超音波センサは、人間の可聴域を超える周波数の音波、すなわち超音波を媒体中に放射し、その反射や透過の挙動を解析することで、対象物の有無や距離、あるいは物性の変化を非接触で検出するデバイスです。
光や電磁波を利用するセンサと比較して、超音波センサは対象物の色や透明度、あるいは周囲の照明環境の影響を受けにくいという際立った特徴を持っています。そのため、透明なガラス瓶の検知、粉塵の舞う環境下でのレベル計測、自動車の駐車支援システム、さらには人体の内部構造を可視化する医療用エコーに至るまで、極めて広範な領域で基盤技術として定着しています。
音波の物理的性質と伝播
超音波センサを理解するためには、まず媒体中を伝わる縦波としての音の性質を把握する必要があります。
疎密波としての挙動
光が真空中を伝播する電磁波であるのに対し、音波は空気や水、金属といった弾性体を媒体として伝わる機械的な振動です。 媒体の分子が進行方向に対して平行に振動し、圧力の高い密な部分と、圧力の低い疎な部分が交互に伝わっていく疎密波です。したがって、媒体が存在しない真空中では超音波センサは機能しません。
音速と波長
センサの性能を決定づける基本パラメータは、音速と周波数、そして波長です。 空気中の音速は温度に強く依存し、摂氏0度で毎秒約331.5メートル、温度が1度上がるごとに毎秒0.6メートルずつ速くなります。 一般的に空中用超音波センサでは40キロヘルツ前後の周波数が用いられます。この場合、波長は約8.5ミリメートルとなります。この波長の長さが、検出可能な物体の最小サイズや、距離の分解能に物理的な限界を与えます。より微細な分解能を得るためには、周波数を高くして波長を短くする必要がありますが、後述する減衰の問題とのトレードオフが生じます。
圧電効果による電気音響変換
電気信号を超音波に変換し、また戻ってきた超音波を電気信号に戻すための核心部品がトランスデューサです。これには主に圧電セラミックスが用いられます。
圧電効果と逆圧電効果
チタン酸ジルコン酸鉛などの強誘電体セラミックスに機械的な圧力を加えると、結晶格子の変形に伴って表面に電荷が発生します。これを正圧電効果と呼び、受信素子として利用されます。 逆に、このセラミックスに電圧を印加すると、電気的な分極作用によって結晶が伸縮し、機械的な歪みが発生します。これを逆圧電効果と呼び、送信素子として利用されます。 多くの超音波センサは、一つの素子で送受信を兼ねる兼用型か、あるいは送信用と受信用を近接して配置した分離型構造をとります。
共振現象の利用
微弱な電気信号で大きな音圧を得るため、、また微弱な音波を大きな電圧に変換するために、トランスデューサは特定の周波数で機械的に共振するように設計されています。 圧電セラミックス単体、あるいはそれに金属板やホーンを接合した振動系が持つ固有振動数と、駆動する電気信号の周波数を一致させることで、インピーダンスが最小となり、エネルギー変換効率が最大化されます。これを共振点駆動と言います。
音響インピーダンス整合
圧電セラミックスで発生した振動を、効率よく空気中に放射するためには、深刻な物理的障壁を乗り越える必要があります。それが音響インピーダンスのミスマッチです。
固体から気体への壁
音響インピーダンスとは、音の伝わりやすさ、あるいは振動のしにくさを表す物性値であり、媒体の密度と音速の積で定義されます。 圧電セラミックスは硬くて重い固体であり、そのインピーダンスは極めて高い値を示します。一方、空気は軽くて柔らかい気体であり、インピーダンスは極めて低いです。 波動の法則により、インピーダンスが大きく異なる界面では、エネルギーのほとんどが反射されてしまい、透過しません。セラミックスをそのまま空気中で振動させても、空回りするだけで音波はほとんど出ていかないのです。
整合層の役割
この落差を埋めるために、トランスデューサの放射面には整合層と呼ばれる特殊な樹脂材料が貼り付けられています。 整合層の音響インピーダンスは、セラミックスと空気の中間的な値に設計されており、かつその厚さは波長の4分の1に調整されています。これにより、多重反射を利用して波の位相を揃え、反射を打ち消して透過効率を最大化する反射防止膜のような役割を果たします。この整合層の設計技術こそが、センサの感度を左右するノウハウの塊です。
タイム・オブ・フライト測定原理
最も一般的な距離測定方式は、パルス反射方式、別名タイム・オブ・フライト法です。
往復時間の計測
センサから超音波パルス(バースト波)を短時間発射します。この音波が対象物に当たり、反射して戻ってくるまでの時間(伝播時間)を計測します。 距離は、音速と時間の積の半分(往復のため)で求められます。 非常に単純な原理ですが、高精度化のためには、受信波形の立ち上がりを正確に捉える必要があります。しかし、受信波形はノイズを含み、また徐々に振幅が大きくなる形状をしているため、単純な閾値判定だけではジッタ(時間の揺らぎ)が生じます。 最新のセンサでは、受信波形のエンベロープ(包絡線)検波や、相関処理を用いることで、ノイズの中から真の反射波を抽出しています。
不感帯と残響
