OST鋼管は、自動車や産業機械の油圧配管、燃料配管として使用される精密炭素鋼鋼管の総称です。
名称のOSTはオイル・サービス・チューブの頭文字に由来しており、その名の通り、油圧や燃料といった流体を高い圧力を保ったまま漏らすことなく、かつ極めて狭く複雑なスペースを通して輸送するために特化した管材です。 一般的な水道管やガス管が、静的な環境で比較的低圧の流体を運ぶのに対し、OST鋼管は、自動車の走行振動、エンジンの熱、路面からの飛び石、そして数百気圧にも達する急激な内圧変動といった過酷な動的環境下で機能を維持し続けなければなりません。
OST鋼管の分類と特徴
OST鋼管は、その製造方法と断面構造によって大きく二つの種類に分類されます。これらは用途に応じて使い分けられています。
OST-1 二重巻鋼管
OST-1は銅メッキを施した帯状のフープ材を二重に巻き込み、還元雰囲気中で加熱して銅を溶融させ、合わせ面をろう付け接合した二重巻鋼管です。 この構造の特徴は、薄板を積層しているため振動に対する減衰能が高く、疲労強度に優れている点です。 ろう付けされた断面は一体化しており極めて高い気密性を持ちます。かつてはブレーキ配管の主流でしたが、近年ではより高圧化するシステムに対応するため、後述する一重管への移行が進んでいます。
OST-2 一重引抜鋼管
OST-2は電縫鋼管あるいはシームレスパイプを原管とし、それを冷間引抜加工によって寸法精度と強度を高めた一重管です。 現在の自動車用ブレーキ配管や燃料配管の主流はこのOST-2です。 溶接部を持つ電縫管であっても、冷間引抜と熱処理を繰り返すことで溶接ビード部分は母材と同等の組織へと均質化され、継ぎ目を感じさせない均一な金属組織が得られます。
OST-2の最大の利点は、均質性と高耐圧性です。二重管のような合わせ面がないため、数百気圧の高圧がかかっても層間剥離のリスクがなく、ABSやESCといった高度なブレーキ制御システムが発生させる高周波の油圧脈動に対しても、安定した挙動を示します。
冷間引抜加工と結晶組織の制御
OST-2の製造において最も重要な工程が、冷間引抜加工です。
塑性変形による強化
原管となるパイプを、ダイスと呼ばれる穴の開いた工具と、プラグと呼ばれる芯金の間を通して引き抜きます。 この時、鋼管は直径を縮められると同時に、肉厚も薄く引き伸ばされます。 このプロセスは常温で行われるため、金属結晶には加工硬化が発生します。結晶格子の中に転位と呼ばれる欠陥が増殖し、互いに絡み合うことで、材料の降伏点と引張強度が飛躍的に向上します。 またダイスとプラグという高精度の工具に強制的に倣わせるため、外径および内径の寸法公差はミクロンオーダーで管理され、真円度も極めて高いレベルに仕上がります。
熱処理による延性の回復
加工硬化によって強くなった鋼管は、同時に伸びを失い脆くなっています。このままでは、自動車の配管として複雑に曲げ加工することができません。 そこで引抜加工の後には必ず焼鈍が行われます。 不活性ガス雰囲気中で加熱することで、表面の酸化を防ぎながら、加工によって歪んだ結晶組織を再結晶させます。これにより、高い寸法精度を維持したまま、加工硬化による内部応力を除去し、曲げ加工に耐えうる十分な延性と、破裂に耐える強靭さを兼ね備えた組織へと生まれ変わらせます。
内面品質と流体力学
OST鋼管が一般的な配管用炭素鋼鋼管と異なる点は、内面の清浄度と平滑性に対する要求レベルの高さといえます。
摩擦抵抗と圧力損失
ブレーキフルードや燃料が流れる管内壁において、表面粗さは流体力学的な抵抗係数に直結します。 内面が荒れていると、流体が壁面と擦れ合う際に乱流が発生しやすくなり、圧力損失が増大します。 ブレーキペダルを踏んだ力が、瞬時にキャリパーへと伝わらなければならないブレーキシステムにおいて、この圧力損失は応答遅れとなり、致命的な制動距離の延長を招きます。 OST鋼管は、プラグを用いた引抜加工によって内面が鏡面のように平滑に仕上げられており、管摩擦係数を低減しています。
コンタミネーションの排除
また、管内に残留する油分や微細な金属粉、カーボンといった異物、コンタミネーションは、精密な油圧機器にとって大敵です。 ABSユニットや燃料噴射インジェクターは、極めて微細な流路と弁機構を持っており、ゴミが一つ噛み込むだけで機能不全に陥ります。 そのため、OST鋼管の製造プロセスでは、最終的な洗浄工程が厳格に管理されており、管内残留異物量は規格によって厳しく制限されています。
端末加工とシール理論
配管は単体では機能せず、必ず相手部品と接続されなければなりません。OST鋼管の端末は、フレア加工と呼ばれる特殊な形状に成形され、金属同士の接触によって流体を封止します。
フレア加工の塑性流動
