機械加工の基礎:シャーリング加工

加工学加工機械

シャーリング加工は、板金加工において、金属の板材を所定の寸法に直線的せん断(切断)するための、最も基本的で高能率な加工法です。一般にシャーとも呼ばれます。

この加工法の工学的な本質は、ハサミが紙を切る原理を、金属板に対して、より強力かつ精密に応用した点にあります。すなわち、上刃下刃と呼ばれる一対の直線状の刃物(ブレード)の間に板材を挟み込み、一方の刃をもう一方の刃に対して平行に、あるいはわずかな角度を持たせて通過させることで、材料のせん断強度の限界を超える応力を発生させ、物理的に切断します。

この技術は、レーザー切断やプラズマ切断のような熱的切断とは異なり、熱による影響(歪みや組織変性)がほとんどなく、切削加工のような切りくずも発生しません。その圧倒的な加工速度と経済性から、あらゆる板金製造プロセスにおける「材料取り(ブランク加工)」の第一工程として、不可欠な基幹技術となっています。


せん断の物理的原理

シャーリングによる切断は、瞬時に行われるように見えますが、ミクロの視点で見ると、材料の内部では「弾性変形」「塑性変形」「せん断」「破断」という、四つの連続した物理現象が起こっています。

1. 弾性変形

まず、上刃が下降し、板材に接触すると、材料は刃の圧力でわずかにたわみます。この段階では、力(応力)が材料の降伏点を下回っており、もし刃を離せば、材料は元の形状に戻ります。

2. 塑性変形

さらに刃が食い込むと、応力は降伏点を超え、材料は元に戻らない永久変形、すなわち塑性変形を開始します。この時、刃が食い込んだ板材の上下の角には、丸みを帯びた「ダレ」と呼ばれる形状が形成されます。

3. せん断

上刃と下刃の先端部に応力が最大に集中します。材料は、この二つの刃先を結ぶ「せん断面」に沿って、激しい塑性流動を起こします。この段階で、材料内部では微細な亀裂(クラック)が発生し始めます。

4. 破断

最終的に、上下の刃先から発生した亀裂が、材料の内部で繋がり、材料は完全に破断して分離します。

せん断面の工学的特徴

この一連のプロセスを経た切断面には、シャーリング加工特有の特徴が現れます。

  • ダレ: 塑性変形によって生じた、切断エッジの丸みを帯びた部分。
  • せん断面: 刃によって押し切られた、比較的滑らかで光沢のある面。
  • 破断面: 亀裂が進展して引きちぎられた、粗く、光沢のない面。
  • バリ: 破断の最後に、材料が押し出されて形成される、エッジの鋭い突起。

高品質なシャーリング加工とは、この「ダレ」と「バリ」を最小限に抑え、「せん断面」の割合をできるだけ大きく、かつ均一に制御することに他なりません。


品質を支配する主要パラメータ

シャーリング加工の品質は、いくつかの重要な工学的パラメータによって決定づけられます。その中でも、クリアランスの管理は、最も重要です。

1. クリアランス

クリアランスとは、上刃と下刃の間の、水平方向の隙間を指します。この隙間の大きさが、前述のせん断面の品質と、バリの発生量を直接的に決定します。

  • クリアランスが最適(適正)な場合: 上刃と下刃から発生した二つの亀裂が、きれいに一直線上で出会い、最小限の力で、クリーンな破断面が形成されます。バリの発生も最小限に抑えられます。
  • クリアランスが小さすぎる場合: 上下からの亀裂が、すれ違うようにして発生します。これにより、二つのせん断面が形成される「二次せん断」という現象が起こり、切断面がささくれたようになります。また、刃が材料を無理やり引きちぎる形になるため、切断抵抗が異常に増大し、刃の摩耗や欠けを急速に早めます。
  • クリアランスが大きすぎる場合: 材料は、刃で「切られる」のではなく、二つの刃の間に「引きずり込まれる」ようになります。これにより、非常に大きな「ダレ」と「バリ」が発生し、切断面は大きく傾き、寸法精度も著しく悪化します。

最適なクリアランスは、材料の材質と板厚によって決まります。一般に、軟らかい材料(軟鋼、アルミニウム)は板厚の5~10%、硬い材料(ステンレス鋼、高張力鋼)は板厚の10~12%程度が目安とされますが、これは経験と試験によって決定される、各工場の重要なノウハウです。

