機械材料の基礎:配管用炭素鋼鋼管(SGP)

機械材料

配管用炭素鋼鋼管は、日本産業規格 JIS G 3452 に規定される、最も汎用的かつ基礎的な工業用パイプです。 Steel Gas Pipe の頭文字をとって SGP と呼称されるほか、単にガス管とも呼ばれます。ガス輸送にとどまらず、上水道、空調用水、工業用水、油、蒸気、空気など、比較的低い圧力の流体を輸送するための動脈として、建築設備からプラント設備まで幅広く利用されています。

SGPは現代社会のインフラストラクチャーを支える最も基本的な構成要素です。安価でありながら必要十分な強度と加工性を持ち、適切な防食処理を施すことで長期間の供用が可能となるバランスの取れた材料です。


製造プロセスと材料組織

SGPは主に電気抵抗溶接法もしくは鍛接法によって製造されています。

電気抵抗溶接法 ERW

現代のSGP製造の主流となっているのが電気抵抗溶接法です。 原材料となるのは、熱間圧延された帯状の鋼板、すなわちフープ材です。このフープ材をロール成形機に通し、連続的に円筒状へと曲げ加工していきます。円筒形に丸められた鋼板の継目に対し、高周波電流を流します。 高周波電流は導体の表面および近接した部分に集中して流れる性質があるため、エッジ部分のみが瞬時に融点近くまで加熱されます。この状態で強い圧力を加えて圧接し、一体化させます。

ERW管の特徴は、溶接速度が極めて速く生産性が高いこと、そして溶接部の品質が母材とほぼ同等になることです。ただし、溶接直後は急熱急冷による熱影響部が形成され、硬く脆い組織となっています。そのため、シームアニールと呼ばれる熱処理を行い、組織を均質化すなわち焼きならしを行うことで、母材と同等の靭性を回復させています。

鍛接法

鍛接法はより小径の管の製造に用いられる伝統的な手法です。加熱されたフープ材を、成形ロールを通して円筒状にし、エッジ部分を酸素ジェットなどでさらに加熱して溶融状態にし、鍛接ロールで強く圧着して接合します。継ぎ目が完全に一体化するため、ねじ切り加工などの際に継ぎ目から割れにくいという特徴がありますが、寸法精度や表面肌はERW管に劣る傾向があります。


力学的特性と仕様限界

SGPは配管用炭素鋼鋼管という名称の通り、あくまで一般配管用として設計されています。したがって、高圧配管用炭素鋼鋼管 STPG などと比較すると、その仕様には明確な限界があります。

圧力限界

SGPの最高使用圧力は、一般的に1MPa程度とされています。これは、水道法などの法規や、管自体の耐圧性能に基づく閾値です。 工場での水圧試験圧力は2.5メガパスカルで行われますが、これはあくまで短時間の耐圧証明であり、常時この圧力をかけ続けられるわけではありません。

流体力学的に見れば、管内を流れる流体の圧力は、管壁に対して円周方向の引張応力を発生させます。SGPの肉厚は、この応力が材料の許容引張応力を下回り、かつ腐食代やねじ切りのための減肉を考慮した厚さに設定されています。

引張強度と延性

SGPの素材は低炭素鋼であり、引張強さは290MPa以上と規定されています。 炭素含有量を低く抑えることで、高い延性と靭性を確保しています。これは、地震などの地盤変動や、ウォーターハンマーのような衝撃圧が加わった際に、脆性破壊せずに塑性変形することでエネルギーを吸収し、破断による漏水を防ぐためのフェイルセーフな設計思想に基づいています。また、この高い延性は、現場での曲げ加工やねじ切り加工を容易にし、施工性の向上にも寄与しています。

スケジュール番号との違い

SGPにはスケジュール番号という概念はありません。スケジュール番号は、圧力配管用であるSTPGやSTPTなどに適用される、圧力に応じた肉厚を表す指標です。 SGPの肉厚は外径ごとに単一の規格値しか存在しません。したがって、より高い圧力や、より厳しい腐食環境に耐えるために肉厚を増やしたい場合は、SGPではなくSTPGなどを選定する必要があります。


黒管と白管 表面処理の工学

SGPは、その表面処理の状態によって黒管と白管の二種類に分類されます。

黒管

表面に亜鉛めっき処理を施していないパイプです。製造時の熱処理によって生じた黒皮に覆われている、あるいは防錆塗装が施されているため黒く見えます。 主に蒸気、油、ガス、温水などの配管に用いられます。これらは比較的腐食リスクが低い、あるいは腐食抑制剤による管理が可能である環境で使用されます。また、溶接を行う場合は、めっき層が溶接欠陥の原因となるため、黒管が選定されます。

