圧力センサーは、気体や液体が持つ圧力という物理量を、電気信号へと変換する変換器であり、トランスデューサの一種です。
人間の感覚に例えるならば、それは触覚における圧覚に相当します。しかし、現代の圧力センサーが検知する範囲は、真空に近い極微圧から、深海や爆発現象における数千気圧という超高圧まで、人間の知覚能力を遥かに超える領域をカバーしています。スマートフォンに内蔵されて高度を検知する微細なチップから、石油化学プラントで配管の内圧を監視する堅牢な計器まで、その形状と方式は多岐にわたります。
圧力の定義と測定基準
まず、計測対象である圧力そのものの物理的定義と、測定の基準点について整理する必要があります。
圧力の物理
圧力とは、単位面積あたりに垂直に作用する力の大きさです。国際単位系SIではパスカルという単位が用いられます。1パスカルは1平方メートルあたり1ニュートンの力が作用している状態を指します。 圧力センサーの役割は、流体から受圧面であるダイアフラム(受圧膜)が受ける力を検知することにあります。ダイアフラムは圧力を受けて変形します。この変形量や応力を電気信号に変えるのが基本原理です。
三つの測定モード
圧力の測定には、基準となる圧力をどこに置くかによって三つのモードが存在します。 一つ目は絶対圧です。これは完全真空をゼロ基準として測定する圧力です。気象観測における大気圧測定や、真空チャンバー内の圧力管理にはこの方式が用いられます。 二つ目はゲージ圧です。これは現在の大気圧をゼロ基準として測定する圧力です。タイヤの空気圧や血圧計などは、大気圧に対してどれだけ高いかを知りたいため、この方式が採用されます。センサーの裏側を大気に開放する構造が必要です。 三つ目は差圧です。任意の二点間の圧力差を測定します。フィルタの目詰まり検知や、オリフィスプレート前後の圧力差から流量を求める場合などに利用されます。
ピエゾ抵抗効果とひずみゲージ式
現在、産業用から民生用まで最も広く普及しているのが、ピエゾ抵抗効果を利用した半導体ひずみゲージ式圧力センサーです。
応力を抵抗変化へ
シリコン単結晶などの半導体材料に機械的な応力を加えると、結晶格子の変形によってキャリアの移動度が変化し、電気抵抗率が大きく変わる現象が起きます。これをピエゾ抵抗効果と呼びます。 金属の細線を用いたひずみゲージも抵抗変化を利用しますが、それは主に形状変化(線が伸びて細くなる)によるものです。対して半導体シリコンのピエゾ抵抗効果は、原子レベルのバンド構造の変化に起因するため、金属ゲージに比べて数十倍から百倍近い感度、すなわちゲージ率を持ちます。
ホイートストンブリッジ
実際のセンサー構造では、シリコン基板の一部をエッチングによって薄く削り、ダイアフラムを形成します。そのダイアフラム上の、圧力がかかった際に最も応力が発生する位置に、不純物を拡散させてピエゾ抵抗素子を作り込みます。 通常、4つの抵抗素子を用いてホイートストンブリッジ回路を構成します。圧力が加わると、2つの抵抗値が増加し、残りの2つが減少するように配置することで、出力電圧の感度を最大化し、同時に温度変化による抵抗値の一律な変動をキャンセルする効果を得ています。
静電容量式圧力センサー
ピエゾ抵抗式と並んで重要な方式が静電容量式です。微圧の測定や、省電力性が求められる用途で強みを発揮します。
可変コンデンサの原理
構造は、固定電極と、圧力によって変形する可動電極(ダイアフラム)を対向させた平行平板コンデンサです。 圧力がかかってダイアフラムがたわむと、電極間の距離が変化します。静電容量は電極間距離に反比例するため、容量の変化を検知することで圧力を求めます。 この方式の最大の利点は、温度特性が良いことです。ピエゾ抵抗効果は温度依存性が強いのに対し、静電容量は幾何学的な寸法で決まるため、原理的に温度の影響を受けにくいのです。また、消費電力が極めて小さいため、電池駆動のIoTデバイスやタイヤ空気圧監視システムTPMSなどで重宝されます。
信号処理の課題
一方で、静電容量の変化は距離に対して非線形であるため、リニアな出力を得るための補正回路が必要です。また、浮遊容量の影響を受けやすいため、センサーチップと検出回路を極めて近接させる、あるいはワンチップ化するなどの実装技術が求められます。
圧電式圧力センサー
動的な圧力変動、例えばエンジンの燃焼圧や配管内の脈動、衝撃波などを測定するのに特化しているのが圧電式です。
電荷の発生
水晶やチタン酸ジルコン酸鉛PZTなどの圧電体に力を加えると、その表面に電荷が発生します。これを圧電効果と呼びます。 この方式は、変位ではなく力そのものに反応するため、剛性が高く、固有振動数が非常に高いのが特徴です。そのため、数万ヘルツに及ぶ高速な圧力変動に追従できます。 ただし、発生した電荷は漏れ電流によって時間の経過とともに消失してしまうため、一定の圧力がかかり続ける静的な圧力の測定には不向きです。あくまで「変化」を捉えるためのセンサーです。
MEMS技術による微細加工
現代の圧力センサーの小型化と高性能化を支えているのは、MEMSすなわち微小電気機械システム技術です。
シリコンの機械的特性