2. レーキ角

レーキ角とは、下刃に対する上刃の傾斜角度です。 シャーリング加工では、上刃と下刃は完全には平行ではなく、上刃には「傾き」が付けられています。これは、ハサミが支点を中心に徐々に切断していくのと同じ原理です。

  • 目的: もしレーキ角がゼロ(平行)であれば、切断長さの全域にわたって、一度にせん断力が発生するため、プレス機械には莫大な動力が必要となります。レーキ角を設けることで、切断が端から順次進行するため、最大切断荷重を大幅に低減することができます。
  • 工学的な課題: レーキ角の代償として、切断された板材には「ねじれ」や「反り」が発生しやすくなります。特に、幅の狭い板材を切り出す際には、この変形が顕著になるため、レーキ角は、機械の能力と製品の要求品質とのバランスを見て、適切に設定する必要があります。

シャーリングマシンの構造

シャーリング加工は、シャーリングマシンと呼ばれる専用の工作機械で行われます。

  • フレーム: 上刃と下刃を保持し、切断時の強大な力に耐える、機械の本体です。
  • 上刃とラム: 上刃は、ラムと呼ばれる、上下に往復運動する可動部に取り付けられます。
  • 下刃とテーブル: 下刃は、テーブルと呼ばれる固定台に設置されます。
  • 駆動機構: ラムを駆動する方式によって、機械は二分されます。
    • 機械式シャー: モーターの回転を、フライホイールとクラッチ、クランク機構を介して、ラムの上下運動に変換します。加工速度が非常に速く、薄板の高速・大量生産に適しています。
    • 油圧式シャー: 油圧シリンダーの力で、ラムを直接駆動します。加工速度は機械式に劣りますが、加圧力の制御が容易であり、ストローク長も可変にできるため、板厚の厚い「厚板」の切断に広く用いられます。
  • 押さえ装置: 切断の瞬間、板材が動いたり、浮き上がったりするのを防ぐため、上刃のすぐ手前には、押さえと呼ばれる、多数の油圧パッドや機械式クランプが配置されています。これらが、切断直前に、板材をテーブルに強力に固定します。
  • バックゲージ: 切断する寸法を決定するための、最も重要な位置決め装置です。刃の後方に設置された、可動式の「突き当て定規」であり、作業者は、このバックゲージに板材を突き当てるだけで、常に正確な寸法で材料を切り出すことができます。現代の機械では、このバックゲージはNC制御され、0.1ミリ単位での精密な寸法設定が可能です。

シャーリング加工の工学的地位

長所

  • 圧倒的な加工速度: 一度のストロークで、数メートルに及ぶ直線を、わずか数秒で切断できます。
  • 高い経済性: レーザー加工のような高額な設備投資や、切削加工のような大量の切りくず(材料ロス)がありません。工具である刃の寿命も長く、ランニングコストが非常に安価です。
  • 熱影響がない: 熱を使わない冷間加工であるため、熱による歪みや、材料の組織が変化する熱影響部が一切発生しません。

短所

  • 直線限定: 原理的に、直線状の切断しかできません。曲線や複雑な輪郭の切り抜きは不可能です。
  • バリと歪みの発生: バリの発生は、程度の差こそあれ、避けることができません。また、レーキ角に起因する、ねじれや反りといった歪みも、必ず発生します。
  • 厚板の限界: 板厚が厚くなればなるほど、必要な切断力は指数関数的に増大するため、超厚板の切断には適しません。

製造工程における役割

これらの特徴から、シャーリング加工は、製造プロセスにおける最初の工程、すなわち「ブランク加工」として位置づけられます。

工場に納入された巨大な鋼板(定尺材)を、まずシャーリングマシンで、後工程に必要な、より小さな四角形や短冊状の板(ブランク)へと切り出します。このブランクが、次のプレスブレーキによる「曲げ加工」、あるいはタレットパンチプレスやレーザー加工機による「抜き加工」へと送られていくのです。


まとめ

シャーリング加工は、ハサミの原理を工業的に発展させた、せん断という物理現象に基づく、最も基本的で高能率な板金切断技術です。その成功は、クリアランスレーキ角といった、工学的なパラメータの精密な制御にかかっています。

複雑な形状を生み出すことはできませんが、その圧倒的な速度と経済性により、あらゆる板金製品の製造プロセスにおいて、素材を切り出すという、最も重要で、最も大量に行われる作業を、力強く支えています。シャーリング加工は、まさに現代の板金製造業の「出発点」を司る、不可欠なテクノロジーなのです。

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