テルミット法は、金属酸化物と、それよりも酸素との親和性が強い金属粉末との混合物に点火し、その化学反応によって発生する強烈な還元熱を利用する技術の総称です。この反応は、開発者であるハンス・ゴールドシュミットの名を冠して、ゴールドシュミット反応とも呼ばれます。
この技術の工学的な本質は、アルミニウム粉末という、安価で強力な還元剤を用い、目的の金属酸化物を還元して、純粋な溶融金属と、溶融した酸化アルミニウムを生成させる点にあります。このプロセスは、電気やガスといった外部からのエネルギー供給を必要とせず、自己発熱的に進行し、摂氏2500度を超える超高温を瞬時にもたらします。
化学的原理:アルミニウム熱還元法
テルミット法の根幹をなすのは、アルミニウム熱還元法と呼ばれる、酸化還元反応です。
熱力学的な駆動原理
金属精錬の工学的な指針となるエリンガム図は、各種の酸化物が生成される際のギブズ自由エネルギー(安定度)を、温度に対して示したものです。この図において、より低い位置にある物質は、より高い位置にある物質の酸化物から、酸素を奪い取ることができます。
アルミニウムの酸化物(アルミナ Al₂O₃)の生成線は、鉄、クロム、マンガン、バナジウムといった、多くの実用金属の酸化物の線よりも、遥かに低い位置にあります。これは、アルミニウムが、これらの金属よりも、酸素と極めて強く結びつく性質を持つことを熱力学的に示しています。
テルミット法は、この圧倒的な酸素親和力の差を、工学的な駆動力として利用します。
代表的な反応
最も有名で、基本的な反応は、酸化鉄(III)とアルミニウム粉末を用いたものです。
- 化学式: Fe₂O₃ + 2Al → 2Fe + Al₂O₃ + ΔH
- 反応熱 (ΔH): 約 -852 kJ/mol
この反応は、一度開始されると、その膨大な反応熱によって、生成物である金属鉄と酸化アルミニウムの両方を、その融点(鉄: 1538度, アルミナ: 2072度)を遥かに超える、摂氏2500度以上の溶融状態にします。
生成物の分離
この反応のもう一つの工学的な鍵は、生成物の密度差にあります。
- 溶融鉄: 密度 約7.0 g/cm³
- 溶融アルミナ (スラグ): 密度 約3.0 g/cm³
溶融した酸化アルミニウムは、溶融鉄よりも遥かに軽いため、鉄の上に浮かび上がります。これにより、純粋な金属と、スラグと呼ばれる不純物層が、重力によって自動的に、かつ、きれいに二層分離します。
点火プロセス:高い活性化エネルギー
テルミット混合物は、常温では非常に安定しており、少々の衝撃や熱では反応しません。その反応を開始させるためには、極めて高い活性化エネルギーを与える必要があります。
一般的なマッチやバーナーの炎では、点火は不可能です。反応を開始させるためには、摂氏1200度を超えるような高温を、局所的に生み出す必要があります。
このため、実際の点火には、マグネシウムリボンや、過酸化バリウムとマグネシウム粉末を混合した点火剤が用いられます。この点火剤が燃焼する際の強烈な熱によって、初めて主反応であるテルミット反応が誘発されます。そして、一度反応が始まると、その自己発熱によって、混合物全体が瞬時に反応を終えるまで、連鎖的に進行します。
工学的応用:二つの主要分野
テルミット法は、その「超高温」と「高純度な溶融金属の生成」という二つの特性を活かし、主に「溶接」と「精錬」の二分野で活躍します。
1. テルミット溶接
テルミット反応によって得られる、高温の溶融金属(主に鉄)を、接合したい二つの部材の間に充填し、それらを溶融一体化させる鋳造溶接の一種です。特に、鉄道レールの接続において、その真価を発揮します。
工学的プロセス:
- 準備: 接合する二本のレールの端面を、20~30ミリメートル程度の隙間をあけて、正確に配置します。
- 鋳型の設置: レールの形状に合わせて精密に作られた、耐火性の砂型(鋳型)を、接合部の周囲に取り付けます。
- 予熱: テルミット反応の熱だけで、冷えた巨大なレールを完全に溶融させるのは困難です。そのため、接合部の品質を保証し、熱衝撃を防ぐ目的で、プロパン-酸素バーナーなどを用いて、レールの端面が赤熱する(約1000度)まで、入念に予熱します。これは、水分を完全に除去し、溶接欠陥を防ぐ上でも不可欠な工程です。
- 反応と充填: 鋳型の上部に設置された「るつぼ」の中で、テルミット剤(酸化鉄とアルミニウムの混合物)を点火させます。反応が数秒で完了すると、るつぼの底にある栓が抜かれます。
- 分離と保護: るつぼから流れ出た溶融物は、まず密度の高い溶融鉄が、鋳型の下部、すなわちレールの隙間へと流れ込みます。遅れて、密度の低い溶融スラグ(アルミナ)が流れ込み、鋳型の上部を満たします。
- 冷却と保護: この溶融スラグは、冷却していく溶接金属の表面を覆う「ブランケット」として機能し、大気中の酸素や窒素による汚染を防ぎ、急冷による組織の硬化を防ぐ保護層の役割を果たします。
- 仕上げ: 冷却・凝固後、鋳型を解体し、レール上部に盛り上がった余分な金属(湯上り)を、せん断機やグラインダーで除去し、軌道面を滑らかに仕上げて完了です。
利点:
- 電源や大型の溶接機が不要であり、現場での施工(フィールドワーク)に最適です。
- 極めて太い断面の部材(レールや大型クランクシャフトの補修など)を、一度のプロセスで強固に接合できます。
- 反応によって生成される鉄には、マンガンなどの合金元素をあらかじめ添加しておくことで、レールの母材と化学的・機械的性質を合わせた、高品質な溶接部が得られます。
2. 金属精錬(金属熱還元法)
テルミット法は、エリンガム図で示される通り、炭素(コークス)による還元が困難な、あるいは炭素と反応して脆い炭化物を形成してしまうような、高融点金属の精錬に用いられます。
- 対象金属: クロム (Cr), マンガン (Mn), バナジウム (V), チタン (Ti) など。
- プロセス: 例えば、酸化クロム(Cr₂O₃)とアルミニウム粉末を混合し、耐火容器内で反応させると、
Cr₂O₃ + 2Al → 2Cr + Al₂O₃の反応が起こり、高純度の溶融クロムが得られます。 - 意義: この方法は、製鋼プロセスで使用される、特殊鋼の強度や耐食性を向上させるためのフェロアロイ(フェロクロム、フェロバナジウムなど)の製造や、高純度金属の製造に不可欠な技術となっています。
まとめ
テルミット法は、アルミニウムが持つ、強力な酸素親和力を利用し、制御された化学反応によって、局所的に超高温と高純度な溶融金属を生み出す、巧妙な工学技術です。
そのプロセスは、一見すると荒々しい爆発的な反応に見えますが、実際には、熱力学的な原理に基づき、点火エネルギー、材料の配合比、そして生成物の密度差といった、多くの工学的パラメータが精密に計算された、洗練された化学プロセスです。
電気もガスも届かない鉄道の敷設現場から、特殊鋼を生み出す製鋼工場まで、テルミット法は、そのシンプルで強力なエネルギーによって、現代のインフラストラクチャーと材料科学の発展を、その根底から支え続けているのです。


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