シリコンは半導体材料として有名ですが、機械構造材料としても極めて優れています。 鉄などの金属は、弾性限界を超えると塑性変形して元に戻らなくなりますが、単結晶シリコンは降伏点を持たず、破壊する直前まで完全な弾性体として振る舞います。つまり、金属ダイアフラムにありがちなヒステリシス(加圧時と減圧時の出力のズレ)やクリープ(時間の経過による変形)がほとんど発生しません。これが、シリコン圧力センサーが高精度である物理的な根拠です。
バルクマイクロマシニング
シリコンウエハを化学薬品やプラズマで削り出すエッチング技術により、髪の毛よりも薄いダイアフラムや、複雑な空洞構造を一括で大量に製造できます。 特にボッシュプロセスと呼ばれる深掘り反応性イオンエッチングを用いることで、垂直な壁を持つ立体構造を自由に作れるようになり、超小型の絶対圧センサーなどがスマートフォンに搭載されるまでになりました。
信号処理と温度補償
センサー素子単体から得られる信号は微弱であり、また温度などの外乱を含んでいます。これを使用可能な信号に仕立て上げるのが信号処理回路、ASICの役割です。
増幅とA/D変換
ホイートストンブリッジからの出力電圧は通常数ミリボルトから数十ミリボルト程度です。これを計装アンプで数ボルトのレベルまで増幅します。近年では、アンプの後段にA/Dコンバータを配置し、デジタル信号として出力するスマートセンサーが主流になりつつあります。I2CやSPIといった通信プロトコルを用いることで、マイコンとの親和性を高めています。
温度ドリフトの補正
半導体センサーの宿命として、温度による特性変動、温度ドリフトがあります。温度が上がるとピエゾ抵抗係数が下がり、感度が低下します。また、ゼロ点もシフトします。 これを補正するために、センサーチップ近傍あるいは同一チップ内に温度センサーを内蔵させます。計測した温度情報に基づき、アナログ回路で逆特性の補正をかけるか、あるいはデジタル演算処理によってリアルタイムで数値を補正します。高精度な圧力測定とは、実質的には高精度な温度測定と補正アルゴリズムの産物であると言っても過言ではありません。
パッケージングと耐環境性
センサーチップがいかに高性能でも、測定対象である流体に触れて腐食したり、壊れたりしては意味がありません。パッケージング技術はセンサーの寿命と信頼性を決定づけます。
メディアアイソレーション
清浄な乾燥空気などを測る場合は、シリコンチップをそのまま空気に触れさせることができます。しかし、エンジンオイル、海水、腐食性ガス、血液などを測る場合、シリコンやボンディングワイヤが腐食する恐れがあります。 このような過酷な媒体、ハッシュメディアに対しては、二重ダイアフラム構造が採られます。 受圧部を耐食性の高いステンレスやハステロイなどの金属ダイアフラムで覆い、その内部にシリコンオイルを充填します。測定流体の圧力は金属ダイアフラムを押し、オイルを介して内部のシリコンチップに伝達されます。オイル封入式と呼ばれるこの構造により、チップは腐食から完全に守られます。
ハーメチックシール
内部の回路を湿気やガスから守るために、金属ケースとガラスを用いた気密封止、ハーメチックシールが施されます。これにより、長期間にわたって絶縁性能と信頼性を維持します。
産業別の応用事例
圧力センサーは、あらゆる産業分野で「機械の神経」として機能しています。
自動車分野
最も多くの圧力センサーが使われているのが自動車です。 インテークマニホールドの圧力を測るMAPセンサーは燃料噴射量の制御に、オイル圧センサーはエンジンの潤滑監視に、ブレーキ油圧センサーはABSやESCの制御に不可欠です。近年では、燃焼室内の圧力を直接測る筒内圧センサーや、タイヤの空気圧を無線で飛ばすTPMSの普及も進んでいます。
医療分野
侵襲式の血圧センサーは、カテーテル先端に取り付けて心臓内部の圧力を直接測定します。また、人工呼吸器や麻酔器では、ガス流量や気道内圧を監視するために高感度な微差圧センサーが使われており、生命維持装置の安全を支えています。
プロセス産業
化学プラントや食品工場では、タンク内の液位レベル測定に差圧伝送器が使われます。タンク底部の圧力と大気圧(またはタンク上部圧)の差は、液体の深さと密度に比例するため、圧力から液面レベルを換算できるのです。
民生機器
スマートフォンやウェアラブルウォッチには、超小型の気圧センサーが搭載されています。これにより、GPSだけでは分からない屋内のフロア移動(何階にいるか)や、登山時の高度変化、さらには天候の変化を検知することが可能になっています。
未来への展望
圧力センサー技術は、さらなる小型化、低消費電力化、そして多機能化へと向かっています。
エナジーハーベストとの融合
電池交換不要のセンサーネットワークを実現するために、振動や温度差から自己発電するエナジーハーベスト技術と組み合わせた、自立型圧力センサーの開発が進んでいます。
複合センシング
圧力だけでなく、温度、湿度、加速度、ジャイロなどを一つのパッケージに統合したコンボセンサーが増えています。これにより、デバイスの実装面積を減らしつつ、より高度な状況認識が可能になります。


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