白管

白管は黒管の内外面に溶融亜鉛めっきを施したものです。 亜鉛めっきの防食原理は、犠牲陽極作用に基づいています。鉄よりもイオン化傾向の大きい亜鉛が先に酸化溶出することで電子を供給し、鉄の酸化すなわち錆の発生を防ぎます。 白管は主に上水道や雑用水、エア配管などに用いられてきましたが、近年では水道水中の残留塩素による腐食の問題や、赤水の発生といった衛生上の観点から、飲料用配管としての使用は敬遠される傾向にあります。これに代わり、内面に樹脂をライニングした硬質塩化ビニルライニング鋼管などが標準となっています。


接続技術とシール理論

配管は接続部が弱点となります。SGPの接続には主にねじ接合、溶接接合、フランジ接合が用いられます。

ねじ接合

SGPで最も一般的な接続方法です。管端に管用テーパねじを加工し、継手にねじ込みます。 この接合のシール原理は、おねじとめねじが嵌合する際の弾性変形と塑性変形による金属接触、および微小な隙間を埋めるシール材の充填効果によるものです。 テーパねじは、ねじ込むほどに径が干渉し合い、強い面圧が発生します。しかし、過度な締め付けは継手の割れを招き、締め付け不足は漏れの原因となります。そのため、熟練した技能あるいは厳密なトルク管理が要求されます。また、ねじ加工によって管の肉厚が物理的に削り取られるため、ねじ底の強度は元の管よりも低下し、腐食による穴あきもねじ部から発生しやすいという弱点を持っています。

溶接接合

大口径の配管や、漏洩が許されない用途では、突合せ溶接が採用されます。 管端を開先加工し、溶接棒を用いて溶融金属で一体化します。ねじ接合のようなシール材の劣化や緩みの心配がなく、機械的強度は母材と同等以上になります。ただし、熱影響による材料特性の変化や、溶接ビードによる流路抵抗の増加、施工に要する専門資格と設備が必要といったコスト面での課題があります。

フランジ接合

パイプとパイプ、あるいはパイプとバルブなどを、つば状の継手であるフランジを介してボルトナットで締め付ける方法です。 フランジ面の間にはガスケットが挟み込まれ、ボルトの軸力によってガスケットを圧縮することでシール性を確保します。分解や交換が容易であるため、メンテナンスが必要な機器周りには必須の接続法です。

グルーブ接合

近年普及が進んでいるのが、管端に溝を転造加工し、そこにハウジングを嵌め込んでゴムパッキンでシールするハウジング形管継手です。 溶接のような火気を使用せず、ねじ切りのような切り屑も出ないため、施工スピードが圧倒的に速く、安全性も高いという特徴があります。また、継手自体がある程度の可撓性、すなわち角度変位を吸収できる能力を持つため、耐震性にも優れています。


腐食メカニズムと寿命予測

炭素鋼であるSGPにとって、腐食は不可避の自然現象であり、最大の課題です。

電気化学的腐食

水中での鉄の腐食は、局部電池の形成による電気化学反応です。 鉄表面のアノード部では鉄がイオン化して溶け出し、カソード部では水中の溶存酸素が還元されて水酸化物イオンを生成します。これらが結合して水酸化鉄となり、さらに酸化されて赤錆が発生します。 SGP内部で発生する錆こぶは、流路を閉塞させて圧力損失を増大させるだけでなく、錆の下部で酸素濃淡電池が形成され、局部的に腐食が進行する孔食を引き起こします。これが貫通漏水の主原因です。

異種金属接触腐食

配管系に銅やステンレス鋼などの電位的に貴な金属が混在していると、SGPがアノードとなり、腐食が加速されます。これを防ぐために、絶縁フランジや絶縁継手を用いて電気的な縁切りを行うことが、設備設計上の鉄則です。

流動腐食 エロージョン・コロージョン

流速が速い場合や、曲がり部、乱流発生部においては、物理的な摩耗作用と化学的な腐食作用の相乗効果により、急速な減肉が生じます。SGPの設計流速は通常毎秒2メートル以下に制限されますが、これはこのエロージョン・コロージョンを防ぐための工学的指針です。



役割と進化する適用

SGPは、登場から長い年月を経た今もなお、配管材料のスタンダードとしての地位を維持しています。ステンレス鋼管や樹脂管といった高機能材料が普及した現在でも、その経済性と加工性、そして長年の使用実績に基づく信頼性は、他の材料では代替しがたい価値を持っています。

しかし、その信頼性は「適材適所」というエンジニアリングの基本原則の上に成り立っています。流体の性質、圧力、温度、そして腐食環境を正しく評価し、必要な防食措置や更新計画を講じること。SGPという素朴な材料を使いこなす知識と技術こそが、私たちの生活と産業を支えるライフラインの安全を守っているのです。

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