機械制御の基礎:リレー

機械制御

現代の電子機器や産業機械は、高度な集積回路やマイクロプロセッサによって制御されていますが、それら「頭脳」にあたる部分は数ボルト、数ミリアンペアという微弱な電力しか扱うことができません。一方で、モーターを回したり、ヒーターを加熱したり、照明を点灯させたりする「筋肉」にあたる部分には、数百ボルト、数十アンペアという大きな電力が必要です。この微弱な信号と強大な動力の間を取り持ち、異なる電圧や電流を物理的に絶縁しながら連携させる役割を担うのがリレーです。

1830年代、電信機の中継増幅器として発明されて以来、その基本原理は驚くほど変わっていません。しかしその内部には、電磁気学、機械力学、接触信頼性に関わるトライボロジー、そして材料科学といった多岐にわたる物理法則が凝縮されています。


有接点リレーの基本構造と動作原理

最も一般的である電磁リレー、メカニカルリレーは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し、さらに機械エネルギーへと変換することでスイッチを駆動します。その構成は、電磁石ブロックと接点ブロック、そして復帰機構に大別されます。

電磁石による駆動力の発生

中心には鉄心と呼ばれる磁性体の棒があり、その周囲に絶縁被覆された銅線がコイル状に巻かれています。コイルに電流を流すと、アンペールの法則に従って磁束が発生し、鉄心が強力な電磁石となります。 この電磁石の吸着面に対向して、可動鉄片あるいはアーマチュアと呼ばれる強磁性体の板が配置されています。コイルが励磁されると、磁気回路の磁気抵抗を最小にしようとする力が働き、可動鉄片が鉄心に吸着されます。

テコの原理と接点開閉

可動鉄片の動きは、カードや押し棒と呼ばれる連結部品を介して、可動接点バネに伝達されます。 バネの先端には可動接点が付いており、対向する固定接点と接触あるいは開離します。このとき、わずかな電磁石の吸引力を効率よく接点圧に変換するために、テコの原理を利用したヒンジ構造が採用されることが一般的です。 電流を切ると電磁石の磁力は消滅し、復帰バネの弾性力によって可動鉄片は元の位置に戻り、接点も初期状態に復帰します。これが基本的な動作サイクルです。


接点の物理と材料科学

リレーの性能と寿命を決定づける最重要部位が接点です。単に金属同士が触れれば電気が流れるという単純なものではありません。そこにはミクロな接触物理が支配する世界があります。

集中抵抗と境界抵抗

平滑に見える接点表面も、顕微鏡レベルでは無数の凹凸が存在します。したがって、二つの接点が接触しても、実際に通電しているのは凸部同士が接触した極めて微小な点、真実接触点のみです。電流はこの狭い点に集中して流れるため、ここに電気抵抗が発生します。これを集中抵抗と呼びます。 また、金属表面は大気中の酸素や硫黄と反応して薄い皮膜を形成しています。この皮膜が絶縁体として働くために生じる抵抗を境界抵抗と呼びます。 リレーの接触抵抗は、これら集中抵抗と境界抵抗の和となります。接点圧力を高く設計するのは、凸部を塑性変形させて真実接触面積を増やし、同時に皮膜を機械的に破壊して金属接触を得るためです。

アーク放電というプラズマ

リレーが電流を遮断する瞬間、接点間には過酷な現象が発生します。接点が開こうとすると、接触面積が急激に減少し、最終的に一点に電流が集中します。そのジュール熱によって金属が溶融・蒸発し、さらに接点間の電界によって電子が放出され、気体が電離してプラズマ化します。これがアーク放電です。 数千度にも達するアークは、接点を溶かして消耗させるだけでなく、一方の接点の金属を他方へ移動させる転移現象を引き起こします。これにより、接点表面に突起と窪みができ、最終的には引っかかって開かなくなるロック現象に至ります。

接点材料の選定

これらの現象に対抗するため、接点材料には高度な合金設計が施されています。 大電流を遮断するパワーリレーには、耐溶着性と耐アーク性に優れた銀酸化錫や銀タングステンなどの銀合金が用いられます。 一方、微小信号を扱うシグナルリレーでは、表面の酸化皮膜による接触不良を防ぐことが最優先されるため、化学的に安定な金合金を表面に被覆した金クラッド接点や、接点同士が擦れ合って皮膜を除去するワイピング構造が採用されます。


駆動回路と過渡現象

リレーを駆動するコイルは、電気的にはインダクタンス成分を持つ誘導性負荷です。これが回路設計において注意すべき挙動を示します。

逆起電力の発生

コイルに流れる電流をスイッチやトランジスタで遮断した瞬間、レンツの法則により、コイルは電流の変化を妨げようとして、これまで流れていた電流を維持する方向に極めて高い電圧を発生させます。これを逆起電力、あるいはサージ電圧と呼びます。 この電圧は電源電圧の数十倍に達することもあり、リレーを駆動しているトランジスタを瞬時に破壊したり、周囲の回路にノイズとして悪影響を与えたりします。

保護素子の必要性

この破壊的なエネルギーを安全に逃がすために、コイルと並列にダイオードを逆向きに接続するのが定石です。 電流が遮断された瞬間、逆起電力によってダイオードに電流が還流し、エネルギーがコイルの内部抵抗とダイオードで消費されます。これをフリーホイールダイオードと呼びます。 ただし、ダイオードを入れるとコイル内の電流がなかなか消滅しないため、磁力が維持され、リレーの復帰時間(接点が開くまでの時間)が遅れるという副作用があります。高速遮断が必要な場合は、バリスタやツェナーダイオードを用いて、ある程度の電圧でエネルギーを急速に熱消費させる設計がとられます。


