圧縮空気や油圧などの流体動力システムにおいて、コンプレッサや圧力ボンベから供給される一次側の圧力は、末端の機器が要求する圧力よりも遥かに高く、かつ消費状況によって常に激しく変動しています。この流体エネルギーを、システムが要求する安定した低圧状態へと降下させ、その状態を自律的に維持し続ける流体制御機器がレギュレーターです。
電気的なセンサーやコンピュータなどの外部回路を必要とせず、流体そのものが持つ圧力エネルギーと機械的なスプリングの反発力とをバランスさせることで、閉ループのフィードバック制御を機械要素のみで実現しています。
自律的フィードバック
レギュレーターの作動原理は、力の釣り合いという単純な物理法則の上で成り立っています。内部構造は主に、高圧の流体が流れ込む一次側流路、減圧された流体を送り出す二次側流路、流体の通過を制限するバルブ、圧力を感知する膜であるダイヤフラムあるいはピストン、そして目標とする圧力を機械的に設定する調圧スプリングによって構成されています。
二次側の配管に充満した流体の圧力は、レギュレーター内部のダイヤフラムの下面に直接作用し、ダイヤフラム全体を上方向へ押し上げようとする力を発生させます。一方で、ダイヤフラムの上面からは、調圧スプリングが下向きに押し下げています。このスプリングの反発力は、外部に設けられた調整ハンドルを回転させてばねの圧縮量を変化させることで、任意の強さに設定することができます。
二次側の流体圧力が目標の設定値よりも低い場合、上からのスプリングの押し下げる力が勝り、ダイヤフラムは下へと押し込まれます。ダイヤフラムの動きはステムという棒を介してバルブと連動しているため、バルブが押し開かれ、一次側の高圧流体が勢いよく二次側へと流れ込みます。 流体が流入することで二次側の圧力は次第に上昇していきます。そして、ダイヤフラムを押し上げる流体の力が、上からのスプリングの力と完全に釣り合った瞬間、バルブは流路を塞ぐ位置まで引き戻され、それ以上の圧力上昇を阻止します。
逆に、二次側の配管でエアシリンダなどが作動して流体が消費され、圧力が低下すると、再びスプリングの力が勝ってバルブが開き、減少した分の流体を即座に補充します。このように、二次側の圧力変動をダイヤフラムの変位として捉え、それを瞬時にバルブの開度という原因側へフィードバックする、応答性の高い機械的な自律制御になっています。
直動式とパイロット式の違い
システムが要求する流体の流量と圧力の規模に応じて、レギュレーターはその内部に構造で大きく二つの方式に分類されます。
第一の方式が直動式です。前章で解説した通り、ダイヤフラムの動きがそのまま直接バルブを開閉する最も基本的な構造です。部品点数が少なく構造がシンプルであるため、故障リスクが低く、応答性が非常に高いという長所を持ちます。 しかし、大量の流体を流そうとしてバルブの口径を大きく設計すると、大口径のバルブには一次側の高い圧力が広い面積にわたって作用するため、バルブ自体を押し開こう、あるいは閉じようとする不均衡が生じます。この不均衡な力に打ち勝ってバルブを精密に制御するためには、ダイヤフラムを大きくし、調圧スプリングも巨大化させなければならず、機器のサイズが大型化していきます。
この物理的な限界を突破するのが第二の方式であるパイロット式です。これは二階建ての構造をしており、上部に設置された小型の直動式レギュレーターすなわちパイロット弁と、下部の大流量を制御するメイン弁から構成されています。 パイロット弁は、一次側の高圧流体の一部を分岐させて制御信号として利用し、微小な流量で高精度なパイロット圧力を生成します。この安定したパイロット圧力が、メイン弁に組み込まれた巨大なダイヤフラムやピストンの背面に作用し、強大な推力となってメインの大型バルブを駆動します。
微弱なバネの力で高圧の流体信号を作り出し、その流体の力を利用して巨大なバルブを操作するという、増幅機構が組み込まれているのです。この増幅作用により、パイロット式レギュレーターは数百リットルから数万リットル毎分という凄まじい大流量を流しても、二次側の圧力を正確に一定に保つことができます。工場全体の圧縮空気を供給するメイン配管など、流量変動が極めて激しく、かつ大容量の精密な制御が求められる環境において威力を発揮します。
