機械材料の基礎:亜鉛メッキ鋼板

機械材料

亜鉛メッキ鋼板は鉄鋼材料の最大の弱点である腐食を防止するため、その表面を亜鉛の薄い層で被覆した複合材料です。

鉄鋼材料は優れた機械的強度と加工性、そして経済性を兼ね備えていますが大気中の酸素や水分と結びついて赤錆を生じ、やがて強度が失われる危険性があります。この劣化現象に対し塗装や油の塗布といった物理的な遮断手段ではなく、電気化学的な犠牲腐食のメカニズムを採用したのが亜鉛メッキ鋼板です。


犠牲防食の電気化学的仕組み

亜鉛メッキ鋼板が持つ防錆能力は標準電極電位の差を利用した電気化学的な保護作用により発揮されます。

イオン化傾向とガルバニック電池

あらゆる金属には電子を手放して陽イオンになろうとするイオン化傾向が存在します。これを定量的に表した標準電極電位を比較すると、亜鉛は鉄よりも電位が低くよりイオンになりやすいという特性を持っています。 亜鉛メッキ鋼板おいて表面に深い傷がつき、下地の鉄が露出して水滴が付着した場合、水滴を電解質として、亜鉛と鉄の間で微小な局部電池が形成されます。

亜鉛のアノード溶解と鉄の陰極化

電池回路においてイオンになりやすい亜鉛は陽極として振る舞い、自ら電子を手放して水中に溶け出します。放出された電子は母材である鉄を通って、露出した鉄の表面へと流れ込みます。 電子が過剰に供給された鉄の表面は陰極となり、鉄原子が自ら電子を放出して腐食することが電気的に阻止されます。

代わりに鉄の表面では水中の酸素が電子を受け取って水酸化物イオンを生成する還元反応が進行します。 結果として周囲の亜鉛が身を挺して溶け続ける限り、傷ついて露出した鉄の表面には赤錆が発生しません。


保護皮膜作用と腐食生成物の熱力学

犠牲防食作用は亜鉛が溶け続けることを前提としていますが、もし亜鉛が水に溶けるだけの金属であれば、メッキ層は瞬く間に消失してしまいます。亜鉛メッキ鋼板が長い寿命を持つのは、亜鉛自身の優れた耐食性があるためです。

塩基性炭酸亜鉛の緻密なバリア

大気中に暴露された新鮮な亜鉛表面は、まず空気中の酸素や水分と反応して水酸化亜鉛などを形成します。この初期の腐食生成物は比較的脆く、保護作用は高くありません。 しかし、時間が経過するにつれて、この水酸化亜鉛は大気中に含まれる二酸化炭素とゆっくり反応し、塩基性炭酸亜鉛と呼ばれる安定で緻密な化合物の層へと変化していきます。

自己修復的な不働態被膜

この塩基性炭酸亜鉛の層は、水に極めて溶けにくく、かつ金属亜鉛の表面に隙間なく強固に密着します。これが物理的なバリアとして働き、それ以上の水分や酸素が内部の新鮮な亜鉛に到達するのを遮断します。 大気中の亜鉛の腐食速度は、同じ環境下における鉄の腐食速度の数十分の一から数百分の一という遅いスピードに落ち着きます。さらに、この被膜が物理的に削り取られても、再び大気と反応して新たな塩基性炭酸亜鉛の層を再生するという、修復機能を持っています。


溶融亜鉛メッキの製造プロセス

亜鉛メッキ鋼板を製造する代表的な手法が、溶融亜鉛メッキ法です。一般にSGCCなどの規格で知られ、トタン板と呼ばれる建材もこの製法で作られます。

センジミア法による連続処理

現代の溶融亜鉛メッキラインは、巨大なロール状の鋼板であるコイルを連続的に処理するシステムです。

主流であるセンジミア法では、冷間圧延された鋼板をまず還元焼鈍炉へと導きます。 炉内は水素と窒素の混合ガスで満たされており、鋼板を摂氏700度から800度付近まで加熱します。これにより、冷間圧延で硬化した鋼の結晶組織を再結晶させて加工性を回復させると同時に、鋼板表面の酸化被膜を水素ガスによって還元し、メッキが密着しやすい清浄な鉄の表面を露出させます。

溶融亜鉛浴と膜厚制御

還元された鋼板は、空気に触れることなくそのまま摂氏450度から460度に保たれた溶融亜鉛の浴槽の中へと連続的に突入します。 浴槽の中で鋼板表面の鉄原子と溶融した亜鉛原子が反応し、強固な金属間化合物の合金層を形成しながら、その上に純亜鉛の層が付着します。 浴槽から引き上げられた鋼板には、大量の溶融亜鉛が付着しています。ここで、鋼板の表裏両面からスリット状のノズルを用いて高圧の空気または窒素ガスを吹き付けます。これをガスワイピングと呼びます。 ガスの圧力、吹き付ける角度、そして鋼板の引き上げ速度というパラメータを精密に制御することで、余分な溶融亜鉛を吹き飛ばし、目標とする数ミクロンから数十ミクロンの正確なメッキ付着量へと調整します。


電気亜鉛メッキと平滑性

熱エネルギーを利用して亜鉛を付着させる溶融メッキに対し、電気エネルギーを利用する常温プロセスが電気亜鉛メッキ法です。SECCなどの規格で知られます。

電気分解による電着

硫酸亜鉛などを溶解した水溶液の中に鋼板を浸漬し、鋼板を陰極として直流電流を流します。 電気分解により、水溶液中の亜鉛イオンが鋼板の表面で電子を受け取り、金属亜鉛として析出します。

