ユニバーサルジョイントは、一直線上にない二つの回転軸を連結し、動力を伝達するための機械要素部品です。日本語では自在継手と呼ばれ、角度を持った状態で回転を伝えるその機能は、自動車のプロペラシャフトやドライブシャフト、産業機械の駆動部、さらにはステアリング機構に至るまで、現代の機械システムにおいて血管のように動力を分配する極めて重要な役割を担っています。
単純なカップリングが同軸上の軸同士しか連結できないのに対し、ユニバーサルジョイントは継手部分で屈曲することを許容します。さらに、運転中にその角度、すなわちジョイント角が変化しても動力伝達を継続できるという動的な自由度を持っています。この特性により、サスペンションの動きによってタイヤの位置が絶えず変化する自動車や、可動部を持つロボットアームなどの動力伝達が可能となります。
歴史的背景と基本構造
ユニバーサルジョイントの基本形は、十字形の部品を介して二つのY字型のヨークを連結した構造をしており、カルダンジョイントあるいはフックジョイントと呼ばれます。
この機構の歴史は古く、16世紀のイタリアの数学者ジェロラモ・カルダンがその原理を考案したとされ、後に17世紀のイギリスの物理学者ロバート・フックが実用的な装置として具現化しました。 カルダンジョイントの構造は極めてシンプルかつ堅牢です。入力軸と出力軸のそれぞれの端部にヨークと呼ばれる二股のフォーク状部品が取り付けられています。この二つのヨークを、クロススパイダーあるいは十字軸と呼ばれる十字型の部品で連結します。クロススパイダーの四つの軸端は、それぞれのヨークの穴に軸受を介して収められます。 この構造により、入力軸側のヨークはクロススパイダーの一方の軸まわりに回転でき、出力軸側のヨークはもう一方の軸まわりに回転できるため、二つの軸が互いに任意の方向に角度を持つことが可能となります。
運動学と不等速性の理論
カルダンジョイントは構造が単純で強度が高いという利点がありますが、運動学に致命的な特性を持っています。それは、ジョイントに角度がついている場合、入力軸が等速で回転していても、出力軸の回転速度は周期的に変動してしまうという現象です。これを不等速性と呼びます。
回転変動のメカニズム
ジョイント角、すなわち入力軸と出力軸のなす角度が存在する状態で回転させると、クロススパイダーの姿勢は回転に伴って複雑に変化します。 入力軸が90度回転するごとに、クロススパイダーの有効回転半径が変化するため、出力軸の角速度は入力軸の角速度に対して早くなったり遅くなったりを繰り返します。具体的には、入力軸が1回転する間に、出力軸は2回の増速と2回の減速を行います。 この速度変動の大きさはジョイント角に依存し、角度が大きくなるほど変動幅は指数関数的に増大します。この回転ムラは、ねじり振動やトルク変動の原因となり、機械システム全体に悪影響を及ぼします。
二次偶力と振動
速度変動に伴い、トルクの伝達においても二次偶力と呼ばれる変動トルクが発生します。これは軸を曲げようとする力として作用し、軸受への負荷増大や、不快な振動、騒音の発生源となります。自動車のプロペラシャフトなどで、特定の速度域で車体が震える現象の一因は、このユニバーサルジョイントの特性に起因する場合があります。
位相合わせと不等速性のキャンセル
カルダンジョイント単体では避けられない不等速性ですが、二つのジョイントを組み合わせて使用することで、この問題を解決することができます。これを位相合わせと呼びます。
キャンセルの条件
プロペラシャフトのように、中間軸の両端にユニバーサルジョイントを配置する場合、以下の三つの条件を満たすことで、入力軸の速度変動を中間軸で一度発生させ、出力軸側で逆位相の変動を与えて打ち消すことが可能です。
第一に、入力側のジョイント角と出力側のジョイント角を等しくすることです。 第二に、入力軸、中間軸、出力軸が同一平面上に存在することです。 第三に、中間軸の両端にあるヨークの向き、すなわち位相を一致させることです。
これらの条件が満たされたとき、中間軸は不等速回転を行いますが、最終的な出力軸は入力軸と同じ等速回転を取り戻します。FR車のプロペラシャフトや、産業機械の動力伝達軸では、この原理を利用して滑らかな回転伝達を実現しています。しかし、この方法は中間軸の不等速回転そのものを無くすわけではないため、中間軸の慣性モーメントによる振動励起は残ります。
等速ジョイント CVJ の技術
自動車のFF化、すなわち前輪駆動化が進むにつれ、カルダンジョイントの限界が露呈しました。前輪はサスペンションによる上下動だけでなく、ステアリングによる操舵のために大きな角度が必要となります。また、駆動輪であるため滑らかな回転が必須です。 大きなジョイント角で使用すると速度変動や振動が激しくなるカルダンジョイントに代わり、開発されたのが等速ジョイント、英語名コンスタント・ベロシティ・ジョイント、略称CVJです。
等速性の幾何学原理
等速ジョイントが角度に関係なく等速回転を実現できる理由は、動力を伝達する接点が、常に入力軸と出力軸のなす角の二等分面上に位置するように機構が設計されているからです。 二つの軸が折れ曲がったとき、その折れ角を常に二等分する面、これを等速面と呼びますが、この面上にボールなどの伝達要素が並ぶとき、幾何学的に入力と出力の回転速度は一致します。
