機械要素の基礎:ばね

コラム機械要素

機械要素の基礎:ばね

ばねとは

ばねは、外から力を加えると弾性変形し、力を取り除くと元の形状に復元しようとする性質を利用した機械要素です。この変形と復元という性質は材料の弾性に基づくものであり、ばねはこの弾性を積極的に活用するために特定の形状に作られています。ばねは変形する際にエネルギーを蓄え、復元する際にそのエネルギーを放出することができます。

また、変形量と荷重の間には一定の関係があるため、力の大きさを制御したり測定したりするためにも用いられます。その機能の多様性から、自動車、家電製品、産業機械、精密機器、日用品に至るまで、あらゆる分野で広く利用されている基本的な機械要素の一つです。

ばねの主な機能

ばねはその弾性を利用して、以下のような様々な機能を発揮します。

  • エネルギーの蓄積と放出:時計の動力源となるぜんまい、おもちゃの駆動機構、エンジンのスターターなどで利用されます。

  • 衝撃や振動の吸収緩和:自動車や鉄道車両の懸架装置サスペンション、機械設備の防振装置、衝撃を和らげる緩衝器などで、乗り心地や機械の安定性を向上させます。

  • 一定の力の付与や押圧:エンジンの吸排気弁を閉じる力、安全弁やリリーフ弁で設定圧力を保つ力、電気スイッチの接点を確実に接触させる力、クランプ工具で物を挟む力などに利用されます。

  • 部品間の接触維持:回転するカムに追従するカムフォロワーを押さえつけたり、クラッチ機構で摩擦板を圧着したりするのに使われます。

  • 力の測定:ばねの変形量が荷重に比例する性質を利用して、ばね秤はかりなどで力の大きさを測定します。

  • 運動の制御や復元力の付与:開いたドアを自動で閉じる機構の戻りばね、機械装置の操作レバーを中立位置に戻す力、遠心力を利用して回転速度を調整する調速機ガバナーなどに使われます。

ばねの主な種類

ばねは、形状、材料、荷重のかかり方によって多種多様な種類が存在します。

  • コイルばね: 線状の材料をらせん状に巻いて作られたばねで、最も一般的で広く使われています。荷重の種類に応じて以下のタイプがあります。
    • 圧縮コイルばね:軸方向に圧縮する力に抵抗します。コイル間に隙間があるのが普通です。自動車のサスペンション、ボールペンのノック機構、機械部品の押さえつけなど、用途は極めて広範囲です。
    • 引張コイルばね:軸方向に引っ張る力に抵抗します。コイル同士が密着して巻かれ、初期張力を持つことが多いです。両端には取り付け用のフックやループが設けられます。ばね秤、ドアクローザー、トランポリンなどに使われます。
    • ねじりコイルばね:コイルの中心軸周りのねじりモーメントに抵抗します。洗濯ばさみ、自動車のトランクやボンネットのヒンジ部、マウストラップなどに利用されます。
  • 板ばね: 長方形断面の板状の材料、またはそれを複数枚重ね合わせた構造のばねです。主に曲げ荷重に対して弾性変形を利用します。トラックや貨物車、一部の乗用車のサスペンションとして古くから用いられてきました。一枚の板で作られた片持ち式の板ばねは、電気スイッチの接点や簡単なクリック機構などにも使われます。

  • トーションバー: まっすぐな棒状またはパイプ状の材料を用い、そのねじれ弾性を利用するばねです。一端を固定し、他端にねじりモーメントを加えて使用します。自動車のサスペンション(特に独立懸架)や、車体の傾きを抑えるアンチロールバー、スタビライザーなどに用いられます。

  • ぜんまいばね: 薄い帯状の材料を渦巻き状平面内に巻いたばねです。巻き込むことでエネルギーを蓄積し、それがほどける力で回転力を発生させます。時計、オルゴール、巻尺の自動巻き取り機構、コードリールなどに使われます。

  • 皿ばね: 円錐形をした皿状のばねです。軸方向に圧縮して使用します。非常に小さなスペースで大きな荷重を支えることができ、衝撃吸収性にも優れます。複数枚を直列や並列に組み合わせることで、様々な荷重とたわみの関係を作り出すことができます。金型内の押さえつけ、大型ボルトの緩み止め、クラッチやブレーキの圧着、軸受の予圧などに用いられます。

