爆発成形は、火薬の爆発によって生じる莫大なエネルギーを動力源として、金属板などの素材を金型に押し付け塑性変形させる特殊な金属加工技術です。極めて短時間に巨大なエネルギーを材料に注入する加工手法です。
一般的な金属プレス加工では、巨大な油圧シリンダーや機械式クランクを用いて、時間をかけて金属をゆっくりと金型に押し込みます。これに対し爆発成形は火薬の爆轟によって発生する衝撃波を利用し、一瞬の間に変形を完了させます。
爆発成形は、宇宙ロケットの先端ドームや燃料タンクの隔壁など、通常のプレス機ではサイズが足りないような数メートルに及ぶ巨大な部品を、プレス機なしで成形できるという利点を持っています。巨大な水槽と金型、そして少量の爆薬さえあれば、建物の大きさほどもあるプレス機と同等以上の加工力を生み出すことができるのです。
衝撃波の発生とエネルギー伝達
爆発成形において爆薬は金属に直接触れさせるわけではありません。金属と爆薬の間には、エネルギーを伝えるための媒体が必要です。
爆轟と衝撃波の誕生
成形に用いられるのは、黒色火薬のような燃焼速度の遅い爆燃性のものではなく、TNTやRDX、あるいはコンポジション爆薬といった爆轟を起こす爆薬です。 起爆装置によって火薬に点火されると、化学反応の波である爆轟波が毎秒数千メートルという超音速で爆薬内部を駆け抜けます。この爆轟波が爆薬の表面に達した瞬間、周囲の媒体に向かって強烈衝撃波が放出されます。発生する圧力は数ギガパスカル、温度は数千度に達します。
水中伝播の物理的優位性
この衝撃波を加工対象へ伝える媒体として、大半の爆発成形では水が使用されます。 空気を媒体とした場合、空気は圧縮性流体であるため、爆発のエネルギーは空気自身の圧縮や加熱に激しく消費されてしまい、衝撃波の圧力は距離とともに急激に減衰してしまいます。
一方、水は非圧縮性流体に近い性質を持ちます。爆薬から放出された衝撃波のエネルギーをほとんど減衰させることなく、極めて高い圧力ピークを保ったまま金属板へとダイレクトに伝達することができます。水は爆発の破壊力圧力の壁へと変換し、金属板に叩きつけるための媒体として機能するのです。
金属の超高速変形とひずみ速度
爆発成形の特徴は金属が変形するスピードが非常に高いという点にあります。この超高速変形は金属の力学的性質を変化させます。
慣性力によるネッキングの遅延
金属をゆっくり引っ張ると、ある部分が局所的に細くなるくびれすなわちネッキングが発生し、そこから破断に至ります。しかし、爆発成形のような超高速変形下では、金属の質量が持つ慣性力が優位に働きます。
ある部分がくびれようとしても、周囲の金属原子がその動きに追従して移動するための時間が物理的に足りないため、くびれの成長が抑制されます。結果として静的なプレス加工では割れてしまうような深い形状や複雑な形状であっても、金属全体が一様に引き伸ばされ、破断することなく成形できる現象が起きます。
転位の増殖と双晶変形
結晶レベルでも変化が起きます。 通常の塑性変形は、結晶内部の線状欠陥である転位が滑り面を移動することで進行します。しかし衝撃波による一瞬の変形では、転位が移動する時間が不足するため、金属は滑り変形だけでなく、双晶変形というメカニズムによって衝撃エネルギーを吸収しようとします。
この結果、爆発成形された金属の内部には無数の微細な双晶と超高密度の転位が蓄積され、通常の冷間加工以上に激しく加工硬化を引き起こし成形後の部品強度が上昇します。
キャビテーションとバブルパルスの力学
水中で爆発を起こした際、金属板に作用する力は最初の衝撃波だけではありません。
ガス球の膨張と収縮
爆薬が反応を終えると、そこには超高温・超高圧のガス球が残ります。このガス球は周囲の水を押し除けながら急激に膨張します。 慣性の法則によりガス球は周囲の水圧と釣り合う体積を超えて過剰に膨張し、内部の圧力が水圧よりも低くなります。すると今度は周囲の水圧に押し潰されて猛烈な勢いで収縮に転じます。極限まで収縮して高圧になると、再び膨張します。 このガス球の膨張と収縮の繰り返しによって二次的、三次的な圧力波が発生します。これをバブルパルスと呼びます。
キャビテーション現象による引っ張り
最初の衝撃波が金属板に衝突して金属板が金型に向かって猛スピードで動き出すと、金属板の上の水は一瞬だけ金属板の動きに取り残され水と金属板の間に局所的な負圧の空間が発生します。水中に無数の真空の泡が発生するキャビテーションが発生します。
この直後、膨張してきたガス球からのバブルパルスや、キャビテーションの泡が崩壊する際のマイクロジェットが金属板に後追いで衝突し変形をさらに後押し、あるいは最終的な金型形状への押し付けに寄与するという、極めて複雑な流体プロセスが起こっています。
金型設計と絶対的な真空の必要性
爆発成形で用いられるダイスは、通常のプレス金型とは異なる設計思想で作られます。
多彩な金型材質