管の端部をラッパ状や、それをさらに折り返した形状にプレス成形します。 特に自動車用で多用されるISOフレアやダブルフレアは、管の端部を内側に折り込むことで、シール面となる部分の肉厚を確保し、かつ冷間鍛造の効果によって硬度を高めています。
この加工を行う際、鋼管には円周方向に強い引張応力がかかり、割れが発生しやすくなります。OST鋼管が高い延性を求められる理由は、この過酷な端末加工に耐え、割れずに美しいシール面を形成するためです。
メタルシール
接続時には、フレアナットによって相手側のテーパ座面に強く押し付けられます。 この時、フレア面の微細な凹凸が相手座面に食い込み、塑性変形を起こすことで、微視的な隙間を完全に埋め尽くします。 ゴムパッキンやシール材を使わず、金属の弾性と塑性を利用して気密を保つメタルシールは、ゴムの劣化や温度による変質がないため、長期間にわたって極めて高い信頼性を維持できます。
表面処理と防錆
自動車の床下に配管されるOST鋼管は、路面からの水分や泥、そして冬場の融雪剤といった、金属を激しく腐食させる環境に晒され続けます。 そのため裸の鉄のままでは数ヶ月で穴が開いてしまいます。OST鋼管には多層構造の強固な防錆処理が施されています。
亜鉛メッキと犠牲防食
基本となるのは電気亜鉛メッキです。 亜鉛は鉄よりもイオン化傾向が大きいため万が一表面に傷がついて鉄が露出しても、周囲の亜鉛が先に溶け出すことで電子を供給し鉄の腐食を防ぎます。これを犠牲防食作用と呼びます。通常20ミクロン程度の厚いメッキ層を形成します。
化成処理とポリマーコーティング
亜鉛メッキの上には、クロメート処理などの化成皮膜が形成され、亜鉛自体の酸化を抑制します。 さらに近年のOST鋼管ではその上にフッ素樹脂(PVF)やポリアミド(PA12)といった高分子材料をコーティングした製品が標準となっています。 この樹脂層は、飛び石による物理的な衝撃からメッキ層を保護すると同時に塩水や酸性雨を完全に遮断するバリア層として機能します。 鋼管、亜鉛メッキ、化成皮膜、プライマー、そして樹脂コーティングという5層にも及ぶ防御壁により、OST鋼管は塩水噴霧試験において数千時間錆びないという、驚異的な耐食性を実現しています。
振動疲労と耐久設計
自動車は走行中、常に振動しています。エンジンからの振動、路面からの入力、これらは配管に対して繰り返し曲げ応力を与え続けます。
共振の回避と減衰
配管が特定の周波数で共振すると、応力が局所的に増大し疲労破壊に至ります。 これを防ぐために、OST鋼管の配策設計ではクランプによる固定位置を適切に設定し、配管の固有振動数を車両の主な振動周波数からずらす設計が行われます。
また、鋼という材料は、アルミニウムや銅に比べて疲労限度が高くある一定以下の応力振幅であれば、長時間繰り返し荷重に耐えることができます。OST鋼管の肉厚や径は、内圧強度だけでなく、この振動疲労に対する安全率を見込んで選定されています。
耐圧性能とフープ応力
OST鋼管が受け止める圧力は、乗用車のブレーキで約10メガパスカルから15メガパスカル、ABS作動時のピークではさらに高圧になります。
厚肉円筒の力学
管内に圧力がかかると、管壁には円周方向に引っ張られるフープ応力が発生します。 この応力は圧力と内径の積に比例し、肉厚に反比例します。 OST鋼管は外径に対して肉厚の比率が比較的大きい厚肉円筒として設計されています。例えば、外径4.76ミリメートルのブレーキパイプに対し肉厚は0.7ミリメートルあります。
これは単に破裂を防ぐだけでなく加圧時の管の膨張を抑えるためでもあります。 ブレーキペダルを踏んだ時パイプが膨らんでしまうと、油圧が逃げてしまいペダルタッチがスポンジのように柔らかく頼りないものになってしまいます。 剛性の高い鋼管を使用することで体積弾性係数を高く保ち、ダイレクトで剛性感のあるブレーキフィーリングを実現しています。
品質保証と非破壊検査
人の命に関わる重要保安部品であるため、OST鋼管の製造ラインでは全数検査が行われます。
渦流探傷試験
電磁誘導を利用した渦流探傷試験、ECTが標準的に用いられます。 交流電流を流したコイルの中を鋼管が通過すると、管表面に渦電流が発生します。もし管にクラックやピンホール、溶接不良などの欠陥があると渦電流の流れ方が乱れます。 この乱れをセンサーで検知することで、目に見えない微細な欠陥を高速かつ非接触で発見し不良品を自動的に排除します。
破壊試験による保証
また、抜き取り検査として実際に管を破裂させるバースト試験、規定の半径で曲げ伸ばしを繰り返す疲労試験そして塩水を噴霧し続ける腐食試験などが定期的に行われ、ロットごとの品質が統計的に保証されています。

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