機械加工の基礎:プラズマ溶接

加工学

プラズマ溶接は、プラズマアークと呼ばれる、極めて高温かつ高エネルギー密度の熱源を利用するアーク溶接法の一種です。その最も本質的な工学的特徴は、TIG溶接と同様に非消耗式のタングステン電極を用いながら、その電極から発生するアークを、水冷された銅製のノズル(コンストリクティングノズル)によって強制的に絞り込む点にあります。

この「絞り込まれたアーク」すなわちプラズマアークは、TIG溶接のアークとは比較にならないほどの高いエネルギー密度と、強力な指向性を持ちます。この特性により、プラズマ溶接は、TIG溶接の高品質性を維持しつつ、レーザー溶接や電子ビーム溶接のような、深い溶け込みと高速な溶接を可能にする、先進的な接合技術です。


プラズマアークの生成原理:サーマルピンチ効果

プラズマ溶接の特徴は、サーマルピンチ効果と呼ばれる物理現象によって、アークの性質を制御している点にあります。

TIG溶接との違い

TIG溶接では、タングステン電極がシールドガスノズルから露出しており、アークは電極と母材との間で、釣鐘状に自由に広がります。

一方、プラズマ溶接のトーチは、二重のガス流路を持つ、遥かに複雑な構造をしています。

  1. 電極の配置: タングステン電極は、トーチ本体の奥深くに後退して配置されています。
  2. プラズマガス(オリフィスガス): 電極の周囲を取り囲むように、アルゴンなどのガスが流れます。このガスが、アークを形成する中心のガス流となります。
  3. 絞り込みノズル: 電極の前方には、中心に小さな穴(オリフィス)が設けられた、水冷式の銅ノズルが配置されています。プラズマガスとアークは、この狭い穴を強制的に通過させられます。
  4. シールドガス: 絞り込みノズルのさらに外側には、TIG溶接と同様に、溶融池を大気から保護するためのシールドガス(アルゴンなど)が流れる、第二のノズルが設けられています。

アークの絞り込み(サーマルピンチ)

この構造によって、アークは二段階で絞り込まれます。

  • 機械的ピンチ: まず、アークは狭いオリフィスを通過する際に、物理的に細く束ねられます。
  • 熱的ピンチ: さらに重要なのが、サーマルピンチ効果です。オリフィスを通過するアークの外周部は、強制的に水冷されている銅ノズル壁に接触し、冷却されます。気体は冷却されると電気伝導性を失うため、電流は、冷却されにくいアークの中心部へと、より集中しようとします。

この自己集束的な作用により、アークは極めて細く、エネルギー密度が著しく高い、円筒状のプラズマジェットへと変貌します。このプラズマアークは、TIGアークの数倍の温度と、数倍から数十倍のエネルギー密度を持ち、鋼材を容易に貫通するほどの強力な指向性と力強さを獲得します。


プラズマアークの起動:二段階のアーク移行

プラズマ溶接のアークは、電極がノズル内部に隠れているため、TIG溶接のように母材に電極を接触させて起動することができません。そのため、以下のような二段階の起動プロセスを踏みます。

  1. パイロットアーク: まず、高周波を印加することで、トーチ内部の電極絞り込みノズルとの間で、低電流のアークを発生させます。これは、母材を介さない「非移行式アーク」であり、プラズマガスを電離させて、トーチの準備状態を整えるためのものです。
  2. メインアーク(移行アーク): このパイロットアークを発生させた状態でトーチを母材に近づけると、電離したプラズマガスを導電路として、電極と母材との間に、より強力なメインアークが移行します。このメインアークが、実際の溶接を行う「移行式アーク」です。

主要な溶接モード

プラズマ溶接は、その電流値とプラズマガスの流量を調整することで、全く異なる三つのモードを使い分けることができます。

1. マイクロプラズマモード

電流値を0.1アンペアから15アンペア程度の極低電流域で使用するモードです。この領域では、TIG溶接ではアークが不安定になり、維持することすら困難ですが、プラズマ溶接は、その拘束されたアークにより、極めて安定した微小アークを維持できます。

このため、厚さ0.1ミリメートル以下の金属箔や、医療用器具、精密な金網の接合など、TIG溶接では入熱が大きすぎて溶け落ちてしまうような、極めて薄い部材の精密溶接を可能にします。

2. メルトインモード(溶融モード)

電流値を15アンペアから100アンペア程度の中電流域で使用し、母材を貫通させずに溶融させるモードです。その振る舞いはTIG溶接に似ていますが、アークがより集束しているため、TIG溶接よりも高速で、かつ、狭いビード幅での溶接が可能です。