高精度な膜厚制御と美麗な外観

電気メッキの最大の利点は、流れる電気の量に比例して亜鉛が析出するため、メッキの厚みを1ミクロン単位で極めて正確に制御できる点にあります。溶融メッキに比べて極薄のメッキ層を均一に形成することが可能です。 また、高温の熱影響を受けないため鋼板の機械的性質が変化せず、表面が平滑で美しく仕上がります。そのため、外装の美観が求められる高級家電製品の筐体や、精密なプレス加工が必要な事務機器の内部部品などに広く採用されています。ただし、メッキ層が薄いため防錆寿命の長さにおいては厚付けが容易な溶融メッキに一歩譲ります。


合金化溶融亜鉛メッキと固体内拡散

自動車の車体用に開発され、現在でも圧倒的なシェアを誇るのが、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板です。GA鋼板と呼ばれます。

加熱による鉄と亜鉛の相互拡散

溶融亜鉛浴から引き上げられ、ガスワイピングで膜厚を調整された直後の鋼板を、メッキ層がまだ熱いうちに直上の加熱炉へと導入し、摂氏500度付近まで再加熱します。 この加熱により下地の鉄原子が表面の亜鉛層へ向かって、逆に亜鉛原子が鉄の内部へ向かって移動を始めます。この固体状態での原子の移動現象である固体内拡散を強制的に進行させます。

スポット溶接性と塗装性の飛躍的向上

この拡散処理により、純粋な亜鉛の層は消失し、メッキ層全体が鉄を約10パーセント程度含む鉄と亜鉛の金属間化合物へと変化します。 この合金化によって二つの利点が生まれます。

第一に、メッキ層の融点が純亜鉛の約420度から大きく上昇し、さらに電気抵抗も増大します。自動車の組み立てに不可欠なスポット溶接を行う際、純亜鉛メッキでは電極の銅と亜鉛が反応して電極が著しく消耗してしまいますが、合金化メッキではこの電極寿命が大幅に改善されます。

第二に、合金化された表面は微視的に見ると無数の微細な凹凸を持つ構造になります。この微小な粗さがアンカー効果を生み出し、自動車塗装の塗料が極めて強固に密着するようになります。


プレス成形における摩擦と損傷

亜鉛メッキ鋼板を製品の形にプレス成形する際、金型との接触面では、単なる鋼板とは異なる複雑な現象が発生します。

フレーキングとパウダリング

合金化溶融亜鉛メッキ層は、鉄が含まれているため非常に硬く、そして脆いという性質を持っています。 深い絞り加工などで鋼板が激しく引き伸ばされ、同時に金型のエッジで強く曲げられると、硬い合金メッキ層は鋼板の伸びに追従しきれず、微細な亀裂が無数に発生します。そして、メッキ層が粉状に砕けて剥がれ落ちる現象が起きます。これをパウダリングと呼びます。 一方、純亜鉛メッキの場合は金属が柔らかいため、金型に強く押し付けられると亜鉛が金型表面に凝着し、鱗片状に大きく剥がれ落ちるフレーキングという現象が発生します。

摩擦制御と潤滑被膜

剥がれ落ちた亜鉛の粉末は金型の中に堆積し、鋼板に押し付けられて製品の表面に深刻な押し傷を発生させます。また、柔らかい純亜鉛が金型に張り付く凝着摩耗は、プレス時の摺動抵抗を高め、鋼板の破断を引き起こします。 これを防ぐために、あらかじめメッキ表面に極薄の特殊な潤滑被膜をコーティングしておいたり、高粘度のプレス油を使用したりして、金型と亜鉛が直接接触する境界潤滑状態を回避する対策が取られます。合金化メッキ鋼板の表面に、さらに鉄を主体とする極薄のメッキ層を上乗せして摩擦係数を下げる二層メッキ鋼板なども、このプレス成形性を改善するために開発された技術です。


化成処理と環境対応

亜鉛メッキ鋼板は、そのまま大気中に放置すると、保護皮膜が完成する前に結露などの水分によって白錆と呼ばれる酸化亜鉛が早期に発生してしまうことがあります。これを防ぐために化成処理が施されます。

クロメート処理のと六価クロム規制

かつては、クロム酸塩を含む溶液で処理を行うクロメート処理が標準でした。亜鉛表面を微小に溶解させながら、クロム酸化物からなる皮膜を形成するこの処理は、自己修復性を持ち、極めて安価で絶大な耐白錆性を誇りました。 しかし、この皮膜に含まれる六価クロムの強い毒性と環境負荷が問題視され、欧州のRoHS指令をはじめとする環境規制により、使用が事実上禁止されました。

三価クロムとクロメートフリー技術の台頭

これに代わる技術として、毒性のない三価クロムを用いた化成処理や、クロムを一切含まないクロメートフリー処理の開発が急速に進みました。 クロメートフリー処理は、特殊な有機樹脂、シランカップリング剤、そしてチタンやジルコニウムなどの無機ナノ粒子を複雑に組み合わせた複合被膜を形成します。この皮膜は、亜鉛表面を強固にシールすると同時に、腐食因子が侵入してきた際にインヒビターと呼ばれる腐食抑制成分を放出する機能を持たせることで、かつての六価クロムに匹敵する自己修復的な防食性能を実現しています。加えて、電子機器向けに指紋が付着しにくい耐指紋性を持たせるなど、新たな付加価値も創造されています。


コメント