機械制御の基礎:スイッチ

機械制御

電気回路において、スイッチは最も基本的でありながら、システム全体の信頼性と操作性を支配する極めて重要な構成要素です。

その機能は、回路の導通と遮断を切り替えるという単純なものですが、その内部では、機械的な運動エネルギーを電気的な接点状態の変化へと変換する過程において、トライボロジー、材料科学、電磁気学、そして人間工学といった多岐にわたる物理法則が複雑に絡み合っています。壁の照明スイッチから、スマートフォンの電源ボタン、産業機械のリミットスイッチ、そしてキーボードのキーに至るまで、スイッチは人間や機械の物理的な動作を、電気信号というデジタルの世界へ橋渡しする唯一のインターフェースです。


接触の物理学と接触抵抗

スイッチの心臓部は、二つの金属が触れ合う接点です。しかし、金属同士が接触すれば電気が流れるという現象は、ミクロな視点で見るとそれほど単純ではありません。

真実接触面積と集中抵抗

鏡面仕上げされた金属であっても、顕微鏡レベルで見れば表面には無数の微細な凹凸が存在します。したがって、二つの接点が接触したとしても、実際に電気が流れることができるのは、凸部同士が突き当たった極めて微小な点、すなわち真実接触点のみです。 見かけの接触面積に対して、真実接触面積は数千分の一から数万分の一に過ぎません。電流はこの狭い点に集中して流れなければならないため、ここで電気抵抗が発生します。これを集中抵抗と呼びます。 スイッチの設計においては、接点圧力を高く設定することで凸部を塑性変形させ、真実接触面積を増やすことで、この集中抵抗を低減させる工夫がなされています。

境界抵抗と皮膜

さらに、金属表面は大気中の酸素や硫黄と反応して、薄い酸化皮膜や硫化皮膜を形成しています。これらの皮膜は絶縁体あるいは半導体としての性質を持つため、電気の流れを妨げます。この皮膜による抵抗を境界抵抗と呼びます。 スイッチの接触抵抗は、これら集中抵抗と境界抵抗の総和となります。微小な信号を扱うスイッチでは、この皮膜が導通不良の主原因となるため、後述する接点材料の選定やワイピング構造が重要となります。


アーク放電と接点消耗

スイッチが回路を遮断する瞬間、接点間には過酷なエネルギー放出現象が発生します。これがアーク放電です。

プラズマの発生メカニズム

閉じていた接点が開くとき、接触面積は急激に減少し、最終的に一点に電流が集中します。その際のジュール熱によって金属が局所的に溶融、蒸発します。同時に、接点間の距離がまだ極めて近い状態では、強力な電界が発生しているため、金属から電子が放出され、気体分子と衝突して電離し、導電性のプラズマ、すなわちアークが発生します。 アークが発生している間は、接点が物理的に離れていても電流は流れ続けます。アークの温度は数千度にも達するため、接点表面を激しく損傷させ、溶着や消耗を引き起こします。

転移現象とロック

直流回路においては、アークによって一方の接点の金属が蒸発し、他方の接点に堆積するという転移現象が起こります。これにより、片方の接点には突起ができ、もう片方には窪みができます。 これが進行すると、突起が窪みにはまり込んで抜けなくなり、スイッチが切れなくなるロック現象が発生します。これを防ぐために、接点材料の合金化や、アークを素早く消滅させるための開離速度の高速化が設計上の重要課題となります。


接点材料の科学

接点の信頼性は、使用する材料によって決定づけられます。電気伝導率だけでなく、耐腐食性、硬度、融点などのバランスが求められます。

銀および銀合金

銀はすべての金属の中で最も電気伝導率と熱伝導率が高いため、パワー用スイッチの接点材料として標準的に用いられます。 しかし、銀は大気中の硫黄と反応して硫化銀を生成しやすく、表面が黒変して接触抵抗が増大するという欠点があります。これを防ぐために、ニッケルや酸化カドミウム、酸化錫などを添加した銀合金が開発されており、耐溶着性や耐アーク性を向上させています。

金および金合金

金は化学的に極めて安定しており、酸化や硫化を起こしません。そのため、微小な電流や電圧を扱うシグナル用スイッチには必須の材料です。 ただし、金は柔らかく摩耗しやすいため、銀やニッケルのベースメタル表面に薄く金をコーティングした金メッキ接点や、金合金を貼り合わせた金クラッド接点が用いられます。これにより、安定した接触抵抗と機械的寿命を両立させています。