3. キーホールモード(貫通モード)

電流値を100アンペア以上の高電流域で使用し、プラズマ溶接の真価を最も発揮させるモードです。

プラズマアークが持つ高い運動エネルギーと圧力は、TIG溶接のように単に母材を表面から溶かすだけではありません。それは、溶融池に突き刺さり、溶融金属を物理的に押し開け、母材を完全に貫通する小穴を形成します。これをキーホール(鍵穴)と呼びます。

溶接トーチが前進すると、このキーホールも共に移動します。キーホールの周囲で溶けた金属は、表面張力によってキーホールの後方へと流れ込み、そこで冷却・凝固して、溶接ビードを形成します。

このキーホール溶接は、工学的に以下の絶大な利点をもたらします。

  • 完全な溶け込み: アークが物理的に裏側まで貫通するため、母材の裏側まで完全に溶け込んだ、極めて信頼性の高い溶接部が保証されます。
  • 高アスペクト比: 溶接ビードは、幅が狭く、深さが深い、高アスペクト比の形状となります。
  • 高能率: アーク溶接では、厚板を溶接する際、V字型の開先を設け、何度も溶接を重ねる「多層盛り」が必要です。しかし、キーホールモードを用いれば、例えば厚さ6ミリメートルから10ミリメートル程度のステンレス鋼であっても、開先なしで、一回のパス(ワンパス)で完全な溶け込み溶接を完了させることが可能です。

プラズマ溶接の工学的特徴

TIG溶接に対する優位点

  • 電極の保護: TIG溶接では、電極が露出しているため、溶融池との接触による電極の消耗や汚損が頻繁に起こり、作業の中断と電極の再研磨が必要でした。プラズマ溶接では、電極がノズルの奥に後退しているため、母材と接触することがなく、電極の消耗が極めて少ないです。これにより、長時間の安定した自動溶接が可能となり、タングステンが溶接金属に混入するリスクも最小限に抑えられます。
  • アークの安定性: プラズマアークは、ガス流によって強制的に直進させられるため、TIGアークよりも指向性が強く、安定しています。これにより、TIG溶接では厳密な管理が必要な、電極と母材との距離(アーク長)が多少変動しても、溶け込みの深さが変化しにくいという、優れた制御性を持ちます。
  • 高い生産性: キーホールモードによるワンパス溶接は、TIG溶接に比べて、遥かに高速な溶接を可能にします。

欠点と制約

  • 装置の複雑さとコスト: トーチの構造が複雑で、水冷式のノズルや、二系統のガス供給系、そして専用の電源装置が必要となるため、TIG溶接に比べて、設備コストが大幅に高くなります。
  • トーチのサイズ: 絞り込みノズルとシールドノズルという二重構造を持つため、トーチがTIG溶接よりも大型化します。これにより、狭い隅肉部や、奥まった場所へのアクセス性が悪くなるという制約があります。
  • キーホール溶接の姿勢制限: キーホール溶接は、溶融金属の重力による落下を防ぐため、下向き姿勢での溶接が基本となり、立向きや上向き姿勢での施工は困難です。

応用分野

これらの特徴から、プラズマ溶接は、TIG溶接の品質を維持しつつ、より高い生産性や、より深い溶け込みが要求される、高付加価値な分野で採用されています。

  • 航空宇宙・原子力産業: チタン合金やニッケル基超合金、ステンレス鋼といった、高品質な接合が求められる材料で、信頼性の高いキーホール溶接が求められる分野。特に、パイプや圧力容器の自動溶接に多用されます。
  • 精密板金・医療機器: マイクロプラズマモードによる、ステンレス鋼の薄板(フォイル)や、医療用器具の精密接合。
  • 金型・工具の補修: プラズマ粉体溶接(PTA)と呼ばれる、プラズマアーク中に金属粉末を供給し、表面に耐摩耗性の高い肉盛り層を形成する技術にも応用されています。

まとめ

プラズマ溶接は、TIG溶接をベースとしながら、アークをノズルで強制的に絞り込むという、独創的な工学的アプローチによって、アークのエネルギー密度と指向性を飛躍的に高めた溶接技術です。

その最大の功績は、アーク溶接でありながら、レーザーや電子ビームのような高エネルギー密度ビーム溶接の領域である「キーホール溶接」を可能にした点にあります。電極を汚損から守る構造的な信頼性と、0.1アンペアの微小電流から、厚板をワンパスで貫通させる大電流までをカバーする、その圧倒的なダイナミックレンジ。プラズマ溶接は、TIG溶接の精密さと、高能率溶接の生産性を両立させる、強力で洗練された接合ソリューションなのです。

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