機械加工の基礎:リーマ加工

加工学

リーマ加工は、ドリルなどであけられた既存の穴を、リーマと呼ばれる専用の回転工具を用いて、わずかに削り広げることで、極めて高い寸法精度と滑らかな仕上げ面を得るための仕上げ加工です。自ら穴をあける能力はなく、あくまで既存の穴の品質を最終的に完成させることを目的とします。

ドリル加工が穴という「形」を創り出すプロセスであるならば、リーマ加工はその穴の「質」を究極まで高めるプロセスです。部品同士を正確に位置決めするノックピンの穴や、軸受がはまる精密な穴など、ミクロン単位の精度が要求される場面で不可欠なこの技術について、その原理と要点を工学的に解説します。


加工の原理:微小切削と案内による仕上げ

リーマ加工の秘密は、リーマという工具が持つ独特の形状と、それが生み出す二段階の作用にあります。

リーマ工具の形状と機能

リーマは、通常4枚から12枚程度の多数の切れ刃を持つ、多刃の回転工具です。その刃部には、役割の異なる二つの重要な部分があります。

  1. 食付き部: リーマの先端にある、円錐状に傾斜した部分です。この食付き部に設けられた切れ刃が、実際に材料を削り取る切削作用の大部分を担います。リーマ加工で除去される材料は、直径にしてわずか0.1ミリから0.3ミリ程度と非常に薄く、この食付き部で微細な切りくずとして除去されます。
  2. マージン部: 食付き部に続く、円筒状の部分です。この部分の切れ刃は、ほとんど切削作用を行いません。その主な役割は、食付き部で削られた直後の穴の内壁を磨き、滑らかに仕上げる案内作用(バニシング作用)です。また、この長いマージン部が穴の内壁に沿ってガイドされることで、リーマ自身の姿勢を安定させ、真円度の高い、まっすぐな穴を保証します。

つまり、リーマ加工は、先端の食付き部による「微小な切削」と、それに続くマージン部による「滑らかな仕上げと案内」という、二つの作用が連続的に行われることで、高精度な穴を創り出しているのです。

リーマ加工の基本条件

この原理を最大限に活かすため、リーマ加工は一般的に低速回転・高送りで行われます。ドリル加工に比べて回転速度を半分程度に落とすことで、加工面のむしれや発熱を抑えます。一方で、一回転あたりの送り量を大きくすることで、食付き部の切れ刃に適切な厚みの切りくずを生成させ、滑らかな切削を実現します。


リーマの種類

リーマは、その使用方法や形状によって様々な種類があります。

  • ハンドリーマ: 手作業で用いるリーマです。食付き部が長く緩やかなテーパになっており、手回しでもスムーズに穴に食い込んでいくように設計されています。
  • マシンリーマ: ボール盤やマシニングセンタといった工作機械に取り付けて使用するリーマです。食付き部が短く、効率的な加工が可能です。
  • ストレート刃リーマ: 切れ刃が軸に対して平行な、最も一般的なタイプです。
  • スパイラル刃リーマ: 切れ刃が螺旋状になっているリーマです。右ねじれの刃は切りくずを前方へ排出し、左ねじれの刃は後方へ排出します。食い付きがスムーズで、より高品質な仕上げ面が得られます。

高精度加工のための工学的要点

リーマ加工で最高の精度を得るためには、いくつかの重要な工学的条件を満たす必要があります。

下穴の品質が全てを決定する

リーマ加工の成否は、その前工程である下穴の品質にほぼ全てがかかっていると言っても過言ではありません。リーマは、既存の穴を案内として加工を進めるため、下穴の位置ずれや曲がりを修正する能力は一切ありません。リーマは、曲がった穴を正直に曲がったまま仕上げるだけです。

したがって、高精度なリーマ加工を行うためには、まず、正確な位置に、できるだけまっすぐな下穴をあけることが絶対条件となります。

  • 下穴の径: リーマで削り取る量、すなわち「取り代」が適切でなければなりません。取り代が少なすぎると、リーマの刃が食い込まずに表面を滑り、加工硬化を起こしてしまい、かえって面が荒れる原因となります。逆に多すぎると、リーマに過大な負荷がかかり、寸法精度が悪化したり、工具が破損したりします。
  • 下穴の位置と真直度: 最高の精度が求められる場合には、ドリルであけた穴を一度、中ぐり加工で正確な位置に拡大・修正してから、最終仕上げとしてリーマ加工を行うという手順が踏まれます。

心ずれの防止

リーマと下穴の中心軸が完全に一致していることも重要です。ここにずれがあると、穴が拡大されたり、入り口がラッパ状になったりする原因となります。機械の主軸と工作物の心ずれを吸収するため、フローティングホルダという特殊な工具ホルダが用いられることもあります。

切削油剤の役割

リーマ加工において、切削油剤は極めて重要な役割を果たします。リーマの切れ刃に、削り取った切りくずが溶着してしまう「構成刃先」の発生を防ぎ、滑らかな仕上げ面を得るためには、優れた潤滑性を持つ切削油剤が不可欠です。また、冷却作用や、微細な切りくずを洗い流す作用も、加工品質を安定させる上で欠かせません。


まとめ

リーマ加工は、穴の寸法と表面品質を最終的に決定づける、精密工学の根幹をなす仕上げ技術です。その本質は、下穴というガイドに沿って、微量の材料を削り取り、同時に磨き上げるという、極めて繊細なプロセスにあります。

この加工によって得られるミクロン単位で管理された穴があるからこそ、機械の部品同士は正確に位置決めされ、軸は滑らかに回転し、高い気密性を保つことができます。ドリル加工で生まれた穴に、最後の魂を吹き込み、機能的な価値を完成させるリーマ加工は、現代のものづくりにおいて、その精度が製品全体の信頼性を保証する、まさに画竜点睛の技術と言えるでしょう。

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