機械要素の基礎:NW(KF)配管

機械要素流体制御配管

NW配管は、半導体製造装置、電子顕微鏡、粒子加速器、真空乾燥機など、真空状態を必要とするあらゆる産業・研究システムにおいて、流体ラインをを構築するために広く用いられている配管規格です。正式にはISO 2861で規定された「ISO-KF規格」ですが、日本では歴史的な呼称である「NWフランジ」や「KFフランジ」という名称が一般的に使用されています。

配管同士を接続する継手(フランジ)において、ボルトとナットによる強固な締結を必要とするJIS規格やICF規格とは違い、NW配管は「平滑なフランジ」「Oリングを保持する金属環」「蝶ねじを備えた外部クランプ」という三つの要素で構成されます。工具を使用せずに素手で着脱が可能であるという作業性と、高真空領域まで対応できる信頼性の高い気密性を両立させている点が特徴です。

真空封止

大気圧環境下にある真空配管の内部と外部の間には巨大な圧力差が存在します。配管の継手部分には、大気が内部の真空空間へ侵入しようとする強大な力が常に作用し続けています。NW配管において、この大気の侵入を阻止するのが、エストラマーで作られたOリングです。

NW配管の接続は、向かい合う二つのフランジの平滑な金属面の間にOリングを挟み込み、外部からクランプで締め付けることによって行います。 クランプが締め付けられると、円形断面を持ったOリングは上下のフランジ面から圧縮応力を受け、断面が楕円形へと弾性的に変形します。このときエラストマーは自らの分子構造を元の円形に戻そうとする弾性回復力を発生させ、フランジの金属表面の微細な凹凸に密着します。

真空システムにおいて内部が真空であるというということは、シールの密着性からみると有利に働きます。内部の圧力が下がると、外部の大気圧がOリングを配管の内部方向へ向かって押し込みます。この大気圧による押し付け力が、クランプによる初期の圧縮力に加算される形でOリングをフランジ面にさらに密着させ、気体の漏洩経路を遮断します。

センターリング

Oリングを単独でフランジの間に挟み込んで締め付けるだけでは、NW配管の安定した真空シールは実現しません。大気圧によってOリングが配管内部へ吸い込まれてしまう、あるいは締め付けの偏りによってOリングが外側へとはみ出してしまうということが起こりえます。

この問題を解決し、Oリングを理想的な状態で保持させるための部品がセンターリングです。 センターリングは、金属製のインナーリングと、その外周に嵌め込まれたOリングによって構成されます。さらに多くの場合、Oリングの外側にアウターリングが追加された構造となっています。

位置決め

インナーリングは、NWフランジの端面に設けられた浅い段差の直径と一致するように加工されています。二つのフランジの間にセンターリングを配置すると、インナーリングが双方のフランジのザグリにぴったりと嵌まり込みます。これにより、二つの配管の軸線がズレることなく、同心円上に整列されるという位置決め機能を持っています。

圧縮量の制限

インナーリングの厚みはOリングの直径よりもわずかに薄く設計されています。クランプを強く締め付けていくと、Oリングが押し潰されて変形していきますが、やがてフランジの面が硬い金属であるインナーリングに直接接触します。 金属同士が接触した段階で、それ以上クランプを締め上げてもOリングは潰れなくなります。つまりインナーリングはOリングのつぶし代を最適な値に制限し、ゴムの過剰な変形による破壊や永久歪みを防ぐストッパーとして機能しているのです。

同時に内部が真空になって大気圧がOリングを内側へ押し込もうとしても、インナーリングが内側から突っ張ることで、Oリングが配管内部へ吸い込まれて脱落するのを阻止します。アウターリングが存在する場合は、配管内部が大気圧以上になった際に、Oリングが外側へ吹き飛ぶのを防ぐ役目を担います。

テーパーフランジとクランプ

NWフランジの背面は、外周に向かって斜めに削られたテーパー形状になっています。 一方でフランジ同士を固定するクランプは、複数に分割したリングをヒンジで繋いだ構造をしており、リングの内側にはフランジの背面テーパーと噛み合う逆テーパーの溝が彫られています。

作業者が二つのフランジとセンターリングを合わせ、その上からクランプを被せて蝶ねじを締め込んでいきます。蝶ねじを回すと、クランプの半円が互いに近づく方向へ引き寄せられます。 このとき、クランプ内側の斜面が、フランジ背面の斜面に強く押し付けられます。くさびの原理により、クランプを円周方向に引き寄せる力は、フランジを軸方向に引き寄せる力へと変換されます。