ラッチングリレーの省エネルギー技術

一般的なリレー(シングルステイブル型)は、接点をオンし続けるためにコイルに電流を流し続ける必要があります。これは消費電力の増大とコイルの発熱を招きます。この課題を解決するのがラッチングリレーです。

永久磁石の活用

ラッチングリレーの磁気回路には、電磁石だけでなく永久磁石が組み込まれています。 セットコイルにパルス電流を流して接点を動かすと、電流が切れた後も永久磁石の磁力によって可動鉄片が吸着位置に保持されます。つまり、状態を維持するための電力がゼロで済みます。 元の状態に戻すには、リセットコイルに電流を流す(2巻線型)か、セット時とは逆向きの電流を流して(1巻線型)、永久磁石の磁束を打ち消す磁界を発生させ、復帰バネの力で引き剥がします。 この特性は、メモリ機能としての利用や、低消費電力が求められるスマートメーター、発熱を嫌う高密度実装基板などで重宝されています。


半導体リレー SSRの台頭

機械的な接点を持たないリレーとして、ソリッドステートリレー、略称SSRが普及しています。

光による絶縁とスイッチング

SSRの入力側には発光ダイオード、出力側にはフォトトライアックやパワーMOSFETなどの半導体スイッチング素子が配置されています。 入力信号によってLEDが発光すると、その光を光起電力素子が受け取り、出力側の半導体ゲートを駆動して導通させます。電気ではなく光で信号を伝達するため、入力と出力は完全に絶縁されています。

メカニカルリレーとの比較

SSRの最大の利点は、機械的磨耗がないため寿命が半永久的であること、そして動作速度が圧倒的に速いことです。また、接点開閉に伴うアーク放電や動作音も発生しません。 交流負荷用SSRでは、電圧がゼロになるタイミングでスイッチをオンにするゼロクロス機能を容易に実装でき、突入電流やノイズを抑制できます。 一方で、欠点もあります。半導体は導通時にもわずかな抵抗あるいは電圧降下を持つため、大電流を流すと発熱します。そのため、放熱器(ヒートシンク)が必要になることが多く、盤内の占有体積が大きくなりがちです。また、完全に回路が切断されるわけではないため、微小な漏れ電流が存在します。 制御頻度が高いヒーター制御などにはSSR、確実に遮断が必要な主電源や緊急停止回路にはメカニカルリレーといった使い分けがなされます。


信頼性阻害要因とシリコーン害

リレーは堅牢な部品ですが、環境によっては特有の故障モードを示します。その代表例がシリコーン雰囲気による接触不良です。

二酸化ケイ素の生成

接点の周囲に、シリコーンゴム、シリコーンオイル、シリコーン系コーティング剤などが存在すると、そこから揮発した低分子シロキサンガスがリレー内部に侵入します。 この状態で接点が開閉されアーク放電が発生すると、シロキサンが熱分解され、化学的に極めて安定な二酸化ケイ素、つまりガラス質が接点表面に堆積します。 二酸化ケイ素は絶縁体であるため、堆積が進むと接触抵抗が増大し、最終的には導通不良を引き起こします。これはリレーにとって致命的な病であり、対策としてはガス密閉構造のシールリレーを使用するか、シリコーンフリーの部材選定を行う必要があります。

粘着と溶着

過大な突入電流(ランプ負荷やコンデンサ負荷など)が流れると、接点表面が局所的に溶けてくっついてしまう溶着が発生します。 また、微小負荷領域においては、接点の叩き動作によって表面が平滑になりすぎて、金属同士が原子レベルで吸着してしまう粘着現象が起こることもあります。これらは回路設計における定格マージンの確保や、適切な接点材料の選定によって防ぐべき事象です。


特殊用途とセーフティリレー

産業機械の安全規格に対応するために開発されたのが、セーフティリレーあるいは強制ガイド式リレーです。

強制ガイド接点の構造

通常のリレーでは、a接点(常開)とb接点(常閉)が独立して動く可能性があります。例えば、a接点が溶着して固着している状態で、コイルの電源を切ったとします。通常ならb接点が閉じるはずですが、a接点が固着しているため可動鉄片が戻りきらず、b接点も開いたままという中途半端な状態になり得ます。これでは、接点の故障を検知できません。 セーフティリレーでは、a接点とb接点が機械的に強固に連結されています。もしa接点が溶着した場合、コイルを切ってもb接点は物理的に閉じることができません(0.5ミリメートル以上の隙間を確保するよう規定されています)。 この構造により、b接点の状態を監視することで、a接点の溶着故障を確実に検知することが可能になります。プレス機やロボットの安全回路、非常停止回路には、このリレーの使用が義務付けられています。


技術の展望とMOSFETリレー

リレー技術は成熟していますが、進化は止まっていません。特に注目されているのが、フォトMOSリレーあるいはMOSFETリレーと呼ばれるデバイスです。

機械と半導体の融合領域

これはSSRの一種ですが、出力素子に2つのMOSFETを逆直列に接続することで、交流・直流の両方を制御でき、かつリニアリティの高い出力特性を持たせたものです。 従来のメカニカルリレーに比べて極めて小型で、動作音がなく、SSRのような出力歪みもありません。微小信号の切り替えにおいてはメカニカルリレーを置き換えつつあり、計測機器や通信機器の高密度実装を支えています。 一方で、EV(電気自動車)の高電圧バッテリーを遮断するためのDC高電圧リレーには、水素ガスを封入してアークを急速冷却・消弧する技術が導入されるなど、大電力分野でも物理限界への挑戦が続いています。

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