流量特性と圧力特性
レギュレーターの性能は、理想的な一定圧力をいかに維持できるかという点から、二つの重要な特性曲線によって表されます。
一つ目は流量特性です。二次側の流体が全く消費されていない状態から、下流のバルブを開いて徐々に流量を増やしていくと、二次側の圧力は設定した目標値から少しずつ低下していくという現象が発生します。この圧力の落ち込みをオフセットあるいはドループと呼びます。
これは流体がバルブの狭い隙間を高速で通過する際に生じる摩擦と乱流による圧力損失、流量を増やすためにバルブが大きく開く過程で、連動するダイヤフラムが下がり、調圧スプリングが伸びることで発生します。フックの法則に従い、スプリングが伸びれば反発力は低下し、結果としてダイヤフラムを押し下げる設定圧力が弱まってしまうのです。
設計者は、システムが必要とする最大流量時において、このオフセットによる圧力降下が許容範囲内に収まるように、レギュレーターの口径や流量係に余裕を持って選定しなければなりません。
二つ目は圧力特性です。これは一次側の供給圧力が変動した際に、二次側の圧力がどれだけ影響を受けて変動するかを示す指標です。源流となるコンプレッサの作動状況や、高圧ガスボンベの残量減少によって、一次側の圧力は常に変動しています。一次側の圧力がバルブ本体に作用する力は、スプリングとダイヤフラムのバランスを乱す外乱として働きます。 この外乱を抑え込むため、精密なレギュレーターにはバランスバルブ構造という内部設計が施されています。これはバルブの一次側と二次側の圧力を受ける受圧面積を等しく設計し、流体の圧力がバルブを動かそうとする力を自己相殺させる仕組みです。これにより一次側の圧力が大きく変動しても、その力がダイヤフラムの釣り合いに干渉せず、二次側の圧力を安定させることができます。
ダイヤフラムとシールの選択
レギュレーターが制御しなければならない流体は、単なる圧縮空気から、超高圧の水素ガス、極低温の液体窒素、さらには強酸性で腐食性の強い半導体プロセスガスに至るまで多岐にわたります。そのため圧力を感知するダイヤフラムと、流路を遮断するシート部の材料選択には配慮画が必要です。
一般的な空気圧システムであれば、ニトリルゴムやフッ素ゴムといったエラストマーの内部に合成繊維の基布を挟み込んで補強したゴム製のダイヤフラムが用いられます。ゴムは非常に柔軟であるため、微小な圧力変化にも極めて敏感に反応し、高い調圧精度と優れた応答性を実現します。
しかし、水素ガスやヘリウムガスのように分子サイズが極めて小さくゴムの分子間を透過してしまう気体や、ゴムを硬化させ脆化させる低温環境下、あるいは有機物を侵す腐食性ガスを扱う場合、ゴムダイヤフラムは使用に耐えません。このような過酷な環境では、ステンレス鋼、ハステロイ、あるいはインコネルといった特殊合金から圧延された極薄の金属ダイヤフラムが採用されます。 金属ダイヤフラムはゴムに比べて弾性変形の範囲が狭いため、バルブを動かすストロークを大きく取ることができず設計が困難になりますが、高い気密性と耐食性、そして幅広い温度領域における安定した機械的強度を持っています。
流体を遮断するバルブシートに関しても、流体の特性に応じた使い分けが必要です。微少な異物が混入しても漏れをゼロに保つ必要がある場合は、フッ素樹脂やポリイミドなどの柔らかいソフトシートが用いられます。弾性体が異物を包み込んで密閉するためです。一方で、超高圧流体を制御する水素ステーション用などでは、樹脂が圧力によって変形し破壊されてしまうため、ラッピング研磨によって鏡面仕上げされた金属同士を強力な力で密着させるメタルシート構造が採用される場合があります。
ジュールトムソン効果
高圧のガスをレギュレーターで急激に低圧へと減圧する際、バルブの微小な隙間の周辺では、外部との熱のやり取りが間に合わない断熱膨張に近い状態となります。