パルスを発射した直後、トランスデューサは電気的な駆動が止まっても、慣性によってしばらく振動を続けます。これをリンギングあるいは残響と呼びます。 残響が続いている間は、受信回路が飽和状態にあるか、あるいは自身の振動を反射波と誤認してしまうため、近距離からの反射波を検出できません。この検出不能な距離範囲を不感帯、あるいはデッドゾーンと呼びます。 不感帯を短くするためには、振動系に適度な制動(ダンピング)をかけて、パルスを素早く立ち上げ、素早く止める設計が必要です。
指向性とサイドローブ
超音波はレーザー光のように点として直進するわけではなく、ある程度の広がりを持って伝播します。この広がり特性を指向性と呼びます。
メインローブとサイドローブ
円形の開口面から放射される音波は、回折現象によって特定のパターンを形成します。 正面方向の最も強いビームをメインローブと呼び、その周囲に広がる副次的な弱いビームをサイドローブと呼びます。 指向性は、開口面の直径(振動子の大きさ)と波長の関係で決まります。振動子が波長に対して大きいほど、ビームは鋭く絞られ、遠くまで届くようになります。逆に振動子が小さいと、音波は広範囲に拡散し、近距離広角検知に適した特性となります。
誤検知の要因
サイドローブは厄介な存在です。意図しない周囲の物体(壁や床、障害物)からの反射を拾ってしまい、誤検知の原因となるからです。 これを防ぐために、ホーン形状を工夫してサイドローブを抑制したり、受信感度を時間的に変化させる(遠くの信号は増幅し、近くのサイドローブ反射は無視する)STC回路が組み込まれます。
反射特性と検知の限界
超音波センサが対象物を検出できるかどうかは、対象物の材質、形状、そして角度に依存します。
鏡面反射と拡散反射
表面が平滑で硬い物体(ガラスや金属板)に対し、超音波は光が鏡に反射するように正反射します。 センサに対して物体が垂直であれば、反射波は真っ直ぐ戻ってきます。しかし、角度がついていると、反射波は別の方向へ飛んでいってしまい、センサには戻りません。これが超音波センサの弱点であり、傾いた平面の検出は困難です。 一方、表面が粗い物体や複雑な形状の物体(衣服や人体、砂利)では、音波は散乱し、その一部が拡散反射成分としてセンサに戻ってきます。この場合は角度依存性が低くなり、安定して検出できる傾向があります。
吸音率の影響
スポンジや布、雪などの多孔質材料は、音波を吸収する性質があります。吸音率の高い物体では、反射波が極端に弱くなるため、検出距離が短くなったり、検出不能になったりすることがあります。 逆に、この性質を利用して、物体の材質判別(硬いか柔らかいか)に応用する研究も行われています。
温度補正と環境耐性
前述の通り、音速は温度によって変化します。気温が10度変われば、距離の測定値は約1.7パーセントずれます。1メートルの計測で1.7センチメートルの誤差は、産業用途では許容できない場合があります。
温度センサとの統合
高精度な超音波センサには、必ず温度センサが内蔵、あるいは外付けされています。 リアルタイムで周囲温度を計測し、マイクロコントローラ内で音速の計算式を修正することで、温度変化による誤差を自動的にキャンセルします。 ただし、センサ内部の温度と、音波が伝播する空間の温度に差がある場合(例えばセンサが直射日光で熱くなっているが、空気は冷たい場合など)は、補正しきれない残留誤差が生じます。
風とゆらぎ
強い風が吹いている環境では、音波が流されて到達位置がずれたり、音速ベクトルが変化したりします。 また、高温の物体の上など、空気の密度が不均一な場所では、陽炎のように音波が屈折し、測定値が暴れることがあります。これらは空気という媒体を使う以上避けられない物理現象であり、複数回の測定値を平均化するなどの信号処理で対応します。
高周波化と分解能の向上
従来の40キロヘルツ帯に加え、近年では数百キロヘルツからメガヘルツ帯の空中超音波センサが実用化されています。
波長の短縮
周波数を上げる最大のメリットは、波長が短くなることです。 波長が短くなれば、より小さな物体からの反射を得やすくなり、距離分解能も向上します。また、残響時間も短くなるため、不感帯を数センチメートル以下に縮小でき、至近距離の計測が可能になります。 一方で、高周波になるほど空気中での減衰(吸収)が激しくなります。空気中の減衰係数は周波数の二乗に比例して増大するため、メガヘルツ帯の超音波は空気中を数センチメートルから数十センチメートルしか進めません。 このため、高周波センサは、枚葉検知(紙が2枚重なっているかの判定)や、近接スイッチの代替など、近距離精密計測に特化して使用されます。
アレイセンサとビームフォーミング
単一の素子ではなく、複数の素子を配列したアレイセンサ技術が進化しています。
3次元空間認識
複数の素子から送信するタイミングを微妙にずらす(位相差を与える)ことで、波面を合成し、ビームの方向を電気的に走査することができます。これをビームフォーミングあるいはフェーズドアレイと呼びます。 メカニカルな首振り機構なしに、音波を任意の方向に飛ばしたり、焦点を合わせたりすることが可能です。 受信側でも同様に、各素子への到達時間差を解析することで、反射波がどの方向から来たかを推定できます。これにより、距離だけでなく、対象物の方位や立体形状まで認識する3次元ソナーとしての機能が実現されています。自動運転車や自律移動ロボットの環境認識センサとして、カメラやLiDARの死角を補う重要な役割を担いつつあります。


コメント