スナップアクション機構

スイッチの操作感を決定し、アーク放電を最小限に抑えるための機械的な工夫がスナップアクション機構です。

速断の原理

もし、人間がゆっくりとスイッチを押したとき、接点もゆっくりと離れていったとしたらどうなるでしょうか。アーク放電が長時間継続し、接点は瞬く間に溶けてしまいます。 これを防ぐために、多くのスイッチ内部には板バネやコイルバネを用いた反転機構が組み込まれています。操作ボタンを押し込んでいくと、バネにエネルギーが蓄えられ、ある死点を超えた瞬間にそのエネルギーが一気に解放されて、接点が猛スピードで切り替わります。 この機構により、操作者がどんなにゆっくりボタンを押しても、接点の切り替わり速度は一定かつ高速に保たれます。これが、マイクロスイッチなどで「カチッ」というクリック感触が生じる理由であり、電気的な寿命を延ばすための核心技術です。


チャタリング現象と対策

スイッチの接点が閉じる瞬間、それは金属同士の衝突現象でもあります。

振動による瞬断

硬い金属同士が勢いよくぶつかると、一度では静止せず、数回から数十回にわたってバウンドを繰り返します。これをチャタリングあるいはバウンスと呼びます。 この間、電気的にはオンとオフが高速で繰り返されることになります。照明のような単純な負荷であれば人間の目には感知できませんが、デジタル回路においては、一度の操作で複数回の信号が入力されたと誤認され、システム全体の誤動作を引き起こします。

デバウンス処理

この物理的な振動を完全になくすことは不可能です。そのため、電子回路側やソフトウェア側で対策を行うのが一般的です。 これをデバウンス処理と呼びます。CR積分回路を用いて信号の立ち上がりをなまらせたり、ソフトウェアで最初の信号検知から数ミリ秒間の変化を無視するマスク時間を設けたりすることで、安定した単一の信号として処理します。


回路構成と接点形態

スイッチには、その用途に応じて様々な接点構成が存在します。

a接点 常開接点

通常は開いており、操作したときだけ閉じる接点です。 メイク接点あるいはノーマリーオープンとも呼ばれます。最も一般的な形式ですが、操作をやめればオフになるため、安全回路などで断線を検知しにくいという特性があります。

b接点 常閉接点

通常は閉じており、操作したときだけ開く接点です。 ブレイク接点あるいはノーマリークローズとも呼ばれます。非常停止ボタンなど、安全に関わるスイッチで多用されます。なぜなら、もし配線が断線したりスイッチが破損したりした場合、回路が遮断されてシステムが停止する方向、すなわち安全側に機能するからです。

c接点 トランスファ接点

一つの共通端子コモンに対して、a接点とb接点の両方の機能を持つ端子が存在し、操作によって接続先が切り替わるタイプです。


環境耐性と故障モード

スイッチは、埃、湿気、腐食性ガスなど、過酷な環境に晒されることがあります。

シリコーンによる接触障害

現代のスイッチにおいて最も厄介な敵の一つが、シリコーンです。 接点の周囲にシリコーンゴムやシリコーンオイルが存在すると、そこから揮発した低分子シロキサンガスがスイッチ内部に侵入します。この状態でアーク放電が発生すると、シロキサンが化学分解され、絶縁体である二酸化ケイ素、つまりガラス質が接点表面に堆積します。 これにより接触抵抗が増大し、最終的には導通不良に至ります。対策としては、ガス密閉構造のシールスイッチを使用するか、シリコーンフリーの環境を構築する必要があります。

微少負荷領域での課題

大電流を流すスイッチでは、アークによって接点表面の皮膜が破壊されるため、ある程度の接触安定性が保たれます。これをクリーニング作用と呼びます。 しかし、微小電流しか流さない回路に大容量用のスイッチを使用すると、アークが発生しないため皮膜が破壊されず、接触不良を起こすことがあります。 スイッチには、確実に導通できる最小の電流値、最小適用負荷が規定されており、回路の電圧電流レベルに応じた適切なスイッチ選定が不可欠です。


ワイピング構造と信頼性設計

皮膜による接触不良を防ぐために、機械的な動作の中にワイピングという機能を持たせることがあります。

摺動による清浄化

ワイピングとは、接点が接触する瞬間に、互いの表面を擦り合わせる動作のことです。 この摩擦によって、表面の酸化皮膜や付着した汚れを物理的に削り落とし、常に新しい金属面同士を接触させることができます。ナイフスイッチやロータリースイッチなど、摺動接点を持つスイッチはこの効果が高く、高い信頼性を誇ります。


人間工学と操作感

スイッチは機械の一部であると同時に、人間が触れるインターフェースでもあります。その操作感、すなわちハプティクスは製品の品質を左右します。

力とストロークの関係

スイッチを押す際の力と、押し込み量の関係を表したものをF-S特性曲線と呼びます。 良好なクリック感とは、ある一定の力まで重くなり、スナップアクションが作動した瞬間に力がスッと抜ける、その落差によって生み出されます。この「山」の形状や高さ、そして戻るときの感触(ヒステリシス)をいかにチューニングするかが、スイッチメーカーのノウハウであり、高級なキーボードや自動車のスイッチにおける差別化要因となっています。

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