サブマージアーク溶接は、消耗電極式のアーク溶接法の一種であり、その名の通り、アークが完全に「サブマージ」した状態で溶接が進行することを最大の特徴とします。この「覆う」役割を担うのが、粒状のフラックスです。溶接部は、このフラックスの厚い層の下で、大気から完全に遮断されて形成されます。
この原理により、サブマージアーク溶接は、他の溶接法では困難な、極めて大電流での溶接が可能となり、その結果として得られる圧倒的な高能率と、フラックスによる精錬効果に裏打ちされた非常に高い接合品質を両立させています。
溶接の原理:フラックス下の不可視アーク
サブマージアーク溶接のプロセスは、連続的に供給される溶接ワイヤと、母材との間で発生するアーク熱を利用します。しかし、そのプロセスは他のアーク溶接とは大きく異なります。
- フラックスの散布: まず、溶接ヘッドの先端から、接合しようとする継手部分に、砂のような粒状のフラックスが先行して散布され、溶接線を厚く覆います。
- アークの発生: 次に、フラックスの層の中に溶接ワイヤが供給され、母材との間でアークが発生します。アークの強烈な熱は、フラックスとワイヤ、そして母材の一部を瞬時に溶融させます。
- 溶融池の形成: 溶けたワイヤと母材は一体となり、溶融池(溶融プール)を形成します。
- 溶融スラグの生成: 同時に、溶融したフラックスは、比重の軽い溶融スラグとなり、液状の金属である溶融池の表面を完全に覆います。
このプロセスにおいて、アークも溶融池も、全てがフラックスと溶融スラグの厚い層の下に隠れ、外部からは一切見えません。これが「サブマージ」状態です。この状態こそが、サブマージアーク溶接のあらゆる利点の源泉となります。
フラックスの多面的な工学的役割
サブマージアーク溶接において、フラックスは単なる「覆い」ではありません。それは、アークの安定、溶融金属の保護、そして品質の確保という、複数の極めて重要な工学的役割を同時に果たす、高度な化学材料です。
- 遮蔽作用: 溶融スラグが溶融池の表面を、未溶融のフラックスがアーク空間全体を覆うことで、高温の金属が、大気中の酸素や窒素と反応するのを完璧に防ぎます。これにより、酸化物や窒化物の混入による、溶接部の脆化やブローホールの発生を根本的に防止します。
- アーク安定作用: 溶融したスラグは、電気伝導性を持ちます。このスラグの層が、アークを安定させ、特に1000アンペアを超えるような大電流でも、アークが集中し、安定して持続することを可能にします。
- 冶金的作用: これがフラックスの最も高度な機能です。フラックスには、ケイ素やマンガンといった脱酸剤や、合金元素が含まれています。
- 脱酸精錬: 溶接プロセス中に不可避的に発生する酸化物を、フラックス中の脱酸剤が還元し、無害なスラグとして浮上・除去します。
- 合金添加: ワイヤだけでは不足する合金元素(マンガン、モリブデン、ニッケルなど)を、フラックス側から溶融池に添加し、溶接金属の強度や靭性を、母材と同等以上に制御することが可能です。
- ビード形成と熱的制御: 溶融スラグは、溶接金属の形状を整える「鋳型」として機能し、滑らかで均一な溶接ビードを形成します。さらに、凝固したスラグは、溶接部全体を覆う断熱ブランケットのように働き、溶接部が徐冷される効果を生み出します。このゆっくりとした冷却が、急冷による硬くてもろい組織の生成を抑制し、強靭な溶接金属組織を得る上で決定的な役割を果たします。
工学的な特徴:長所と短所
長所
- 圧倒的な高能率: アークが完全にシールドされているため、MAG溶接などではアークが不安定になる600アンペアを超えるような大電流、時には2000アンペア級の電流を使用できます。これにより、ワイヤの溶融速度(溶着速度)が極めて速く、厚い板でも、少ないパス回数で高速に溶接を完了できます。
- 深い溶け込み: 大電流による高いアークエネルギーが、母材の深くまで熱を届けるため、非常に深い溶け込みが得られます。これにより、開先加工を簡略化したり、厚板の完全溶け込み溶接を確実に行ったりすることができます。
- 極めて高い溶接品質: フラックスによる完璧なシールドと、スラグによる冶金的精錬、そして徐冷効果により、欠陥が少なく、機械的性質(特に靭性)に優れた、非常に信頼性の高い接合部が得られます。
- 優れた作業環境: アークがフラックスの下に隠れているため、TIG溶接やMAG溶接で発生するアーク光(有害な紫外線・可視光線)が一切発生しません。また、溶接ヒュームやスパッタの発生も最小限に抑えられ、作業環境が劇的に改善されます。
短所
- 溶接姿勢の制限: 粒状のフラックスを重力によって継手部分に保持する必要があるため、溶接姿勢は下向き、または水平すみ肉に限定されます。立向きや上向きの溶接は不可能です。
- 不可視のアーク: 溶接工は、アークや溶融池を直接見ることができません。そのため、溶接が狙い通りの位置で行われているかを視認できず、正確なセットアップと、ワイヤの狙いをガイドする装置が不可欠となります。
- フラックスの管理: フラックスの供給と、溶接後にスラグ化したフラックスの除去・回収という、付帯的な作業と設備が必要です。また、フラックスは吸湿しやすいため、その保管・乾燥管理が品質維持に重要です。
装置構成と自動化
サブマージアーク溶接は、その特性上、手作業で行われることは稀であり、その能力は自動化によって最大限に発揮されます。
- 電源: 大電流を安定して供給でき、高い使用率に耐える、堅牢な溶接電源が用いられます。
- 溶接ヘッド: ワイヤの送給、通電、そしてフラックスの散布を一体で行う、自動化の心臓部です。
- 走行台車: 溶接ヘッドを搭載し、レールやガイドに沿って、設定された一定の速度で溶接線を移動させます。
- フラックス供給・回収装置: ホッパーから新しいフラックスを供給し、溶接後に溶け残ったフラックスを、真空などで吸引・回収して再利用します。
主な応用分野
これらの特徴から、サブマージアーク溶接は、特に「厚板」の「長い直線」または「円周」の継手を、「高能率」かつ「高品質」に接合する分野で、その独占的な地位を築いています。
- 造船: 船の甲板や船底外板といった、広大な鋼板の接合。
- 圧力容器・ボイラー: 厚板を円筒状に曲げた「胴体」の、長手方向および円周方向の継手溶接。
- 大径鋼管: ラインパイプや水道管など、鋼板をU字・O字にプレスして製造する鋼管のシーム溶接。
- 橋梁・建築: H形鋼のフランジとウェブの組み立て溶接、橋桁のボックスセクションの製造。
まとめ
サブマージアーク溶接は、粒状のフラックスという媒体を巧みに利用し、アーク溶接のエネルギー効率と品質を、極限まで高めた接合技術です。その本質は、アークのエネルギーをフラックスの層で「封じ込める」ことで、熱効率を高め、同時に、そのフラックスに冶金的な「精錬」の役割を持たせるという、極めて合理的なエンジニアリングにあります。
溶接姿勢に制約があるという欠点はあるものの、それが許容される下向き溶接において、厚板を高速かつ高品質に接合する能力は、他のいかなる溶接法をも凌駕します。サブマージアーク溶接は、目に見えないアークの力で、現代の巨大なインフラストラクチャーと重工業の骨格を、静かに、そして力強く築き上げているのです。


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