バーフィールド型ジョイント BJ
アウターレースとインナーレースの間にボールを介在させ、ボールが転がる溝を曲線状に設計したものです。 この溝の形状により、ジョイントが曲がるとボールは強制的に二等分面上へ移動させられます。これにより完全な等速性が保証されます。構造がコンパクトでありながら大きな切れ角、45度以上を許容できるため、現在世界中のほとんどの乗用車のドライブシャフト、特にタイヤ側(アウトボード側)に採用されています。
トリポード型ジョイント TJ
主にドライブシャフトのエンジン側(インボード側)に使用されるタイプです。 三本の脚を持つトリポードと呼ばれる部品にローラーが取り付けられており、これらがハウジング内の直線溝を転がります。 このジョイントの特徴は、角度を取りながら軸方向にスライドできるプランジング機能を持っていることです。サスペンションが動くとドライブシャフトの全長は変化する必要がありますが、トリポード型はこの伸縮をスムーズに吸収しつつ、等速回転を伝達します。
構成部品と材料選定
ユニバーサルジョイントは、高トルクと複雑な応力、そして高速回転に耐える必要があるため、材料選定と熱処理には高度な技術が要求されます。
クロススパイダーと軸受
カルダンジョイントの核心部品であるクロススパイダーは、ニッケルクロムモリブデン鋼などの強靭な合金鋼で製造され、表面には浸炭焼き入れなどの硬化処理が施されます。 スパイダーの軸を受ける軸受カップ内には、多数の細いローラーを並べたニードルローラーベアリングが組み込まれています。これは、限られたスペースで大きなラジアル荷重を受けるためです。ジョイントが回転すると、ニードルローラーは微小な揺動運動を繰り返すため、フレッチング摩耗を起こしやすい環境にあります。そのため、耐摩耗性に優れた潤滑グリースの選定と、密封シールの性能が寿命を左右します。
ヨークとシャフト
ヨークやシャフトには、炭素鋼やボロン鋼が用いられます。これらは鍛造によって成形され、強度と粘り強さを確保します。特にドライブシャフトの中空パイプ部は、ねじり剛性と軽量化の両立が求められるため、薄肉かつ高強度の鋼管が使用され、接合には摩擦圧接などの高度な溶接技術が適用されます。
ブーツの重要性
等速ジョイントにおいて、内部機構を保護するゴム製のカバー、ブーツは極めて重要な部品です。 内部には極圧添加剤を含んだ特殊なグリースが充填されています。もしブーツが破損し、グリースが流出したり、水や泥が侵入したりすると、ジョイントは短期間で焼き付きや摩耗を起こし、機能不全に陥ります。そのため、ブーツ材料には耐油性、耐熱性、耐屈曲性に優れたクロロプレンゴムや熱可塑性エラストマーが使用され、形状も蛇腹状に設計して激しい動きに追従させています。
設計上の考慮事項と力学
ユニバーサルジョイントを含む伝動軸系を設計する際には、静的な強度だけでなく、動的な挙動を考慮する必要があります。
危険速度と振れ回り
長いプロペラシャフトなどが高速回転すると、軸の偏心や自重によるたわみが遠心力によって増幅され、ある回転数で激しい振動が発生します。この回転数を危険速度と呼びます。 設計時には、使用する最高回転数がこの危険速度よりも十分に低い領域にあることを確認しなければなりません。軸径を太くして剛性を上げる、あるいはパイプの肉厚を調整して固有振動数をずらすといった対策がとられます。また、製造時にはダイナミックバランス(動釣り合い)を精密に調整し、偏心を極限まで減らす工程が不可欠です。
許容トルクと寿命
ジョイントの寿命は、伝達トルク、回転数、そして使用角度の相互関係で決まります。 特に使用角度が大きくなると、軸受部にかかる荷重が増大し、発熱も大きくなるため、許容トルクあるいは寿命は低下します。カタログスペックだけでなく、実際の稼働状況における負荷頻度、ロードスペクトルを考慮した疲労寿命計算が必要です。
産業機械への応用と特殊ジョイント
自動車以外にも、ユニバーサルジョイントは製鉄所の圧延機、建設機械、農業機械、鉄道車両など多岐にわたる分野で使用されています。
圧延機用ジョイント
製鉄所の圧延ロールを駆動するスピンドルには、巨大なトルクを伝達するための超大型ユニバーサルジョイントが使用されます。ここでは、クロススパイダー式の他に、スリッパ式と呼ばれる滑り軸受を用いたタイプも採用されます。スリッパ式は、接触面積が広く衝撃に強いため、過酷な圧延負荷に耐えることができます。
精密機械用ジョイント
ロボットや工作機械などの精密位置決めが必要な用途では、回転ムラやバックラッシュ(ガタ)が許されません。 ここでは、金属の弾性変形を利用したフレキシブルカップリングや、ボールを用いたゼロバックラッシュの精密ユニバーサルジョイントが使用されます。これらは、角度許容値は小さいものの、極めて高い等速性と回転伝達精度を持っています。


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