衝撃波による荷重は極めて巨大ですが、その作用時間はマイクロ秒単位と一瞬です。そのため金型全体にかかる静的な応力は意外に小さく、金属板が金型の壁面に激突する瞬間の局所的な衝撃にさえ耐えられれば成形は成立します。
したがって航空宇宙用のチタン合金を成形するような場合でも、金型の材質として高価な工具鋼を使う必要は必ずしもありません。ダクタイル鋳鉄や亜鉛合金、あるいはガラス繊維で補強したコンクリート、極端な場合には極低温で凍らせた氷の金型までもが実用化されています。これは金型費用の圧倒的なコストダウンに貢献します。
断熱圧縮を防ぐ方法
しかし金型設計において守らなければいけない重要な条件が一つあります。それは金属板と金型の凹部の間に閉じ込められた空気を、成形前に完全に抜き取り、真空状態にしておくことです。
もし空気が残っている状態で爆発させると、音速を超える速度で迫ってくる金属板によって、残された空気が逃げ場を失い、一瞬にして極限まで圧縮されます。 気体を急激に圧縮すると断熱圧縮により、閉じ込められた空気の温度は数千度という超高温に達します。これはディーゼルエンジンが燃料を発火させるのと同じ原理です。 この超高温の空気によって、金属板の表面はドロドロに溶けたり焦げたりする深刻な損傷を負います。
さらに圧縮された空気自体が物理的なクッションとして働き、金属板が金型の隅々まで到達することを阻害してしまいます。したがって、金型の底には強力な真空ポンプに繋がる排気孔が複数設けられ、成形直前には内部を真空状態に維持しなければなりません。
スプリングバックの消滅と極限の寸法精度
一般的なプレス加工において設計者を最も悩ませるのが、金型から外した後に金属が弾性によって元の形状に戻ろうとするスプリングバック現象です。爆発成形はこの特性をねじ伏せます。
衝突による応力波の伝播
通常のプレス加工では、パンチが金属をゆっくりと曲げるため、曲げの外側には引張応力が、内側には圧縮応力が残留しこれがスプリングバックの原動力となります。
爆発成形の場合、衝撃波によって加速された金属板は毎秒数十メートルから数百メートルという猛烈な速度で金型の壁面に激突します。 この激突の瞬間、金属板の内部には強烈な圧縮の応力波が発生し、板の厚み方向に向かって反響します。この激突による二次的な圧縮応力が、金属内部の曲げによる残留応力の分布を全体を均一な塑性状態へと変化させます。
コイニング効果
さらに金属板は激突の運動エネルギーによって、金型の微細な傷やツールマークに至るまで、表面の凹凸を完全に転写するほど強烈に金型に押し付けられます。硬貨の模様を打ち出すコイニング加工と同じ状態です。
これらの効果により、爆発成形された部品はスプリングバックを起こさず、数メートルの巨大な部品であっても、金型の寸法を忠実に再現するとい良好な寸法精度を実現します。
適用材料と爆発硬化処理
爆発成形は、一般的な軟鋼だけでなく、通常のプレス機では刃が立たないような難加工材に対しても適応できます。
難加工材への挑戦
宇宙開発で多用されるチタン合金や、耐熱合金であるインコネル、高張力ステンレス鋼などは、変形抵抗が極めて大きく、プレス加工では巨大な機械が必要となるうえにスプリングバックも過大です。
爆発成形であれば、爆薬の量を増やすだけで容易にエネルギーを増大させることができるため、厚さ数十ミリメートルのこれらの難加工材の板であっても、正確なドーム状に成形することが可能です。
爆発硬化法による組織強化
また成形ではなく、金属の表面硬度を上げるためだけに爆薬を使う技術もあります。ハドフィールド鋼と呼ばれる高マンガン鋼は、強い衝撃を受けると表面だけが極度に硬化するという特殊な性質を持っています。 鉄道のレールが交差するポイント部分や、砕石機のジョーなど、激しい摩耗にさらされる部品の表面にシート状の爆薬を直接貼り付け、爆発の衝撃波だけを金属に打ち込みます。
これにより形状を変えることなく表面から数センチメートルの深さまでを超高硬度化させ、部品の寿命を飛躍的に延ばす爆発硬化法として広く実用化されています。
応用:爆発圧接
爆発圧接
特に知られている応用加工法が、爆発圧接です。 鋼鉄の厚板の上に、耐食性に優れたチタンやステンレスの薄板をわずかな隙間を空けて配置し、その上に爆薬を敷き詰めます。端から爆発を進行させると、上の板が爆発の圧力によって下の板に向かって猛烈な速度で叩きつけられます。 衝突点において、金属の表面を覆っていた酸化膜や汚れが、超高圧によって金属のジェットとして前方に噴き出され、常に純粋な新しい金属表面同士が激突することになります。
この結果、熱を加えて溶かすことなく原子レベルの距離まで金属同士が接近して強力な金属結合を果たします。 溶接が不可能なチタンと鉄、アルミニウムと銅といった異種金属の巨大なクラッド鋼板を製造する技術として、化学プラントの反応容器材料などの製造に不可欠な技術となっています。

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