  • その他のばね: 上記以外にも、ゴムやエラストマーの弾性を利用したゴムばねや防振ゴム、圧縮された気体の圧力を利用するガススプリング、一定の荷重を発生させる定荷重ばね、円環状のガータースプリングなど、特定の機能に特化した様々な種類のばねが存在します。

ばねの材料

ばねとして機能するためには、材料は繰り返し変形しても元に戻る高い弾性限度、繰り返し荷重に対する高い疲労強度、そしてある程度の靭性すなわち粘り強さを持つ必要があります。

  • ばね鋼: ばね用に特性を調整された鋼材で、最も広く用いられています。炭素鋼系のものと、シリコン、マンガン、クロム、バナジウムなどを添加した合金鋼系のものがあります。熱処理によって高い強度と弾性が得られます。

  • ステンレス鋼: 耐食性が求められる環境、例えば食品機械、化学プラント、医療機器、屋外で使用されるばねに用いられます。耐熱性や耐寒性に優れる種類もあります。

  • 銅合金: りん青銅やベリリウム銅などが代表的です。導電性や非磁性、耐食性に優れるため、電気機器の接点ばね、コネクタ、計測器の部品などに使用されます。ベリリウム銅は銅合金の中でも特に高い強度とばね特性を持ちます。

  • ニッケル合金: インコネルやモネルなどが知られます。高温環境や、特殊な腐食環境下で使用される高性能ばねに用いられます。

  • チタン合金: 軽量でありながら高強度、優れた耐食性を持ち、非磁性でもあるため、航空宇宙分野、医療用、高性能なスポーツ用品などに使用されますが、高価です。

  • その他、軽量性や絶縁性、耐薬品性が求められる特定の用途では、エンジニアリングプラスチックや繊維強化複合材料などもばね材料として使われます。

ばねの特性と設計

ばねの性能を示す主要な指標には、ばね定数またはばねレートと呼ばれる変形量あたりの荷重の変化率、安全に使用できる最大の荷重やたわみ量、そして繰り返し荷重に対する耐久性を示す疲労寿命などがあります。

ばねを設計する際には、これらの要求性能を満たすことはもちろん、使用される環境、例えば温度や腐食性雰囲気、取り付けスペースの制約、荷重と変形の関係が直線的か非線形的か、そして経済性などを考慮する必要があります。特に圧縮コイルばねでは、ある程度以上細長くなると座屈と呼ばれる横方向に折れ曲がる現象が発生するため、安定性にも注意が必要です。疲労破壊は応力が集中する箇所から発生しやすいため、形状設計、特に端部の処理や表面状態が重要となります。

ばねの製造

ばねの製造方法は、その種類や材料によって様々です。コイルばねは、ばね用線材をコイリングマシンと呼ばれる専用の機械で心金に巻き付けて成形するのが一般的です。

板ばねや皿ばねは、板材をプレス加工や曲げ加工で成形します。成形されたばねは、多くの場合、所定の弾性特性と強度、耐久性を得るために、焼入れや焼戻しといった熱処理が施されます。これはばねの性能を決定づける極めて重要な工程です。さらに、疲労強度を向上させる目的でショットピーニングと呼ばれる表面加工処理や、錆を防ぐためのめっきや塗装などの表面処理、防錆処理が行われることもあります。

主な応用分野

ばねは、その機能の多様性と形状の自由度の高さから、私たちの身の回りや産業界のあらゆる場面で活躍しています。自動車、航空機、鉄道車両などの輸送機器、工作機械、建設機械、農業機械などの産業機械、コンピューター、スマートフォン、家電製品、通信機器などの電子機器、時計、カメラなどの精密機器、医療機器、建築物の免震装置やドアの蝶番、さらには文房具、家具、おもちゃに至るまで、ばねが使われていない機械製品を見つけることの方が難しいほどです。

まとめ

ばねは、弾性変形を利用してエネルギーの蓄積放出、衝撃吸収、力の発生といった多様な機能を提供する、機械工学における基本的ながら極めて重要な要素です。コイルばね、板ばね、ぜんまいばねなど多種多様な形状と、ばね鋼、ステンレス鋼、特殊合金といった様々な材料が存在し、それぞれの用途や要求性能に応じて最適なものが選定、設計、製造されています。目立たない部品であることも多いですが、無数の機械や装置の円滑な動作、安全性、そして利便性を支える、まさに縁の下の力持ちとして、現代社会に不可欠な役割を果たしています。

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