機械加工の基礎:研磨加工

加工学

研磨加工は、無数の硬い砥粒を固定した工具を用いて、工作物の表面を微量ずつ除去していく加工法の総称です。その目的は、前工程である切削や鍛造で得られた部品の寸法や形状の精度を一段と高め、同時に表面を滑らかに仕上げることにあります。精密なボールねじの軌道面から、鏡のように輝くシリコンウェーハの表面まで、現代の高性能な工業製品の最終的な品質と機能性を決定づける、極めて重要な最終工程です。

この解説では、研削加工と琢磨加工を含めた広義の研磨加工について、その加工メカニズム、使用される工具、そして主要な加工法を工学的な観点から詳説します。


研磨のメカニズム:微小切削の集合体

研磨加工の根幹をなすのは、砥石と呼ばれる工具です。砥石は、砥粒と呼ばれる非常に硬い微細な粒子を、結合剤で固めて作られています。加工の際には、この砥石を高速で回転させ、工作物に接触させます。

砥石の表面にある一つ一つの砥粒は、それぞれがマイクロメートル単位の微小な刃物として機能します。高速で回転する砥石が工作物に触れると、個々の砥粒は以下の3つの作用を複合的に行いながら、表面を削り取っていきます。

  1. 切り込み作用: 砥粒の鋭い先端が工作物の表面に食い込み、微細な切りくずを発生させます。これが材料除去の主たるメカニズムです。
  2. プラウイング作用: 砥粒が切りくずを発生させるまでには至らず、工作物の表面を押し広げるように塑性変形させる作用です。
  3. 摩擦作用: 砥粒の摩耗した面が工作物の表面を擦る作用で、材料の除去にはあまり寄与せず、主に摩擦熱を発生させます。

研磨加工とは、この3つの作用を伴う、毎秒数万から数百万個にも及ぶ砥粒による微小切削の集合体です。このため、一度に除去できる量は非常に少ないですが、極めて高い寸法精度と滑らかな仕上げ面を得ることができます。一方で、激しい摩擦と塑性変形により局所的に大きな熱が発生するため、研削焼けと呼ばれる熱損傷や、部品の変形を防ぐために、研削液と呼ばれる冷却・潤滑剤の使用が不可欠となります。


砥石を構成する3要素

砥石の性能は、「砥粒」「結合剤」「気孔」の3つの要素の組み合わせによって決まります。

砥粒

実際に工作物を削る「刃」であり、その材質は加工対象によって選択されます。

  • 一般砥粒: 酸化アルミニウム(アランダム)や炭化ケイ素(カーボランダム)が広く用いられます。
  • 超砥粒: 一般砥粒よりもはるかに硬い砥粒で、ダイヤモンドと立方晶窒化ホウ素(CBN)が代表的です。ダイヤモンドはセラミックスや超硬合金といった非鉄系の硬質材料に、CBNは焼入れ鋼などの鉄系材料の加工に用いられ、高い研削能力と長寿命を誇ります。

結合剤

砥粒を保持し、砥石全体の形状を維持する「接着剤」の役割を果たします。

  • ビトリファイド: 陶器質の結合剤で、砥粒の保持力が強く、形状の維持性に優れるため、最も一般的に使用されます。
  • レジノイド: 合成樹脂の結合剤で、弾性があるため、衝撃に強く、切断砥石などに用いられます。
  • メタル: 金属の粉末を焼結させた結合剤で、主に超砥粒を保持するために使われ、極めて高い保持力を持ちます。

気孔

砥粒と結合剤の隙間に存在する空間です。加工中に発生する切りくずを一時的に溜め込むポケットの役割と、研削液を加工点へ供給する通路の役割を果たします。


主要な研磨加工の種類

研磨加工は、その目的や加工する形状に応じて様々な種類に分類されます。

研削加工:形状創成を主目的とする加工

  • 平面研削: 回転する砥石を往復運動または円運動させ、工作物の平らな面を創り出す加工です。
  • 円筒研削: 工作物を回転させながら、その外周面を砥石で研削し、高精度な円筒形状を得る加工です。シャフトやローラーなどの部品に適用されます。
  • 内面研削: 工作物の内径、すなわち穴の内側を研削する加工です。小さな砥石を高速で回転させながら、穴の内部を仕上げます。
  • センタレス研削: 工作物を心押台で支持せず、砥石と調整車、そして受け板で支持しながら研削する方法です。部品の着脱が容易なため、ピンやニードルローラーといった小径の円筒部品の大量生産に絶大な能力を発揮します。

仕上げ加工:表面性状の向上を主目的とする加工

  • ラップ仕上げ: ラップと呼ばれる精密な平面を持つ定盤と工作物の間に、砥粒と加工液を混ぜたラップ剤を供給し、加圧しながら擦り合わせる方法です。極めて平坦で、鏡のような光沢を持つ表面が得られ、ゲージブロックなどの測定基準器の製作に用いられます。
  • ポリッシング: 布や革などで作られた柔軟な工具(バフ)に、微細な砥粒を塗布して工作物の表面を磨き上げる加工です。寸法を変化させることなく、装飾的な光沢や鏡面を得ることを目的とします。
  • 超仕上げ: 低い圧力で微細な砥石を工作物に押し当て、短い振幅で高速に振動させながら加工します。研削加工で生じた表面の微細な凹凸や変質層だけを選択的に除去し、摺動性や耐摩耗性に優れた極めて滑らかな「真の表面」を創り出します。ベアリングの軌道輪や油圧シリンダーのロッドなどが代表例です。

研削の継続性を支える重要技術

研削加工を安定して継続するためには、砥石の状態を常に最適に保つ必要があります。

  • 砥石の摩耗: 研削が進むと、砥粒の刃先は摩耗して丸くなります(目つぶれ)。また、切りくずが気孔に詰まってしまいます(目づまり)。これらの状態になると、研削能力が著しく低下し、加工精度が悪化したり、研削焼けが発生したりします。
  • ドレッシングとツルーイング: 劣化した砥石の切れ味を再生させる作業が不可欠です。ツルーイングは、砥石の形状を修正して、回転軸に対して同心円の正しい形に整える作業です。ドレッシングは、目つぶれや目づまりを起こした砥石の表面層を除去し、新たな鋭い砥粒を露出させる作業で、切れ味を回復させます。これらの作業には、通常、ダイヤモンド工具が用いられます。

まとめ

研磨加工は、砥粒による微小な引っ掻き作用を利用して、部品の精度と表面品質を極限まで高める技術です。その適用範囲は、機械部品の摺動面から半導体デバイスの基板、光学レンズまで、多岐にわたります。一見地味な「削り取る」という行為の最終段階に位置しながらも、製品の性能、信頼性、寿命を決定づける、まさに現代の精密工学を根底から支える核心的な加工技術と言えるでしょう。

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