され、軸とブッシュの摺動面に薄い潤滑膜を形成します。特に、この潤滑剤の一部は相手の軸表面に移着し、強固な移着膜(トランスファーフィルム)を形成します。

最終的に、摺動は「ブッシュの潤滑膜」と「軸に形成された移着膜」との間で行われるようになり、金属同士の直接接触が防がれ、低い摩擦係数と優れた耐摩耗性が実現されます。✏️

2. 低摩擦ポリマーの利用

この方式は、プラスチックの中でも極めて摩擦係数が低い、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)を摺動面に利用するものです。PTFEはテフロン®の商品名で広く知られており、既知の固体物質の中で最も滑りやすい材料の一つです。

代表的な複層系軸受では、鋼製の裏金で強度を確保し、その内側に焼結させた多孔質の青銅層を設け、その無数の孔の中にPTFEと潤滑助剤を充填、圧延しています。運転が開始されると、初期のなじみ運転の間に、摺動面のPTFEが相手の軸表面に引き伸ばされるように移着し、薄く、強固で、非常に滑らかなPTFEの移着膜を形成します。これにより、PTFE同士が滑り合うという、極めて低い摩擦状態が実現されます。

3. 含油による自己給油

この方式は、焼結含油軸受に代表されるもので、材料自体が油を蓄え、必要に応じて自動的に供給するメカニズムです。

まず、青銅などの金属粉末を金型で押し固め、焼き固めることで、体積比で20パーセントから30パーセント程度の微細な連続気孔を持つ、スポンジ状の多孔質な金属体(焼結体)を作ります。その後、この焼結体を潤滑油の中に浸し、真空引きすることで、内部の気孔を潤滑油で完全に満たします。

機械が運転を開始し、軸が回転して摩擦熱が発生すると、軸受の温度が上昇します。すると、内部の潤滑油は熱膨張し、また粘度が低下するため、毛細管現象によって気孔から摺動面へと滲み出します。この滲み出した油が、軸とブッシュの間に油膜を形成し、滑らかな潤滑状態を作り出します。逆に、運転が停止して温度が下がると、油は表面張力によって再び内部の気孔へと吸い戻されます。この巧妙な自己循環システムにより、長期間にわたる無給油運転が可能となるのです。


無給油ブッシュの主な種類

これらの原理に基づき、無給油ブッシュには以下のような種類があります。

  • 焼結含油軸受: 上記の含油原理に基づく、最も広く使用されている無給油ブッシュです。家電製品の小型モーターや、自動車の電装部品など、中程度の速度・荷重の環境で、静粛性が求められる用途に適しています。
  • 複層系すべり軸受: PTFEの低摩擦性を利用したもので、高負荷能力と低摩擦を両立しています。自動車のサスペンションや、油圧ポンプ、各種産業機械など、過酷な条件下での使用に適しています。
  • 固体潤滑剤埋込型軸受: 高強度の銅合金などを母材とし、そこに多数の穴をあけ、黒鉛系の固体潤滑剤を埋め込んだものです。油膜の形成が期待できない、極低速での揺動運動や、高温・水中といった特殊な環境下で、その真価を発揮します。ダムのゲートや製鉄機械などに使用されます。
  • 樹脂系軸受: ポリアセタール(POM)やポリアミド(ナイロン)といった、自己潤滑性を持つエンジニアリングプラスチックで全体が作られたものです。軽量で錆びず、静粛性に優れるため、OA機器や食品機械などに適しています。

工学的な留意点

無給油ブッシュを設計する上で最も重要な指標がPV値です。Pは軸受にかかる面圧、Vは摺動速度を示し、この二つの積であるPV値は、軸受の摺動面で発生する熱量に比例します。各製品には、その材料と構造で決まる限界PV値が定められており、この限界を超えて使用すると、異常な温度上昇による焼き付きや摩耗が発生します。設計者は、使用条件からPV値を算出し、それが限界値内に収まるように、適切な材質と寸法のブッシュを選定する必要があります。


まとめ

無給油ブッシュは、固体潤滑剤、低摩擦ポリマー、あるいは含油といった、材料工学の知見を駆使して、軸受自身に潤滑機能を持たせた、先進的なすべり軸受です。「外部から潤滑する」という従来の常識を覆し、「内部から潤滑する」という新しい発想は、機械のメンテナンスフリー化や、クリーンな環境の実現に大きく貢献しています。

様々な原理に基づいた多種多様な無給油ブッシュが、それぞれの特性を活かして、現代社会のあらゆる機械の中で、その滑らかな動きを静かに支えているのです。

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