エアモータは、コンプレッサによって生成された圧縮空気の持つ流体エネルギーを、回転運動エネルギーへと変換する駆動装置です。現代において、電動モータや油圧モータと並ぶ重要な動力源として位置づけられています。電気を使用しないという特徴から、過酷な環境や特殊な要求仕様において、他の駆動方式では代替不可能な優位性を持ちます。
エアモータの特徴
防爆性と環境耐性
エアモータの最も際立った長所は、電気を一切使用しないことによる防爆性です。火花が発生する要因が存在しないため、化学プラント、塗装ブース、火薬工場、あるいは可燃性ガスが充満する可能性のあるトンネル工事現場などにおいて、極めて安全な動力源となります。また、完全密閉構造にすることで水中での使用も可能であり、磁場の影響を受けないため強力な磁界環境下でも作動します。
過負荷に対する耐性
電動モータは過負荷によって回転が拘束される状態に陥ると、過大な電流が流れてコイルが焼損する危険があります。
しかし、エアモータが過負荷で停止した場合、単に内部の空気圧と外部の負荷が釣り合って空気の流動が止まるだけです。発熱も損傷も生じず、負荷が減少すれば直ちに回転を再開します。これにより、対象物に一定のトルクをかけ続けるテンション制御や、ねじ締め機などに最適です。
小型軽量と高い出力密度
銅線のコイルや重い永久磁石を必要としないため、同等の出力を発揮する電動モータと比較して、重量および体積を抑えることができます。この高い出力密度は、作業者が手で持って使用するエアツールにおいて疲労を軽減する要因となります。
エネルギー効率の低さ
一方で、最大の弱点はエネルギー効率の低さです。電気エネルギーをコンプレッサで圧縮空気に変換し、配管を通して供給し、再び回転エネルギーに戻すというプロセスを経るため、変換損失が大きく、電動モータを直接回す場合に比べて運用コストは割高になります。
また、空気は圧縮性を持つため、負荷が変動すると即座に回転数も変動してしまいます。サーボモータのような精密な位置決め制御や、一定速度での回転制御には不向きな動力源です。
主要な構造分類
エアモータは、圧縮空気のエネルギーを回転運動に変換する内部機構の違いにより、主に四つのタイプに分類されます。
ベーン型エアモータ
産業用として最も普及している形式です。円筒形のシリンダ内部に、中心をずらして偏心配置された円柱状のロータが組み込まれています。ロータには放射状に複数の溝が切られており、その溝の中にベーンと呼ばれる板状の羽根が挿入されています。
空気が供給されてロータが回転を始めると、遠心力によってベーンが溝から飛び出し、シリンダの内壁に強く押し付けられます。偏心構造のため、隣り合う二枚のベーンとシリンダ内壁、ロータ外壁に囲まれた空間の容積は、回転に伴って連続的に変化します。 吸気ポートから入った高圧空気は、容積の小さい空間に押し入り、ロータを回しながら空間の容積を広げる方向に膨張し、最大容積に達したところで排気ポートから大気中へ放出されます。構造が単純で部品点数が少なく、小型で高速回転が得られるのが特徴ですが、低速域ではベーンの遠心力が不足してシール性が低下するため、トルクが不安定になる傾向があります。
ピストン型エアモータ
自動車のエンジンのように、シリンダ内を往復運動するピストンの推力を、クランクシャフトやカム機構を介して回転運動に変換する形式です。ピストンが放射状に配置されたラジアルピストン型と、軸と平行に配置されたアキシャルピストン型があります。
圧縮空気がバルブ機構を介して各シリンダに順次送り込まれ、ピストンを強力に押し下げます。気体の膨張力を面積の大きなピストンで直接受け止めるため、ベーン型と比較して低速回転から極めて強大なトルクを発生させることができます。また、起動時のトルク応答性も高く、重量物を巻き上げるホイストや、大型のバルブを開閉するアクチュエータなど、低速・重荷重のアプリケーションで絶大な威力を発揮します。ただし、構造が複雑で重量が重く、高速回転には不向きです。
ギア型エアモータ
ケーシングの中で噛み合う一対の歯車の間に圧縮空気を送り込み、歯車の歯面を空気が押す力によって回転させる形式です。 構造が極めて堅牢であり、ゴミや水分などの異物の混入に対しても比較的強いという機械的なタフさを持っています。ピストン型と同等以上の高トルクを発生させることができますが、歯車同士の隙間から空気が漏れやすいため、空気の消費量が多くエネルギー効率は他の形式に劣ります。巨大な建設機械のエンジンスターターなどに用いられます。
タービン型エアモータ
ノズルから超高速で噴射される圧縮空気の運動エネルギーを、ロータの周囲に配置されたタービン翼に衝突させて回転させる形式です。 他の三つの形式が空気の体積膨張を利用する容積型であるのに対し、タービン型は速度エネルギーを利用する速度型に分類されます。起動時のトルクは極めて小さいものの、毎分数十万回転という超高速回転を実現できます。歯科医が歯を削るエアタービンドリルや、超精密加工機のスピンドルなど、極限の回転速度が要求される微細加工の領域で独壇場となっています。