ガスが高い圧力から低い圧力へと膨張するとき、分子同士を引き離すために気体自身の内部エネルギーが消費され、結果として気体の温度が急激に降下します。この現象をジュールトムソン効果と呼びます。
気体中にわずかでも水分が含まれている場合、この低温によって水分が凍結し、バルブの微細な隙間やパイロット流路を氷で塞いでしまうアイシング現象を引き起こします。氷がダイヤフラムやバルブの摺動部に固着すると、フィードバックメカニズムが制御不能に陥り、一次側の異常な高圧がそのまま二次側へと吹き抜けるという事故に直結します。 また、水分が含まれていなくても、極低温はゴム部品のガラス転移を引き起こしてシール性を喪失させ、金属部品に熱収縮による歪みをもたらします。
この凍結を防ぐため、高圧ガス専用のレギュレーターには熱制御システムが組み込まれています。ボディの周囲に大気中の熱を効率よく吸収するための巨大なアルミ製の放熱フィンが設けられたり、内部のガス流路の周囲に電気ヒーターや温水を循環させるウォータージャケットを配置したりすることで、ジュールトムソン効果による温度降下を熱伝達によって相殺し、安全な作動温度を確保しています。
リリーフ機構による過圧保護
レギュレーターは本来、一次側の高圧を下げて二次側へ供給するための機器ですが、実際の機械システムにおいては、二次側の圧力が意図せず設定値を超えて異常上昇する逆流現象が発生する場合があります。 例えば二次側の閉ざされた配管が直射日光やヒーターで熱せられて内部の流体が熱膨張を起こした場合や、エアシリンダが外部からの強い機械的な力で強制的に押し戻され、内部の流体が圧縮された場合などです。
このような二次側の過圧状態から配管や機器を保護し、破裂を防ぐために組み込まれているのがセルフリリーフ機構です。 二次側の圧力が目標の設定値よりも高くなりすぎると、ダイヤフラムは下へ押し下げるスプリングの力に打ち勝ち、通常よりもさらに上へと押し上げられます。この異常な変位に達したとき、ダイヤフラムの中央部分に設けられた微小なリリーフバルブのシートが開き、ダイヤフラムと調圧スプリングを隔てている上部の空間を通じて、異常な圧力をもった流体を大気中へ放出します。
流体が放出されて二次側の圧力が安全な設定値まで下がると、ダイヤフラムが通常位置に戻り、リリーフバルブは自動的に閉じます。この圧力解放機能は、バルブ制御システムにおいてフェイルセーフとして働きます。 ただし、半導体製造用の毒性ガスや可燃性の水素ガスなどを制御するレギュレーターにおいては、微量であってもガスを大気中へ直接放出することは危険です。そのため、これらの用途にはダイヤフラムに穴を持たないノンリリーフ型が選定され、配管システムの別の場所に排気専用の配管ラインへ繋がる安全弁を設置するクローズドな設計が行われます。
流体システムにおける配置
レギュレーターは単体で機能するだけでなく、配管ネットワークの効率と安全性を決定づけます。
工場の空気圧システムにおいては、巨大なコンプレッサから送られてくる高圧のメイン配管から、各機械へと分岐するした後に、フィルタやルブリケータと共にFRLユニットとして設置る場合が多いです。これにより、機械ごとに必要な圧力に落として空気を供給し、無駄な空気の消費を抑えてエネルギー効率を向上させます。
油圧システムにおけるリリーフ付き減圧弁は、複数の油圧シリンダを異なる推力で同時に動かすような複雑な回路において活躍します。メインポンプの圧力は高推力を要するプレスシリンダへそのまま供給しつつ、クランプ用のシリンダへ向かう回路だけにレギュレーターを配置して圧力を下げ、ワークを押しつぶさない程度の適切な保持力を生み出します。
燃料電池車においては、強大な圧力でタンクに貯蔵された水素ガスを、燃料電池スタックが要求する一メガパスカル付近の圧力まで、流量の激しい増減に追従しながら正確に降圧させなければなりません。この要求に対し、多段式のパイロットレギュレーターや、高精度な金属ダイヤフラム技術を用いることで要求に応えています。

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