ねじの回転運動がてこの原理と斜面の原理を経由することで増幅され、人間の素手で回す程度のトルクが、Oリングを均一かつ強大に押し潰す数百キログラムの推力へと変換されます。この構造により、スパナなどの工具を使わずに、真空シールを完了させあるいは分解することが可能となっています。

規格の互換性

NW配管は、その内径サイズに応じて国際規格(ISO 2861)によって寸法が定められており、世界中のどのメーカーの部品であっても互換性を持っています。

配管のサイズは「NW10」「NW16」「NW25」「NW40」「NW50」といった呼び径で分類されます。この数字は概ね配管の呼び内径を表しています。 しかしフランジの外径は、必ずしもそれぞれの呼び径ごとに異なるわけではありません。製造の合理化とクランプの共通化のため、隣り合うサイズでフランジ外径が共通化されている場合があります。

具体的には、「NW10とNW16」は共にフランジ外径が30mmで共通です。同様に、「NW20とNW25(外径40mm)」、「NW32とNW40(外径55mm)」がそれぞれ共通のフランジ外径を持っています。 したがって、NW10とNW16の配管を接続する場合、フランジ外径が同じであるため、そのまま一つのクランプで締め付けることが可能です。ただし、センターリングがはまるザグリの直径が異なるため、この場合は「異径センターリング」と呼ばれる、片面がNW10、もう片面がNW16の段付き形状をした特殊なセンターリングを使用することで、段差を吸収してシールを成立させます。

NW50を超える大口径(NW63、NW80、NW100など)も存在しますが、これらは規格上はISO-KFではなく、ボルト留めとクロークランプを併用するISO-K(ISO-LF)やISO-F(ISO-BT)といった別接続規格を用いるのが一般的です。

材質の選択

真空配管において、配管の材料が「何を放出するか」は、システムが到達できる真空度を決定づける重要な要因となります。

ステンレス鋼の優位性

NWフランジや配管(ニップル、エルボなど)の本体には、主にSUS304やSUS316Lといったオーステナイト系ステンレス鋼が使用されます。ステンレス鋼は機械的強度が高く、錆びにくいだけでなく、真空中へ放出されるアウトガスの量が少ないためです。 しかしステンレスの表面には微小な凹凸があり、そこに水分子などの気体が吸着しています。これらが真空中で徐々に離脱してくるため、より高い真空度(高真空〜超高真空)を目指す場合は、配管の内面を電解研磨によって鏡面状態に仕上げ、表面積を減らして水分子の吸着を排除する処理が施されます。また軽量化を目的としてアルミニウム合金(A5052など)で作られたフランジも多用されます。

Oリングのガス透過

NW配管の最大の弱点は、シール材としてエラストマーを使用している点にあります。 ゴム材料は金属とは異なり、その高分子構造の隙間を通って、大気中のヘリウムや水分といった気体分子が極微量ながら真空側へと透過してしまいます。またゴム自体からも有機ガスが放出されます。 標準的なOリングにはフッ素ゴム(FKM、バイトンなど)が使用され、耐熱性(約200度)と低アウトガス性を両立させていますが、それでも気体の透過と放出を完全にゼロにすることはできません。さらにチャンバー全体を高温で焼き付けて吸着ガスを追い出す「ベーキング処理」を行う際、ゴムの耐熱温度が上限となるため、配管全体を極端な高温にさらすことができないという制約が生じます。

これらの限界により、NW配管が対応できる真空度は概ね10のマイナス6乗パスカル台が限界となります。これ以上の超高真空や極高真空(10のマイナス8乗パスカル以下)を必要とし、かつ数百度の過酷なベーキングを行う粒子加速器や表面分析装置などにおいては、Oリングの代わりに無酸素銅のガスケットを金属エッジで食い破ってシールする「ICFフランジ」規格を使用する必要があります。

配管の構築

NW規格はその圧倒的な着脱の容易さから、単なる直管だけでなく真空ネットワークを構築するための多種多様なモジュールが用意されています。

気体の流れの方向を変えるエルボ(L字管)、流路を分岐させるチーズ(T字管)やクロス(十字管)、長さの異なる配管を接続するフレキシブルホース(蛇腹管)など、末端がNWフランジで統一されています。これにより直感的にかつ工具なしで巨大な真空排気ラインを構築し、構成を容易に変更することができます。

またチャンバーの壁面に直接NW配管を接続するための「バルクヘッドクランプ」や、NW規格のフランジに直接溶接された真空バルブ、真空計(ピラニ真空計や電離真空計)、さらには電気信号を真空内に導入するためのフィードスルーなど、あらゆる真空コンポーネントがNWインターフェースを備えており、標準の共通プラットフォームとして機能しています。

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