トルクと回転数
ストールトルクと無負荷回転数
エアモータの出力軸に一切の負荷をかけずに空気を供給したとき、モータは内部の摩擦抵抗と空気の流動抵抗が釣り合う限界の速度まで回転を上げます。これを無負荷回転数と呼びます。このとき、外部に取り出せるトルクはゼロです。
逆に、出力軸を完全に固定して回転させない状態すなわちストール状態で空気を供給したとき、モータが発揮する回転力がストールトルクです。エアモータは回転数がゼロの瞬間に、静的な空気圧と受圧面積の掛け合わせによる最大トルクを発生させます。
出力のピークと選定の最適解
モータが外部に行う仕事の大きさである出力は、回転数とトルクを掛け合わせた値となります。エアモータの出力曲線は放物線を描き、無負荷回転数のおよそ半分の回転数で動作しているときに、出力が最大となるという関係性があります。 したがって、機械システムを設計してエアモータを選定する際には、機械が必要とする常用トルクと常用回転数の交点が、このモータの最大出力ポイントの近傍に位置するように、モータのサイズや後段の減速機を最適化することが、効率的で安定した動作を引き出す鍵となります。
流体制御回路
エアモータを意図した通りに動作させるためには、圧縮空気の状態を調整する空気圧制御機器による適切な回路設計が必要です。
圧力とトルクの関係
エアモータの出力トルクは、供給される空気の圧力に正比例します。したがって、配管の途中にレギュレータと呼ばれる減圧弁を設置し、モータに供給する圧力を調整することで、ストールトルクを含めたモータのトルク特性全体を自在に上下させることができます。これにより力加減の制御が容易に行えます。
流量と回転数
エアモータの回転数は、供給される空気の流量すなわち単位時間あたりに流れ込む空気の体積によって決定されます。モータの手前または排気側にスピードコントローラと呼ばれる流量調整弁を設置することで、回転速度を無段階で制御できます。特に排気側の流路を絞って速度を調整するメータアウト制御を採用することで、空気の圧縮性による回転の息継ぎ現象を抑え、より安定した速度制御が可能になります。
回転方向の切り替え
電動モータのプラスとマイナスを反転させるように、エアモータの回転方向を正転から逆転へと切り替えるには、方向切換弁を使用します。正転用の吸気ポートと逆転用の吸気ポートへの空気の供給経路をバルブの切り替えによって入れ替えることで、回転方向を逆転させることができます。エアモータは慣性モーメントが小さいため、回転中であっても瞬時の逆転操作に対応できる優れた応答性を持っています。
メンテナンスと空気の管理
エアモータの性能を長期間にわたって維持し、トラブルを防ぐためには、動力源である圧縮空気の品質管理と適切な潤滑が必要です。
FRLユニット
コンプレッサで作られた圧縮空気には、大気中の水分が凝縮した水滴、コンプレッサの潤滑油のダスト、配管内の錆などの不純物が大量に含まれています。これらがそのままエアモータに侵入すると、内部の錆や異常摩耗、ベーンの固着など致命的な故障を引き起こします。
これを防ぐため、モータの直前には必ずフィルタ、レギュレータ、ルブリケータの三つの機器を組み合わせた装置を設置します。フィルタで水分と異物を遠心分離によって除去し、レギュレータで圧力を一定に保ち、ルブリケータで微量の潤滑油を霧状にして空気に混ぜ込み、モータ内部へと送り届けます。
潤滑と無給油モータ
ルブリケータによるオイルの供給は、ベーンとシリンダの摩擦を減らし、摩耗を防ぐと同時に、内部の微小な隙間を油膜で塞ぐことで空気の漏れを防ぎ、モータの効率を高く保つという重要な役割を担っています。
しかし、食品製造ラインや半導体工場、クリーンルームなど、排気に含まれるオイルミストによる環境汚染が厳しく制限される現場も多数存在します。このような環境に向けて、自己潤滑性を持つ特殊なフッ素樹脂やカーボングラファイトをベーンの素材として採用し、外部からの給油を一切必要としない無給油型エアモータの開発が進んでおり、幅広い産業での適用を可能にしています。
排気処理と消音技術
エアモータは高圧の空気が大気圧へと急激に解放されるため、排気ポートから非常に甲高い排気騒音が発生します。これを抑制するためには、排気口に多孔質の焼結金属や樹脂でできたサイレンサと呼ばれる消音器を装着することが必須です。サイレンサは空気の膨張エネルギーを微細な流路に通して分散させることで音のエネルギーを熱に変換し、騒音レベルを大幅に低下させます。
また、断熱膨張による排気温度の低下によって空気中の水分が凍結し、サイレンサが氷で塞がれるアイシング現象が発生することがあるため、乾燥した空気の供給や、凍結しにくい構造のサイレンサの選択などの配慮も求められます。

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